町封鎖
その男、大久保の拳は空を切った。唖然と立ち尽くす大久保。その目の前に立つ俺。俺は思わずドヤ顔になりそうなのを必死にこらえた。辺りの悲鳴は歓声に代わる。
「どうした?その程度か?大久保。」
俺は駅での襲撃以降、異常なほど身体能力が上がっていた。理由は分からない。ともかく、以前は大久保のパンチを受けて力なく吹き飛ばされた俺だったが、今は俺が挑発する立場になった。立場逆転。
「この…、喰らえ。」
大久保はパンチを繰り出すもかすりもしない。かわす度に歓声が沸きあがる。俺は飽きたから、終わらせることにした。大久保は俺の顔に右ストレートを放った。俺はいとも簡単に右手をつかみ、後ろに受け流し、大久保と俺が入れ替わったところで、大久保の背中に蹴りをかました。勢いで大久保が机に頭を打つ。そして、動かなくなる。ふと、やりすぎたことに気付いた。
「大久保ぉぉぉぉーーーー……。なんだ、これは…。何が起こった?」
担任は怒鳴り声の後、素っ頓狂な声を上げた。担任が見たのは、机の合間に埋もれて気絶した大久保とそれを見下ろす俺の姿だった。
事の収集に1日のすべてを費やした。それもそのはず、校内1の暴力生徒が1生徒に過ぎない俺に倒されたとなると、教師たちは俺がスタンガンか何かを使ったように思うだろう。現に持ち物検査があった。しかし、当然のとこながら何も見つからず、俺の危険物持込み疑惑は晴れた。
しかし、大久保は俺のことがもっと憎らしくなったようで嫌がらせが多発した。上靴の中にカミソリ、机の中にカッターなど、陰湿なものだった。だが、俺はすべて回避した。どうやら第六感も上がったようだ。そのころから、嫌な予感がし始めた。日に日に強くなっていった。
そんなこんなで数日が過ぎ、予感は的中する。あの犬が町に現れた。そして10人目の被害者がでた。杉山だった。まさに衝撃の事実だった。ただシリウスは、魂が抜き取られ空っぽの状態だ、と言った。その言葉を聞いて少し安心した。
次の日。俺も予測していない事態が起こった。ある意味、人災かもしれない。
「政府は緊急事態宣言を発令し、例の黒犬がいる町を封鎖し出入り禁止にする考えをまとめました。」
学校から帰ってくるとテレビをつけるとニュースのキャスターが表情一つ変えずに言う。
町が封鎖された。あの黒犬と同じ檻の中、ということになってしまった。どうせだから、こちらから出向いてやろうと、俺はシリウスとともにあの黒犬を探し始めた。
そして、物流は途絶え、バスも電車も無期限運休。しまいに、この地区に住んでいる人はみんな悪者にされてしまった。それからというもの、町は物騒な連中が現れた。そいつらはライフルやら、ショットガンやら担いだスナイパー達だ。しかし、数日たつとスナイパー達の姿が見えなくなっていた。思うに、彼らは犬を狙っている間にやられたのだろう。
……頼むから、あいつを強大にさせるようなことはやめてくれ。
連日、外部から集うスナイパーたちを見るたび思う
俺は、シリウスとともにあの黒犬を探し続ける。