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失恋した俺は俺にだけ弱い内面を見せてくれるクラスのマドンナと同居をする――これは完璧な彼女を救うための物語  作者: 有原優


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第32話 矛盾

 それからしばらく遅れ、二人がやってきた。


「夢ちゃんずるい」


 そう、緑は不服そうにほっぺをぷくーと膨らませる。


「そうだよ。夢ちゃんだけ不公平!!」


 ミラもまた、思い切り夢子を指さした。


 ミラはなぜ、嫉妬するんだ。


 さてさてそんな感じで三人でのプールが始まっていく。

 まず、俺たちが行くのは、流れるプールだ。


 川ほどじゃないが、緩やかな波を作ることで、浮き輪とかを使っても自動的に流れるようにした、という事らしい。


 そしてそこで、俺たちは泳ぎ出す。

 緑だけは浮き輪だ。

 緑だけは、上手くは泳げないらしい。


 だけど、そこは俺としてはプラス評価ポイントだ。ギャップ萌えする。


「じゃあ、智也君、押してくれない?」


 緑が言う。望むところだ。俺は精いっぱい彼女の浮き輪を押す。

 緑の体重は軽い。浮き輪もいい感じに押されて行った。


 夢子さんが、ずるいと言いたげに唇を尖らせている。あちらを立てればこちらが立たずか。


 これがミラが言っていた事か。

 確かに時間を置けば置くほど、面倒になりそうだ。


 本当は緑が好きだが、夢子さんを失うのも嫌だ。


 これこそが俺の矛盾なのだろうな、と。一人で笑ってしまう。


「私はね」浮き輪を必死に押していると、緑が言った。


「二人切りで行きたかったなあ」

 その言葉を聞いて、俺はどう反応したらいいのだろうか。



 俺はその言葉にどう反応したらいいのだろうか。

 俺は三回、プールに行くべきだったのだろうか。

 でも、そうしたら。


 だから、ミラは俺に決断せよと言っていたのか。

 漫画などではよくハーレムは男の天国だとか言っている。



 だが……今の俺なら思う。


 本当にそれは男の夢なのだろうか。何しろ、今の俺は少し苦しんでいる。

 二人共俺の彼女、とかにできたらいいのだろう。


 だけど、それは現実でやるには不義理だ。

 あれは、漫画とかだから許される行為なのだ。


 漫画とかだったらよく、幼馴染もあとからヒロインレースに入っていくが、ミラは流石にないだろう。

 そこまで言ったら俺はまるで、ラブコメの主人公になってしまう。


 いや、色々と思索をねっている今がいけないのだろうか。

 そう、自分の心に素直になって好きな方を選べばいいのだろうか。

 だけどそれは、あくまでも夢子さんの家に行ってからだろう。そうでないと、選べるわけがない。

 答えなんて、俺にはどうしても。


「難しい顔をしてどうしたの?」

「今度二人きりで行こうか」

「え、いいの?」


 そう、緑は喜んだ。

 もしかしたら、後々夢子にも同じ提案をされるかもしれない。

 そしたら三回行けばいいだけの話だ。




 そして俺は周りに二人がいない事を確認して、「実は」と口を開いた。


「今度、夢子の家に行くことになったんだ」

「なんで?」

「夢子から言われたんだ。本当の私を知って欲しいって」


 その言葉に緑は顔を軽く俯かせ、「それは本当に行かなきゃいけないとこなの?」と言った、

 確かに行くという選択をしたのは俺だが、提案をしたのはあくまでも夢子だ。

 別に俺が必ず行かなければならないわけではない。


 だけど、


「でも、同居人なんだから、行った方がいいだろ」


 俺はそう言った。

 俺と夢子は恋人関係ではない。だけど、同居人。


 そもそも、夢子の好意に甘える形で住まわせてもらっている。

 だからこそ、俺も夢子の実家には行きたいのだ。


「私の家には?」


 緑のその言葉に俺は顔を上げる。


「私の家にも来てよ」


 俺はいっそ言ってやるべきなのだろうか。



「緑は彼女じゃないだろ」


 俺個人としてこれは言っていいのか、軽い葛藤がある。だけど、言わなきゃダメな事はしっかりとわかっている。


「夢ちゃんも彼女じゃないじゃん」

「でも夢子は俺に好きという言葉を言ってくれた」


 その言葉に、緑は少し怒ったような表情をする。


「智也君も結局、恋人の方が大事なの? 女友達の終着点は恋人関係だと思ってるの?」


 やっぱり、さっきの俺の言葉は、緑にとってあまり聞きたくはなかった言葉だったのか。


「俺は、そう言う事が言いたいんじゃないんだ」


 俺は諭すように言う。


「ただ、そうだろ。俺たちは友達なんだから」

「友達じゃあ」

「友達だよ、だけど、緑が求めてるのは恋人関係じゃないのか?」


 そこが、夢子の矛盾だと、思っている。

 そう、恋人関係にはなりたくないはずだけど、恋人関係みたいになりたい。


 恐らく、俺の思っている予想では、彼女は怖いのだろう。

 恋人関係、それも、悪い意味での恋人関係になることを恐れているのだ。


 俺も、その殻を破ってあげなければならないのだ。


「智也君も、そう思うの?」


 寂しげな眼だ。そんなふうに言われるのが嫌なのだろうか。


「思うっていうか」


 思う、と一言で言うのは確実に違う。

 そうじゃなくて、言いたいことは。


「俺ははっきりとさせたいんだ。緑が分かりやすく夢子さんに嫉妬してるんだから」


 嫉妬してるその姿を見るのは可愛い。だけど、矛盾している。

 彼女彼氏の関係になりたくないなら、夢子に俺の彼女になってもらった方が物事が上手く行くはずなのだ。


「私は違うの。そうじゃなくて」


 そう言った瞬間、波が向かってきた。

 この流れるプールでは客を飽きさせないように、波が生じるのだ。

 だけど、今回の場合はそれがいけなかった。


「え?」


 緑がその波によって浮き輪から体が放り出されてしまったのだ。


 そして水の中に放り出される。


「きゃあ」


 緑は水中で必死に犬掻きであがく。

 緑は泳げない。けれど、足がつく程度の水量。決して溺れるはずはないが、それに気づかない程、緑は焦っているのだろう。

 あの様子じゃ、水をだいぶ飲んでしまっているな、と俺は感じた。


 足がつくと教えるよりも、先に救助してしまった方がいい。俺は緑の手を取る。すると、緑は涙目で俺に抱き着いてきた。

 その時に、当然と言えば当然だが、胸が当たる。水着だから、その感触はしっかりとある。



「はあはあ、おぼれるかと思った」


 おれのからだにしがみつきながら、緑が言う。


「あれ」


 次の瞬間にそう言った。


「実は足がつくんだ」

「そう、だったの?」


 と言いながら緑は恥ずかしそうに顔を赤らめた。


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