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ぼくの攻略スキル

 草加さんが言っていたことを考えているうちに授業が終わる。なんて学校の授業もそんなに楽なわけじゃない。ボーッとしていれば先生に指名されることもあるし、黒板は写しとかないと試験では一苦労する。

 だからぼくは授業を真剣に受けていた。凛とした態度で先生の話を聞き、黒板はしっかりと写している。そりゃもう、ガリガリと勉強していた。


「……えーと、川島くん?」

「…………」

「か、川島くん?」

「…………」

「…………?」

「…………」


 今思えば仕方がなかったといえよう、吉川さんの声が聞こえなかったのは。



「何しているんですか!」


 ぼくは先に待っていたと思われる草加さんに出会い頭、そんなことを言われた。

 今日はのどかな昼休みだと思っていたのに……。

すべての授業を真面目に受け、四時間目の授業が終わり、肩の力を抜こうとした時、席を立った草加さんにちょいちょいと肩を小突かれ、彼女のあとを追っていくと四階の隅だった。


 ほとんどの生徒たちは売店に行っており、ほぼ物置と化しているこの階に人は滅多に来ない。

 四階の隅、正確に言えばそこは地学倉庫という名の教室だった。棚などは埃で覆われていて、最近は人に使われてすらいないようだ。もはやこの教室の存在すら忘れられているのかもしれない。

 そんな教室の中、いきり立った様子で言われたのがそんな言葉だった。


「いや……、何してるって言われても……。真面目に授業を受けていただけですが……」

「確かに真面目に授業を受けることは悪いことではありません。いえ、良い事です」

「でしょ?となりが吉川さんなんだから、いいところを見せたほうがいいし」

「ですが!」

「ですが?」

「やりすぎですっ!」

「ハハハ、そんなまさか……」

「もしかして吉川さんが話しかけていたの、気付いてないですか?」

「えっ」


 それは本当か。というようなニュアンスで尋ねる。うわー、マジか。気付いてないよ。


「はあ……」


 頭を痛そうに抱え、ため息を吐く草加さん。そんなダメだこいつみたいな目で見られても。


「とにかくですね、やりすぎですよ。まあ恋は盲目というほどですしね」

「この場合、恋は難聴だね」

「誰がうまいこと言えと言いましたか」


 先ほどより大きなため息を吐いている草加さんは、ゆっくりと腕を組んだ。


「……このままじゃあまったく進展できませんよ?」

「そう?」


 とぼくが疑問に思い、続ける。


「大丈夫なんじゃない?実は友達に田村ってやつがいるんだけど、あいつも協力してくれているし。あっ、と言ってもそれほど熱心に協力してくれているわけじゃないけどね。それでも、あいつがいると吉川さんともうまく話せる気がするんだ。それに今は草加さんもいるしね」

「へっ?」


 唐突に名前を出され、驚いた様子をする草加さん。


「だから、草加さんがいて助かるなーって話」

「~~ッ!」


 瞬く間に表情の色は変わる。とても真っ赤な色に変わっていた。あーそりゃ、面と向かってお礼言われたら恥ずかしくはなるよね。言ってるこっちもちょっと恥ずかしかったし。


「あー、恥ずかしい事言っちゃったね。ごめん、忘れていいや」


 埃っぽい部屋を見回しながら応える。すると草加さんは、俯きがちだった顔を上げ、ぶんぶんと首を左右に一往復させると、蕾が開くような笑顔で答えた。


「いいえ、忘れませんっ」

「いや、忘れて欲しいんだけど」ときっぱり言い放つぼく。

「…………」

「…………」

「なるほど。吉川さんに好かれない理由がわかりました」

「なんで⁉」

「なんでもないでーす」

「えー?」

「幸せな奴を見ていると腹が立つってことです」

「……それってぼく?」

「はい」


 頷く草加さん。うわー、肯定しちゃったよこの人。ま、気持ち悪いも褒め言葉、それがぼくの格言だ。


「ところで川島さん」

「なに?」

「私の目的って何かご存知ですか?」


 腕を組んだまま、口を垂れるようにする草加さん。その質問を聞いてぼくは早朝の出来事を思い出した。


「目的って……。自分の順位を上げたいんじゃなかったっけ?」


 そうなのだ。彼女は今朝言っていたはずだ。もっと幸せにしろ、と。そのためにもぼくに協力して、傍にいることで、まるで感染するかのように、自分の順位をあげるという寸法じゃなかったのか。


「それもあります。でもそれは些細なことです」

「それも?じゃあ他にも?」

「はい、もう一つあるんです。それは……」


 言いかけたところで、少し間が空いた。そして一瞬うつむいた顔を持ち上げる。


「この学校で一番幸せになることです!」

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