ファーストコンタクト
俺はいつもの駅から電車に乗った。席に座りイアホンを耳にかけて、ポータブルミュージックプレーヤーで音楽を再生した。相変わらずリズミカルな曲だ。それから間もなく、突然音楽が途切れて耳が涼しくなった。
「よう。榊原」
声のする方を向くと同じクラスの杉山大地が向かいに立って居た。背は170㎝と言っていたがそれを見上げる瞬間が俺を劣等感に追いやる。
「お前か。威かすなよ」
彼の手の中には俺のポケットから伸びてるイアホンがある。彼は「わりぃ」と笑いながら言ってイアホンを差し出した。俺も笑って受け取った。
「そう言えば、一週間前から殺人鬼が出てるみたいだな…」
何で今そんな話だ、と疑問を持った。
杉山は殺人鬼と言ったが、死んではいないものの未だに意識は戻っていない。被害者は左右の肩に一カ所ずつ深い刺し傷があるが、不思議と血痕が少ないらしい。
「死んではいないみたいだよ?」
「でも、怖いだろ?犯人は犬みたいだし…。て、事は殺処分か?人には情状酌量ってあるけど犬にはないもんな…」
杉山は寂しげに言った。
彼は犬が大好きで家に3頭はいるはずだ。
人が死にそうだ、次は俺かもしれないと言う時に犬の方を心配する杉山を見て俺は少し腹が立った。俺は真顔で質問を投げかけた。
「じゃぁ、犬の殺処分と俺が犬に殺されるのとだったらどっちが嫌だ?」
杉山は一瞬たじろいだ。が、その後即答した。
「そりゃ、お前に死んで欲しくないに決まってるだろ」
その言葉を聞いて少し安心したよ、と思いながら、そうか、と短く答えた。
駅のアナウンスが俺の降りる駅を告げた。
「あ、俺この駅だから。じゃあな」
「おう、また明日」
そう、別れて 俺は電車を降り、改札を抜けて駅を出た。 学校と隣町の中間の田舎で、いつも通り、人気はない。
バス停さえないロータリーの中にサラリーマンとおぼしき男が倒れていた。見かけるだけならお疲れさまです、と思うところだがそうではない。
嫌な予感が俺の頭をよぎる。俺は慌てて駆け寄って、かがみ込み大丈夫ですか?と声をかけた。が、返事がない。
左肩に手を当てると、嫌な予感が的中したように思えた。実際そうだった。手に血がべっとりと付いた。まさかと思って右肩に手をやると案の定血が付いた。しかし、雪に付いた朱は少々だ。
鞄から携帯電話を出して、救急に通報した。
ふと、顔を上げると俺は目を疑った。
降り始めた雪で白くなる視界の中に真っ黒な何かがいた。人ではない。なんだ、あれは?
答えを知り恐怖が俺を襲う。例の犬だ。四本の脚でのそのそと近づいてくる。
「人の臭いがする。敵の臭いだ…。」
犬が言ったように思えた。
俺は思わず立った。何か武器、いや身を守る物。俺は辺りを見渡した。そうだバッグ。俺は肩に掛かってるエナメルバッグを右肩に持ち替えた。犬は俺に向かって飛びかかってきた。