決意
「何だ?こいつは……。」
俺とシリウスは絶句した。その中で発した言葉がこれだけだった。
「ただの悪魔だ。この犬はよくやってくれた。最後に大量の魂を我が前に差し出した。しかし、彼の犬は砕かれた。哀れな。」
犬を模した液体は言った。そして、悪者の暴露は続く。それを俺たちは興味本意で聞いた。
「この犬は自らが得た力に耐えきれず、自壊した。まあ、よくあることだがな。これで、この世界を自由に移動できる。」
俺はふと、魔犬に伝わる伝説を思い出した。それを聞いたときに引っかかっていたことが蘇った。
なぜ、悪魔は自分が不利になる条件の取引をするのか。
なぜ、人の魂でないといけないのか。
なぜ、悪魔は魂を指定するのか。
なぜ、俺が選ばれたのか。
それと、伝説から離れていたところにもう一つ。魂はその後どうなっているのだろう。
その全てが謎に包まれていたことを忘れていた。しかし、あの闇が答えかもしれない。
「今、君はいろいろと疑問に思っているようだな。ただ、答えより先にいくら疑問に思っても無駄なことがわかる。」
つまり、俺は死ぬか魂を奪われるかする、と言うことか。
その答えは火を見るより明らかだった。犬は液体になって水たまりのようなものになる。その水たまりから爪やら刃やらが飛び出してくる。それを、シリウスは軽い足取りでかわしていく。しかし、水たまりは広がり続け逃げ場を失いそうになる。
「シリウス。跳べ。向こうのビルだ。」
シリウスは無言で頷き隣のビルの屋上に飛び移る。液体も飛び移ってくる、バケツから投げられた水のように。もっとも、そんな可愛いものではないが。再び悪魔と俺たちは対峙する。
「チッ、越えるのか。」
シリウスは忌々しげに舌打ちする。
「ホントは分かってただろ?それよりも、こいつをどうにかしないとな。」
「ああ。ただ、どうする?」
「…賭けるか…。シリウス、このままビル伝いにまっすぐ走れ。追って指示する。」
「了解。」
本当に賭けになる。この世界は俺のものではないが、俺の一存で賭けに出した。もちろん成功する保証もない。ただ、自分が運命を握っているのなら、何もせずにはいられない。
「道路に降りて、次の交差点を右。その次を左。」
シリウスは俺を『相棒』と呼ぶ。最初はそれが嫌だった。しかし、命を救われた恩もある。それ以上に、今は俺にとってもこいつは『相棒』だ。そうじゃなかったら、名前も付けない。
「その道をまっすぐ川沿いを走れ。」
友達の杉山の仇も討ちたい。優勝と親父は無事だろうか?
いろいろと思ってるうちに、俺たちは火の気がないところに出た。春先の生暖かい風も、季節外れで常識外れの暑さに慣れた体には寒く感じた。
「止まれ。」
「なんだ?何するつもりだ」
「ここで最終決戦だ。」
シリウスが目にしたのは、規制線が張られたガソリンスタンドだった。




