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失恋した俺は俺にだけ弱い内面を見せてくれるクラスのマドンナと同居をする――これは完璧な彼女を救うための物語  作者: 有原優


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第3話 同居

 家の中に入ると広々としたリビングが俺の目に映った。外装も豪華だったが、内装もかなりのものだ。豪華な感じで、別荘感がある。


 本当に俺はこれからここに住むのか?

 そう思うと少し怖くなる。



 俺がその光景に狼狽えていると、

 前原さんが「もう、春田君の家になるんだから気にせず座ってよ」と、言った。



 前原さんはソファにくつろいでいた。


 なら、と。

 俺はそばのソファーにそっと腰掛ける。


 前原さんの隣はなんだかドキドキとして落ち着かない。

 そもそも俺はなんで前原さんの隣に座ってしまったのだろう。


 ……それは、ソファが一番近くにあったから、だけの理由だけど。


「それで、春田君は、親の都合でここにきたんだよね」


 そう、向かい側のソファーに座る前原さんが言う。


「うん、まあ」

「私も驚いたよ。まさか男の子が来るなんてね」


 ん、男だという事すら聞いてなかった?

 まさか情報の入れ違いでもあったのだろうか。


「嫌だったら別のところを探そうか?」


 俺は、前原さんを気遣うように言う。

 前原さんにとってクラスメイトとは言え、男子と二人暮らしするとなれば怖いところもあるだろう。

 少なくとも俺が女子だったら嫌だ。


「それとも、前原さんは親と住んでるの?」


 前原さんが親と住んでいて、親が今この家に親がいないだけの場合、その可能性だ。

 その場合は俺の不安は杞憂に終わる。


「っ親はいないわ」


 なんだか空元気のような表情で前原さんは言う。その言い方が少し気になってしまう。


「なら本当に二人きりか」俺は立ち上がる。


「やっぱり別のところを探すよ」


 どう考えても厳しい。


「いいえ、別に良いよ。だって、もう今更元には戻せないし」

「いやでも、俺たち異性だぞ」


 流石に前原さんはこわいだろう。


「いいよ。まあでも私の裸見たら嫌だけど」

「それは見ないよ」


 むしろ見たら俺の人権が無くなる。

 俺は変態ではないのだからそんなリスクを負ってまで見たいわけではない。

 そもそもメリットが無いしな。


「本当にいいのか?」

「しつこいよ。いいっ得散ってるでしょ」


 大きな声だ。怒ってるというほどではないが、少しいらいらしているようだ。

 だが、そう言われてしまったらもう何も言えない。

 俺自体は前原さんとの同居が嫌という訳ではないから。


「分かった」


 俺は頷いた。




「というわけで、ルールを決めよう」


 前原さんが手をパンっと叩いて言う。


「ルール?」

「そう、二人で暮らすには必要じゃない?」

「ああ、そうだな」


 ルールは必ず必要になる。それがないと、俺たちにはわからない事ばかりだ。


「まず、互いに部屋は別々なのは当然として、ご飯は一緒に食べるでいい?」

「うん」

「で、ご飯は……」


 色々話し合った結果以下のルールができた。


 互いにお風呂に入ってる時には、洗面所に、入ってますという掛札を掛けておく。これはもちろんラッキースケベを防ぐためだ。

 そして、互いの部屋に泊まらない。これは男女の間違い(キスやハグなども含めて)を防ぐためだ。一緒に暮らすということは、仲が変な形で狭まる可能性がある。

 そうして気まずくなるのを避けるためだ。



 ご飯は、前原さんが基本的に作る。これは俺が料理が下手だからだ。そもそも前原さんはうちの両親から生活費を貰っているからいいということだ。

 学校では一緒に暮らしていることがバレないように、一緒に登下校しない。

 これは学校で変な詮索とかをさせないようにだ。同様に友達を家に呼ぶことも禁止だ。

