悪魔と魔犬
魔犬は俺を乗せて黒犬の攻撃をかわしていく。俺は魔犬が折り返す度、落ちそうになるのを必死にこらえた。文句を言いたいのは山々だったが、今はこらえるしかなかった。
すると魔犬は、急加速して病院の外に出た。俺は気に留める暇もなかったが、魔犬に乗っているとき黒犬の攻撃がはずれて、病院の入り口を破壊していたのだった。
外に出た俺と魔犬を追って黒犬も外に出た。魔犬は驚異的な脚力で向かいの3階建ての建物の屋上に上った。ひとっとびだった。しかし、魔犬は折り返した。俺は思わず、え?っと声を漏らしたが、魔犬は気に留めなかった。そして俺は魔犬と雲一つない星空へ躍り出た。しかし、悲劇はまだ続く。なんとシリウスは俺を空中で振り落した。何やら言ったような気がしたが、俺はその前にあることに気付く。顔を進行方向に向けると、黒犬がいた。しかも口が青白く光っている。
ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバいヤバいヤバ……。
俺はどうこうする前に黒犬に衝突していた。それと同時に意識が飛んだ。文字通り死んだと思った。
しかし、俺は目を覚ました。どうやら次の日の朝。ベッドの隣に黒い物体がある。なんだろうと思って体を起こして、見たが焦点がなかなか合わなかった。約30秒間、俺は黒い物体を見つめた。そしてようやく焦点が合ったころに、魔犬だと気付く。魔犬は足を折りたたみペシャンコになっていた。どうやら眠っていたようだ。
「昨日は手荒なことをしたな。相棒、済まなかった。」
魔犬は俺を空中に放り出したことを詫びた。
「……、それであの犬はどうなった。」
俺は魔犬の謝罪にどう返せばいいのか分からなかったから、話の方向を変えた。
「あと少しだったが、消えた…。逃げられた…。」
魔犬の声に落胆の色が見えた。
「…そうか。ところであいつはいったい何者だ?」
また反応に困り、話題を変える。俺はコミュニケーション能力の低さに気が付く。
「あいつはもとは俺と同じ魔犬だ。しかし、力を欲しがり悪魔に魂を売った。そして、力を得た。」
それから、魔犬はあの犬のことについて長々と話し続けた。
短くまとめると、あの犬と悪魔は力と魂を交換した。それ以外に悪魔は特定の10人の人間の魂を要求した。なぜ人間なのかは魔犬も知らないようだが。それからはもうあの犬の体も悪魔の物だ。そうなると、問題は一気に世界へと発展する。それほどの力になるようだ。
一通り話し終わると、俺は質問した。なぜそんなに詳しいのか、と。
「魔犬の伝説だ」
と、魔犬は答えた
「…一つ。俺から頼みごとがある。」
しばらく、流れた沈黙で、魔犬が口火を切った。それから、こう続けた。
「俺に協力してくれ。昨日から相棒と呼んできたが、相棒自身はそれでいいのか…?」
結局は、魔犬の思うつぼのような気がしてきた。さっきの話を聞いてしまった以上、この魔犬に協力せざるを得なくなった。それに、この犬には借りがある。
「仕方ないな。協力するぞ、シリウス。」
魔犬は誰のこと?と俺を見る。
「お前以外誰がいる?」
俺とシリウスに笑顔がこぼれた。