千文字現代ループ
今日見た記事からインスピレーションを受けました。
◯と◯で∞は使い古されてますが好きなモチーフです。
1000文字縛りきついけど楽しい。
「23万か、 たかが金属と石に」
質素倹約をモットーにしている彼女が欲しがった結婚指輪は、結構な値段だった。
「さっき楽しく指輪見てくれてたじゃん」
よほど高い指輪がほしかったのか、その場で俯く。
「じゃあ、4万円のは。 あれも気に入ってたし」
少しだけ無理をした笑顔で唯が言った。
彼女がそう言うなら、尊重して4万の指輪にしよう。
歩み寄ると、視界がふつりと切れた。
俺は妙な模様の天井と、薄汚れた照明を見ていた。
どこかの民家だろうか。
「唯?」
暗がりから疲れた顔つきの年老いた唯が現れる。
「何、変な顔して。 おむつ替える?」
俺は足を失っているようで、横たわったままうまく身動きがとれない。
「糖尿なんて自業自得でしょう」
おかしい。
唯は健康に気を使える家庭的な女だったのに、糖尿?
急速に年老いた俺の記憶が蘇る。
新婚なのに頻繁にため息をつく唯を見たくなくて、
俺は外食と女遊びを繰り返した。
唯は変わらずついてきてくれたが、
不健康な生活は俺の体を蝕んだ。
唯の態度は硬直していき、
体調を心配する言葉も、小言に聞こえるようになった。
絶望した俺は、人工透析をばっくれて死んだ。
死んでもまた戻るのはあの奇妙な天井だ。
体調に変化はないし、足もない。
何とかして自殺しても、
老衰で死んでも、
目を覚ますとあの天井が見えた。
唯はずっとため息をついて俺をいらつかせた。
何度死んでも、この絶望に戻ってくる。
奇妙なループを抜け出す方法はないのか。
一つ一つ必死で思い出し、一つの結論に至る。
唯は、いつも手元を見てため息をつく。
「あの時、高い指輪を買わなかったから……?」
唯は訝しげにこちらを見る。
「……指輪見てると、思い出すね。 でも値段じゃないんだよ。 覚えてたんだね」
「今から買いに行くぞ! 在庫があるかも!」
俺は慌てて指輪を買いに走った。 唯の運転で。
あの店はまだ続いていた。
位置は少々変わっていた。
「指輪をください!」
俺の視界はまたふつりと切れた。
眼の前には店から出たばかりの唯。
それに何より、足の感覚がある。
戻ってきた!
「もっと高い指輪でもいい!」
そう言ったらまだ若い唯が笑った。
「もー。 値段じゃなくてあれが気に入ったの!」
ケチった指輪はとんでもなく莫大な負債を産んでいたのだ。
この笑顔が少しでも保てるなら、23万など安いものだと思った。
「お買い上げ誠にありがとうございました」
購入すると夫婦円満になると噂の店で
店主はにこりと微笑みながら二人を見送った。




