再会
目が覚めてして3日目。襲撃から2週間経ったようだ。
闇の中で時間の感覚を失ってしまったが、あれは2週間の長さでは無かった。一年以上は眠り続けたように思えた。
今頃になってあの黒犬のことを思い出した。
白い雪に浮かぶ黒。どことなく禍々しい雰囲気。あの大きな体。四つ足でも100㎝はあった。その気になれば乗れそうな気がした。
ボリュームのない昼食後、窓側に行って空を見上げた。
3階から見える蒼い2月の快晴の空、昼下がりを告げる西に傾き始める太陽。俺の脳裏に朝の天気予報のアナウンサーの声がよみがえる。珍しく外さなかった天気予報。
「今日は一日を通して青空が見られるでしょう。」
不意に胸騒ぎがした。理由はすぐに判った。
車が入っていない、真っ白な駐車場にいる真っ黒な犬。
腹の傷が疼く。頭痛がする。めまいもする。犬がこっちを向く。睨んでる気がする。傷が更に疼く。動悸が激しくなる。
俺はベッドに戻った。震えてる。止まらない。寒気がする。
しばらくして、頭痛やめまい、寒気が落ち着いた頃。突然ドアが開いた。
「隆一…。ああ、良かった。」
「親父…。」
入ってきたのは俺の親父だった。彼は俺を見つけると駆け寄ってきた、狭い病棟で。
「済まない、お前のそばにいてやれなくて…。」
「別に良いよ。死んだわけでもないし。」
俺の家は親父と弟というむさ苦しかった。母は次男、つまり俺の弟が1歳の時に離婚した。その時俺は5歳だった。理由を聞くと、大人の理由だから、とあしらわれてしまった。結局は不倫だった。どっちのかは知らないけど。
「出張をできるだけ早く切り上げたんだろ?それで十分だ。」
事情は目覚めた日に主治医から聞いた。
2時から面会終了の5時ギリギリまで居た。何するわけでもないのに。
そんなこんなで鬱陶しい親父だったが、親父の顔を見ると笑顔が綻んだ。
それもそうか、しばらくあの家に帰って無いからな。優勝は元気だろうか。
親父が帰った後だったから聞けなかった。
それから少し後、俺はどうしても炭酸飲料が飲みたくて、1階の誰もいないロビーの自動販売機でコーラを買った。ふと玄関を見ると黒犬が居た。不思議と傷が疼かない。頭痛もめまいもしない。
犬は自動ドアをくぐってのそのそと近づいてくる。
俺は身構えた。が、犬は俺の前で止まった。