第5話 体育
翌日、起きるともう8時だった。
ここから学校までは十分の距離、とはいえ流石に寝過ぎだ。
慣れない環境だと普通あまり眠れないものだが、今回は逆に寝過ぎてしまったのだろうか。
昨日の俺が思った通り、熟睡で来たようだ。
よほどあの布団は上質だったものらしい。
しかし、寝過ぎも良くない。俺は布団を強引に引き離し、起き上がった。
そして、着替えを澄ませリビングへと向かうと朝ごはんが置いてあった。
そこには書き置きが一枚。『先に学校に行ってます。食べておいてください』と書いてあった。
学校に行くには早すぎる時間だが、成績優秀な彼女の事だ。きっと、自習でもしているのだろう。
俺はそこに置いてある食パン――ピザのような感じで焼いてある――をかじる。
中々美味しい味だ。
朝ごはんという感じがして美味しい。
そして俺は家を飛び出し、学校に向かった。
学校にぎりぎりで間に合わせると、美羅が調子よさそうに俺の元へとくる。
「ねえ、どんな感じだったの?」
そう、美羅が訊いてきた。そう言えばこいつとの電話、急に切ったんだっけ。
しかも、女の人と同居しているという誤解(誤解じゃない)をされたまま。
「ああ、良い感じの部屋に、良い感じの寝床だったぞ」
あくまで前原さんの話はしない。
そして美羅にも昨日の謎の同居者については忘れておいて欲しい。
「へー、いいなあ。やっぱり行ったらだめ?」
「だめに決まってる。もう少し待ってくれよ。俺が女の子を連れてきたらややこしいことになる」
少なくとも前原さんにどう説明したらいいんだよ。
「という事は、同居人は女の人?」
「おばさんだ。そしてお前を連れてきたらややこしくなるというのは、お前が俺の彼女だと勘違いされるからだ」
そして前原さんを見る。今日は失恋相談しているらしい。「大丈夫よ。きっと合わなかっただけだよ。元気出して!!」などと、勇気づけている。
思い返してみると、彼女はいつも他の人を慰めている。
やっぱりお人好しすぎる。
「もしかしてターゲット変えた? 智也くん」
美羅が唐突に俺の前に顔を出して言った。
顔が近い!!
「いや、今日も相談乗ってるなって」
「へー好きなわけではないんだ」
そうニヤニヤとする美羅。殴るぞ。
「でも、狙ってもいいかもよ。今彼氏さんいないみたいだし」
「……別に狙わん」
確かに、1番前原さんに近い場所にいるということは否定できんがな。
「というかさ、昨日の謎の女性って前原さんだったりする?」
くそっ、勘づくのが早え。
「だからさあ、言っただろ。昨日ののはおばさんだ」
「でも二人で暮らすんじゃなかったっけ」
「親戚のおばさんだったんだ」
苦しい言い訳だと俺も分かっている。
「怪しいなあ」と、美羅は俺をジト目で見る。
くそ、これ以上は隠し通せないか。
「前原さんをじっと見てるのは一昨日の件のことがあるから」
「あーなるほど」
ほっ、ようやく納得してくれたか?
とは思ったが、みらの表情を見ると、まだまだ予断は許さないだろうと安易に予想できてしまう。
そして体育の時間になった、今日は女子を担当する体育教師が休んでいるため、男女合同の体育となる。
今日はバスケットボールをするというものだ。
男女子合同バスケットボール。男女差が出るので得点の際、女性が決めた場合は高い点数となる。
それも三倍だ。
「私に回して―」
そう元気に言うのは、美羅だ。実のところ美羅は運動神経が高い。
部活でテニスもやってたりするのだ。
だからこそ、男子並みの運動神経を持つ。……そのせいで美羅は女子枠から外されてしまったけど。
「さあ、どんどんこい!」
そう元気で言う。まあ、下手な男子よりは運動神経があるからな。
そんな美羅をじっと後ろで見ていると、
「ふう、みんな元気ね」
話しかけられた。前原さんだ。
話しかけられる瞬間学校でも話しかけてくれるんだと、すこしびっくりした。
「そんなびっくりしないでよ。私だって、仲良くなりたいし」
仲良くなりたいというのはクラスメイトだからなのか、同居人だからなのか。
「そうだな。前原さんは手抜きモードか?」
「いえ、そうでもないわ。でも、飯原さんが本気になっているし」
「そういう事か。だから今日は自分がでしゃばるほどでもないってことか」
「そうね」
こういう会話をしているという事は少し心を開いたってことか。
そんな話をしているうちにまた試合が再開する。
もちろん今は美羅が全力で動いている。だが、だからと言ってサボっていいわけではないのがだるいところだ。
俺も少し動き出す。
運動神経がそこまでは高くない俺だが、ディフェンスで相手の動きを乱す程度のことは出来るだろう。
そして俺は頑張ってサポートをし、最後は前原さんが美羅へとパスし、ゴールを決め勝利した。
俺も少しは戦力になっていただろうか。
そして休憩している間、CチームとDチームが戦いあう。
俺たちのクラスは人数が多い。だから四チームに分けたのだ。
そして、幸原さんもCチームにいる。
彼女は今何を思っているのだろうか。
彼女はそこまで活発ではない。だから前半の俺と同じで、頑張ってディフェンスをしているみたいだ。
その姿も健気で可愛い。
失恋をし、その後色々なイベントがあって忘れかけていたが。
俺はやっぱり、彼女の事が好きだ。
「やっぱり諦められないのね」
そう、背後から話しかけられる。前原さんだ。
「うん」
俺は首肯する。
俺は諦め切れていない。一度拒絶されたというのに。
「二人で何を話しているの?」
美羅が俺たちのそばに来た。
「俺が幸原さんを諦め切れないという話だ」
「なるほどね、てかそんなに仲良かったっけ」
「一昨日慰めてもらったからな」
「ふーん」
そして俺は前を見る。
幸原さんの勇姿を目に焼き付ける俺は、周りからどう見えているのだろうか。
こんなことを考えては行けないが、同居人が告白前の幸原さんだったらよかった。
そうタラレバを考えてしまう。
そんなIFはないというのに。




