第33話 美羅の嫉妬?
「それでなんだけど」
緑が口を開く。
「ちょっと考えさせて」
「考える?」
「うん。私の中の矛盾」
さっき俺が言ったことを指しているのだろう。
「分かった」
俺はそう、頷いた。
そう言えば溺れたのは、俺が難しい問答を口にしたからだったな。
「でもね、私。智也君とならそうなってもいいのかなって、勝手に思ってるんだ」
「俺と恋仲になることを?」
「うん。カップルの営みはしたくないけど」
カップルの営み。
キスとか、その先にあるセックスとかの事だろう。
「安心してくれ。俺はそう言うのを求めていない」
人並み程度にしか性欲的なものはない。
勿論ここで言う人並みというのは、性欲の権化みたいな人間を抜いた場合だ。
それにそもそも俺の思う恋人関係というのは、そう言うエッチなことをするようなものじゃないのだ。
「だから、安心して欲しい」
そもそも、緑さんと付き合いたい、というのは俺自身が勝手に思っている事なんだから。
そう考えれば、恋人になる意味は何なのだろうか、とふと思う。
だけど、それは俺が緑を独占したいからなんだろうな、と思った。
「ありがとう」
そして緑さんは、バタ足で、浮き輪を動かす。
少し不安定な格好だ。
「また溺れるなよ」
「分かってる」
そう言って緑さんは泳ぎ出す。
「おー、言ったねえ」
そこに、美羅が現れた。見るからにニヤニヤしている。
「何だよ」
「別に―、結構いい感じで攻めてるじゃん」
「っまあな」
攻めてる、っていう表現で本当にいいのかどうかは分からないところだが。
でも確かに、俺の緑攻略への道は進んだと言ってもいいだろう。
「それよりさ、智也」
「なに?」
その瞬間、美羅は俺の手を掴む。
そして、俺が反応できない速度で咄嗟に、自身の胸を触らせた。
「なにすんだよ!!」
俺は叫ぶ。
まさか、自分から胸を触らせてくるなんて、全くもって思っていなかった。
「そりゃ、胸を触らせてあげようと」
「俺は男女の営みをしたいわけじゃないって言ってんだろ」
「えー、いいじゃんいいじゃん」
「だめだよ」
はあ、こいつは何て痴女なんだよ。
「じゃあ、これは?」
「え?」
気づくのもつかの間、キスされそうになった。
俺は美羅を強く推して、後ろに下がる。
くそ、油断も隙も無いやつだ。危うく、公開キスまでされそうになった。
美羅は、自分の性別に、というか女であることに対して執着がないのだろうか、とふと思った。
美羅は気軽に俺に胸を見せたりとかいろいろなことをしてくる。
それは、男友達である俺に対してだけだ。
「お前はさ、俺を女だと思ってるだろ」
「え? 思ってないよ?」
なぜ今の流れで、何言ってんの? みたいな雰囲気で返されなきゃならないんだ。
「智也は男でしょ」
「そのわりには、俺に対しての行動がさ、同姓にするようなことなんだよ」
「そりゃそうだよ。私は智也の事を男だと思ってないから」
そう言って歯をむき出しに笑う美羅。
こいつ、相変わらずだな。
未だにこいつの性格がいまいちつかめてない。
こいつと何年一緒にいるんだっていう話だけどな。
だけど、そう言えばだ。
こいつは最近そう言うのがしつこくなってきていた。
もしかしてこいつ。
「美羅って嫉妬してんの?」
俺は、自分の中に芽生えた疑問を口にした。
何しろ、美羅のここ最近の異常だ。
前までそんな事一切なかったのに。
美羅の感情に変化が及んだのだろう。
「そんなことないって、何言ってんの?」
美羅はそう言うが、その顔を見ると、
うん。図星を突かれたかのような感じがする。
俺が今行ったことが正解だったという事らしい。
「美羅、それならそうと言ってくれればいいのに」
「そんなことないって、馬鹿」
そう言って美羅は、俺の元から去っていく。
何なんだよ一体。
嫉妬してるなら、嫉妬してるって素直に言ってくれたらいいのに。
いや、これはそう言う事なのか?
そう俺は思った。
そして、美羅は緑の所に行く。
その代わりに来たのは夢子だ。
「どうしたんだ?」
俺は訊く。
「何でもないわ。ただ、うらやましくなったからよ」
そう言って俺の手をがっちりホールド。
寂しかったのが伝わってくる。
「美羅も、幸原さんも、別のところ行ってたから」
美羅と一緒じゃなかったのか。
「そう言えば、今度家に行く話だけど」
「ええ、そうね。詳しい話をってことね」
流石、夢子。話が早い。
「まずは、お礼を言いたいんだ」
「っお礼なんて言わなくていいわ」
お礼を言わなくてもいい、それはどういう事だろうか。
両親の事が好きではないのだろうか。
そこは、今関あげrことではないという事なのだろうか。
今邪推するよりも、後に思考を回したほうがいいだろう。
「夢子」
「何かしら?」
「俺が夢子の家に行ったら色々とわかるんだよな。お前が笑顔を振り舞う理由」
「ええ、そうね」
分かるとならば、話は簡単だ。
その日を待てばいい。
「分かった。俺は待つよ。その日まで」
「ええ、それがいいわ」
そして夢子は水の中に飛び込み、泳ぐ。
そしてすぐに自ら出る。
「私もそこまで、喋るのが得意なわけではないの。むしろ苦手なの」
「苦手?」
その話は初めて聞いた。
「ええ、私は本来あんな明るい性格じゃないことを知ってるでしょ」
「うん」
俺は頷く。
家では、いつも暗い。最近は俺の事が好きだからか、口数も増えてるが、初期のころはそんな事は無かった。
「私は沈黙が怖いって言ってたでしょ」
「うん」
「それと繋がってるの」
「それは一体……」
「後にわかるわ」
その言葉を踏まえると、そう言う事なのか。
夢子の実家。そこに、夢子がこんな性格になったきっかけが隠されている。




