相棒
「で、お前は何者だ?」
やっと気になっていたことを聞けた。
「あんたの魔犬だ。」
「は?誰が決めた?俺はあんたを飼う言った覚えはないぞ。」
魔犬は首を横に振る。
「はあ、強情だな。あんた、そのうち死ぬぞ?」
何でそんなこと言えるのか聞きたかったが、また魔犬節。話をゴタゴタにして丸め込もうとする。
「あんた、あの犬に狙われてるぞ。俺の後ろを見てみろ。」
魔犬越しに奥を見ると、自動ドアの奥に禍々しい気を放っている黒犬が居る。
黒犬は自動ドアを蹴破った。警報が鳴る。警備員が駆けつけたが、黒犬の無言の威圧に飲まれ、近づこうとしない。
「やばい!」
「見つけたぞ。お前の魂、いたたくぞ。」
黒犬は魔犬を飛び越して俺に飛びかかる。間一髪で黒犬の爪をかわした。警備員達はもちろん、黒犬も驚いた表情を見せた。しかし、一番驚いたのは俺自身だった。いつの間にか身体能力か劇的にあがっていた。
それからも数回、黒犬に攻撃をされたが、俺にかすることもなかった。
何かよく分からないけどこれはまぐれじゃない。
「なぜだ。なぜ、攻撃が当たらない?」
黒犬はいきりたった。
俺は魔犬に目をやると、黒犬の隙を伺っているが、ただそれだけ。
蛍光灯が点滅し始めた。1本なら分かるけど、病院のロビーの数十本、すべてが同時に。
黒犬の口が青白い光で満たされていく。蛍光灯の色。すると、青白い閃光が俺にめがけて一直線に走ってくる。俺は横に飛んで奇跡的に直撃しなかったが、体がしびれて思うように動かなかった。蛍光灯の点滅は止まり光ったままになった。
「直撃しなかったか…。だが、痺れてるな。終わりだ、人間よ。俺はお前の魂を取り込んで強くなる。さあ、俺の糧に、力になれ。」
黒犬はゆっくりと近づいてくる。俺の体はまだ動かない。それでも黒犬は近づいてくる。一歩また一歩と近づいてくる。
「ふふふ。…ふははははははは。やっと、やっと最強になった。」
黒犬は勝誇った顔で俺にのしかかり、文字通り牙をむく。次の瞬間目の前の犬が消えた。警備員のざわめきも聞こえる。死んではいない。
「大丈夫か、相棒。」
…相棒?まあ、いい。助かった。
無理矢理、顔だけ起こすと足の所に魔犬が居た。魔犬が黒犬を吹き飛ばした。
「邪魔をするな!」
黒犬は後少しの所を邪魔されて、怒りは頂点に達し、低い声で怒鳴った。魔犬は更に黒犬にタックルをかける。黒犬は吹き飛ばされ、壁に激突した。壁にヒビは入ったが目立って壊れた様子はない。
俺は痺れて動かない体を何とか起こした。
「立てるじゃねーか。乗れ、相棒。」
魔犬が俺の横に寄りながら言った。
馬にも乗ったことがないのに、犬に乗れるのか?あと、足が上がらない…。
「この…、まだだ。」
黒犬はふらふらとした足取りで立つ。
「しつこいな…。相棒、悪いが無理にでも乗せる。」
と、言って俺の目の前に後ろ向きで立つとお座りの姿勢で後退して、胴体を俺の足の間に滑り込ませると、ひょいと立ち上がる。無理矢理過ぎる方法だが取りあえず俺は魔犬に乗った状態になった。思いの外安定している。