 襲うこと禁止。これは理由なんて単純だ。前原さんに「襲った場合、警察呼ぶから」と言われた。

 警察というワードを聞くと、怖いと思ってしまう。

 そもそも襲う気などないのだが。

 ゴミ出しは当番を決め、お風呂は俺が用意して、前原さんが洗濯をして――

 そんな感じでとにかく決めて行った。



 まだ穴があるかもしれないがそれは共同生活中に決めて行けばいい。

 そして与えられた自部屋に行く。


 そこは、広い部屋だった。俺の前の家よりもはるかに大きい。

 中に二人くらい寝られるベッドもあり、ソファーもある。

 ましてはテレビもある。

 まさに至れり尽くせりだ。


「気に入った?」

「気に入ったもなにも、豪華すぎて想像以上だよ」

「そ、それは良かった」


 そう言って笑顔になる前原さん。


「じゃあ、ご飯の時に呼ぶね」

「ああ。……少しいいか?」

「何かな?」

「昨日は話を聞いてくれてありがとう」


 そう言えば感謝を伝えられていなかった。

 タイミングがなかったのだ。なにしろ彼女はいつも他人と喋っていたから。


「それは当たり前のことだよ。お礼は素直に受け取っておくけど、そんな気にすることじゃ無いからね」

「ああ」


 やはりこの人は怖い。

 善人すぎる。


「お前それどんな占い屋さんやねん」

「いやいや信用できるねんって、得点圏の宮川くらいに」

「ほな信用できる……訳ないやろが」

「そないこといってやんなよ」

「得点圏打率一割だぞ、スクイズでもした方がましだ」

「ほかにええ例えでもあらへんか?」

「じゃあ、昨年の前田の打率くらい?」

「そりゃもっと信用できへんわ、人を貶さない例えをしなさい」



 そして部屋の中でゴロゴロしながらテレビのバラエティ番組を見る。

 漫才が流れていたので、それをバックミュージックにしてスマホゲームをする。

 余談だが、漫才中の選手の名前は架空の選手らしい。


 なんだか、この部屋になじんできたなと思った。


 もう俺の家になってやがる、この適合力がすごい。

 しかし、前原さんとの共同生活か。本当にやっていける気がしない。

 そもそもクラスメイトとの二人暮らしはもう同棲だ。愛情や友情が無ければやっていけない。


 異性という物はどうしても惹かれてしまうものだ。それこそ兄妹とかでなければ。

 俺は本気でやっていける気がしないなと思うのだ。



 そんな時に、電話が来た。相手は美羅だ。


「やっほー、新しい家はどんな感じ?」


 気さくに言ってくる。


「普通だよ」


 俺はそう答えた。

 普通なんかじゃない。豪勢な家だ。だが、あえて不通と答えておく。


「ふーん。なんか聞こえてくるのって、テレビ?」

「ああ。漫才見てる」

「その家主の人と見てるの?」

「いや、自分の部屋で見てる」

「はあ? 自分の部屋にテレビあるの? どんな大金持ち?」

「少なくとも家はでかいな。俺も正直ビビった」


 美羅の驚きようもそりゃそうだ。

 俺もびっくりしたのだから。


「ねね、遊びに行っていい?」

「それはダメだ」


 急なお願いに即座に拒否した。

 そんなことされたら俺が居候してる家が前原さんの家であることがばれ、色々と煽られるだろう。

 それにそもそも前原さんと家に第三者をなるべき招かないと約束している。

 それが俺の幼馴染で、クラスメイトである美羅ならもっとだろう。


「少し待て。少なくとも俺がこの家に慣れるまでは」

「分かった」


「ご飯できたよ」


 そんな時に前原さんがノックをしながらそういった。


「女の人!?」

「お前は黙ってろ」



 そして通話を強制終了した。これ以上揶揄われるわけにも行かない。明日は居候先のおばさんとでも言っておこう。



「えっと、電話してたの?」

「ああ、友達と。うまく誤魔化したから安心してくれ」


 これから誤魔化すというのが正解だろうが。


「じゃ、着いて来てね」

「ああ」


 俺は彼女について下に降りていく。

 ご飯の時間だ。

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