第27話 乱入
それからも俺たちは魚を見て回る。
そしてそのたびに隣にいる彼女にドキッとさせられたことは言うまでもないだろう。
本当に、これで恋愛感情を抱かないでって無理に決まっている。
そう、俺は思うのだ。
「はあ……」
俺は椅子に座りながらため息をつく。
目の前に見えるのは大きなガラス張りの水槽の中のサメだ。
「智也くんどうしたの?」
そう、緑さんが俺に話しかける。
「いや、何でもない」
少なくとも今の悩みを緑さんに打ち上げてしまったら、きっと大変な事になるだろう。
「俺は大丈夫だ」
「ならいいんだけど」
そうぼそっと一言呟いてから。
「友達だから、何か困ったことがあったら教えて欲しいな」
そう、笑って言う緑さん。
もういっそ小悪魔に見えてきてしまう。
わざとなのか。
確かに俺は緑さんをもう恋愛感情ありで見ないとは約束した。
だけど、それを守れるとは思わない。
俺は、
「緑さん、少し話があるんだけど」
俺はやっぱりだめかもしれない。
「なに?」
だが、これを言っても、俺の自己満足なんじゃないか?
俺はこれを言って満足するかもしれないが、それを言われた緑さんはどうなる。
今日は楽しめなくなるかもしれない。
「いや、なんでもない」
結局俺はこのモヤモヤを持ってなければならない。
「なんでよ」
だけど、俺は二度目の告白をいつか決行しなければならない。
今度は、緑さんの懸念点を全てかき消すような、説得力のある説明をしないといけない。
そのタイミングを見計らう必要がある。
そもそも、あの時緑さんは何て言っていた?
そう、ストーカー化して怖かったと。
なら、俺がそれをしない人間だと伝えられたらいいのだ。
それまでにこの水族館で俺の好感度を上げるしかない。
そして俺はまた気づいている。
ミラがまた悪だくみをしていると。
恐らく向こうはまだ気づいていない。しかし、明らかにミラがここに来てる。
「ミラ」
俺はそっとみる。
そこには実際にミラはいない。
だけど、視線は感じる。
それは当然に基地の悪い物だ。
だけど、ミラもああ見えて馬鹿ではない。
きっと、彼女なりに俺をサポートしてくれるだろう。
そしてさらに俺たちは歩いていき、先の場所へと進んでいく。
それに伴い、俺の心の中の焦りも増長していく。
「美味しいね」
俺たちは昼。レストランでパスタをすすっていた。
そして変装をしている。前原さんと、ミラがいる。
あれで、気づいていないとでも思っているのだろうか。
幸い緑さんにはばれてはいないようだが。
★★★★★
ミラは夢子の顔をじっと見る。
というのもだ。夢子の様子が変なのだ。
(うわあ、どうしよー。めっちゃ嫉妬してるよ)
ジト目で夢子を見る。
「嫉妬してるのー?」
ミラが訊くと、夢子が頷く。
「私、こんな気持ち抱くの初めてなんだ」
「知ってる」
学校での夢子は間違っても異性にはわきまえている感じだ。
それも、異性には恋愛感情を抱かせないようにする感じだ。
そう、恋愛観は拒絶している感じだ。
だからこそ、智也の恋愛相談に乗ってもらおうと思っていたのだ。
(智也のやつ、無垢な少女をここまで恋に落とすとは中々やるねえ)
ミラはそう思った。
ミラの考え的には別に智也がどちらと付き合おうが、別に関係はない。
しかし、面白い方に付き合って欲しい。となれば、夢子だろう。
なにせ、同棲同士の恋愛生活なんてラノベくらいでしか見たことのない物だ。
「夢ちゃん、夢ちゃん」
夢子に対し耳打ちをするミラ。
「今日は最後アタックしてみない?」
「あ、アタック?」
「見たらわかるでしょ。智也がぞわぞわとしてるの」
今の智也は、見たらわかる通り、少しぞわぞわとしている。
まるで重い悩みに押しつぶされそうな感じで。
「だからさ、今じゃなくてもいいけど、良い感じになったら行こう」
「ううん」夢子は首を振った。「今行きたい」
それに対し、ミラはおっ!と思った。
智也の事になると遠慮がちになる夢子。学校での様子とは真逆になる夢子。
そんな彼女がついに決心したのだ。
「じゃあ、行こうよ」
ミラが元気よく言う。
その様子はまさに獲物を狙う獣のようであった。
「でも、やっぱり私が出しゃばることで」
「夢ちゃん!!」
一転、大きな声を出す。
「チャンスは今しかないよ。今を逃したら、いい雰囲気になっちゃうんだから。ね、行こうよ」
笑顔で言い放つミラ。
「せっかく決断したんだから、それを実行に移さなきゃ」
そして彼女は元気よく夢子の手を掴むと走って行った。
★★★★★
「美味しいね」
緑さんはそう言った。
その笑顔がただただまぶしい。
「ああ、美味しいよ」
俺はこういうのが精いっぱいだ。
これ以上の言葉を話したらきっと俺は照れを隠せなくなる。
「そう、良かった。ね、最初さ。私最初海鮮丼を頼もうかと思ってたんだけど、辞めたんだ」
「なんで?」
「寒いかなって思って」
「水族館で、魚を食べるのが?」
「うん」
緑さんは頷いた。
「そんなこと言わないで好きなもの頼んだらよかったじゃん」
「別にいいの。これ美味しいし」
そう言って緑さんはフォークで巻き斬ったパスタを見せてきた。
「確かにおいしいな」
「あ!」
その時、見知った声が聞こえた。
え、ちょ、どういう事。
そこにいたのはミラだった。
何でここにいるんだよ。いや、何でここにきてるんだよ。
サポートに徹すんじゃなかったのかよ……
完全に修羅場じゃねえか。




