第29話 イルカショー
その後、緑さんは俺に対しすごく積極的になった。
友達を取られたとでも思ったのだろうか。
しかし、俺から見たらこれこそ恋人好意に見えるんだが、そこを緑さんはどう思ってるのだろうか。
いや、そこに対してあまり深くは考えてないのだろう、と俺は仮に推察する。
実際緑さんは軽く人見知りのような性格でありながら、実際は仲の良い人にはぐいぐい来るタイプの人だ。
だからこそ、彼女自身もその境目がよくわかっていないのだろう。
だからこそ俺は、思い切っていう事にした。
時はイルカショーの開演前の時間だ。
「緑さん、少しいいか?」
「うん、どうしたの?」
緑さんはそう、優しく返す。
「えっと、どうして俺には優しくしてくれるんだ?」
「どういう事?」
訊き方が、悪かったか。
「一回俺は告白して振られているはずだ」
「うん」
「なのに、なぜ他の人達とは違って、俺にはまた友達になろうって言ってくれたんだ?」
「……勘違いしてる?」
勘違い、それはどういう意味だ?
「あの事件があってから告白してきたのは智也くんだけだよ」
なんだと。
そう言う話なのか?
「だから特別扱いなんてしてないよ。もしあの時遊園地で出会わなかったらあんな提案渡ししてなかっただろうし」
「そうなのか、でももう一つ聞きたいことがある」
「それは何?」
「距離感の話だ。明らかに距離感がおかしい気がするがそれは俺の気のせいなのか?」
「距離感が、おかしい? 友達の距離感だよね……?」
まさか何も考えずにやっていたと?
思わず頭を抱えたくなる。
本当にこの人は何を考えているのだろうか。
だけど、それを果たして本当に指摘していいのだろうか、という気持ちにもなっている。
彼女の既に形作られた固定概念を破ってやるべきなのだろうか。
「緑さんは恋人のことどう思ってるんだ?」
「恋人はエッチする関係でしょ? キスしたりとか、その先とか」
その顔は赤くなっていた。
もしかして、例のストーカー化した元カレって、やばいやつだったのではなかろうか。
少なくとも、緑さんの恋人観を変えるような。
そう考えたら、今の考え方になるのもうなずけると言ったものだ。
「そんな変なことを言ってないで見ようよ。もう始まるよ」
「おう」
俺はそのままイルカショーを見始める。
★★★★★
その頃、美羅は。
「大丈夫?」
気分が落ち込んでいる夢子を慰めていた。
場所はイルカショーの会場。奇しくも同じ場所だ。
(なんかさあ、学校と全然キャラが違う)
学校での彼女はとにかく明るく、自分よりも他人の事優先の気遣い人間だ。
今も、大きく性格が変わるわけではないが、それでも十分に、異変は感じ取られる。
「大丈夫だよ」
そう、にっこりと笑顔を見せる。
だけど、その笑顔は作り笑顔に見えて。
「ねえ、夢ちゃん。智也のどんなところに惹かれたの?」
美羅は、すっと息を吸って、そんな質問を投げかけてみる。
智也は一緒にいて楽しい友達だ。
だからこそ、そんな智也に惹かれる理由を何となしに訊きたいものなのだ。
「それは……」
夢子は軽く思考する。
そして――
「ごめん、言えないや」
そう、言った。
その言葉に美羅は軽く首をかしげる。
しかし、無理に訊くような内容でもないと思い、「分かった」と静かに言った。
「でも、一つ言えることがあるの」
「なに?」
「私まだ諦めたくない。そもそも振られてないし」
美羅は一応先程起きた告白劇の内容を夢子から一応聞いてはいる。
「そうだね。頑張れー、夢ちゃん」
美羅が元気よく言うと、夢子はふふっと笑って、ガッツポーズを取った。
★★★★★
そのイルカショー。中々見ごたえがあるものだった。
イルカが飛び跳ね、そして水に着水して水しぶきを上げる。
それだけでも迫力満点で素晴らしい景色だ。
それだけで、俺の胸が躍る。
となりの緑さんも「すごい凄い!!」と、はしゃいでいる。
イルカは一般に知能が高いとよく聞くが、実際、色々な曲芸を見せてくれるイルカを見ると不思議な気持ちになる。
そのイルカのジャンプや、ボール回し。
魚だけど、まるで人を見ているようだ。
「すごいよな」
俺はふと呟く、すると隣の緑さんがこちらを向いた。
「人の合図に従って魚であるイルカが飛ぶ。それでなお、意志疎通が撮れているんだ。別の生き物なのに」
それを言ったら、犬とか猫とかもそうなのかもしれないが。
それを含めてすごいと思える。
「うん。魚っていいよね。私も魚になって自由に泳ぎたい」
「人と魚、両方に慣れたらきっと楽しそうだな」
「それ、私も思う!!」
緑さんが身を乗り出す。
「絶対、楽しいし」
ああ、やっぱりその笑顔はずるい。
その後もしばらく色々な場所を見た後、閉館時間になり解散となった。
帰り、美羅と緑さんが居なくなるタイミングで夢子さんと待ち合わせをした。
夢子さんは気まずそうな表情をこちらに向けて来る。
そりゃそうだ。
保留とは言え、一応断ったのだ。
「ごめんな。ちゃんとした答えを出せなくて」
「それは仕方ないわ。私のアプローチが足りなかっただけだもの」
そう彼女は言うが、少しだけ寂しそうだ。
そして一呼吸を置き、
「今度一緒に来て欲しいところがあるの」
「……どこだ?」
「私の家」
家。
そこには普通に行っていると思うが。
「ごめんなさい、言い方が悪かったわ。私の実家に今度来て欲しいの」
「どうして?」
「私の事をもっと知って欲しいから」
夢子さんはきっと覚悟を決めたのだ。
俺にすべてを打ち明ける覚悟を。
夢子さんが、こうなった根本的な原因を。
「私の、彼氏として」
「っ」
急に出てきたその言葉に、俺は動揺する。
「告白は断られたわ。でも、私の実家に来てもらうには、男友達としてじゃなく、彼氏としてがちょうどいいし、偽彼氏をお願いするわ」
そう言う意味か。
「それなら全然かまわない」
「そう、ならよかった」
そして微笑み。
「じゃあ、予定明けといて」
「いつ?」
「お盆」
お盆。
「だいぶ先だな」
「これに関してはごめんなさい。でも、」
「ああ、構わないよ」
別にいつだろうと、構わない。
行くという選択肢しかないから。
「じゃあ、お願いね」
「ああ」




