第26話 水族館デート
そして、来る日曜日。
水族館デートすることとなった。
なんか流れ的に水族館とは決まったが、水族館に男女で行くというのは、デートのようなものだ。
それに以前は俺たちは一緒にどこかに行く、と言った感じの中ではなかったはずなんだけど。
それは気のせいだろう。
今の俺はワクワクしていると同紙に、緊張している。
前に緑さんが言っていた、恋愛感情を見せないでという言葉。
あれをきちんと出せるのかどうか。
それが俺には兎に角不安だ。
そもそも俺は何しにここに来たんだ。
緑さんと対峙するためだ。
対峙、そう。
俺の中の気持ちを確かめなければならないのだ。
「ふう」
息をする。
緑さんはまだ来ていないようだ。
心を整える時間が出来た、という意味で嬉しい事だ。
このまま来て欲しいような、来て欲しくないような。
よく分からない気持ちになっている。
「お、お待たせ」
そうこう考えているうちにみどりさんが来た。
彼女は髪の毛を結び可愛らしい姿だ。
この前の遊園地の時よりもはるかに。
ちょっと俺にはわからなくなってきた。
なぜ、俺に恋愛感情を向けて欲しくないのにおしゃれして臨んでいるのか。
むしろぼさぼさの髪の毛とかできて欲しかった。
これじゃあ、俺の中の恋心を隠すのは無理だろう。
やべえ、ドキドキする。
耐えられない。
顔が紅潮するのを抑えないと。
「はあ」
俺は周りに聞こえない程度の声量で息を吐き。
「行こうか」
そう言った。
美羅と一緒に寝た翌日の朝。
夢子さんにとりあえず逃げたことについては謝り、ちょっと気が動転しただけ、とも告げた。
だけど、それからも何ら変わらなかったのだ。
表面上はなにも俺たちの関係は変わらなかった。会話が無かったわけでもなかった。
だけど、俺たちの関係はあの日から変わってしまっていたのだ。
あの日からも夢子さんとは気まずいままだった。
気まずい、それは違うかもしれない。
俺が夢子さんを避けていてしまったのだ。
問題を先送りにする、俺の悪い癖のせいで。
それだから、今俺は、緑さんともどう、接したらいいのか分からない。
緑さんがどういう気持ちで俺に接してくれてるのかもわからない。
「わ、すごいね」
その緑さんの言葉で現実に戻される。
彼女は魚を真っ直ぐに見ていた。
その姿はまさに写真映えしそうなものだ。
ちなみにここの水族館は写真OKだ。
とはいえ、わざわざ頼まれてもないのに撮るわけはないが。
「ねえ、智也、くん」
彼女は慣れないように、言葉を紡ぐ。
「この魚たちも生きてる、すごいよね」
「すごい?」
「うん。私達とは全然違う形なのに、しかも海の中なのにさ、必死に泳いでるのが可愛らしくてさ。なんだか、魚になってみたい」
「魚になってみたい、か」
確かに、そう思う気持ちも分かる。
魚になって海の中をすいすいと泳げたらなんて幸せなんだろう、と思う。
「分かるよね」
「ああ」
「ね、なんだかここだけでさ。一時間は居れそうな気持がするよね」
「ああ、俺もそう思う」
そして俺たちは黙って無言でその稚魚たちの群れの動きを見ていた。
いや、俺は稚魚たちだけではなく、みどりさんの姿も追っている。
なんだかこんな自分が惨めにおもえて来る。
俺はただ……。
「行こっか」
十分くらい経った時、彼女は笑ってそう言った。
「もういいのか?」
「うん。もうここは満喫したし。次もみなきゃ全部回り切れないでしょ」
「ま、まあ確かに」
それもそうだ。
「行こ」
その笑顔にまたドキッとしてしまう。感情を抑えるなんて無理だ。
そう、思う。
★★★★★
「ドキドキしてんねー」
その頃美羅もまた水族館にきていた。
しかも、夢子を連れて。
勿論、夢子に発破をかけるためだ。
美羅には思う事があった。
そう、あくまでも夢子は控えめなのだ。
美羅には夢子のトラウマの事は分からない。
それに美羅には純粋な夢子の姿しか知らない。
だから何を迷っているかは分からない。
しかし、拒絶されるのを怖がっているようだ。
「それで、私はどうしたらいいの?」
夢子がそう静かに訊く。
「どうしたら……って決まってるでしょ。早く告白しなさい」
美羅はにやにやしながら言う。
「さもなければとられちゃうよ」
「そもそもあの二人はなんであんなに仲良さげなの?」
「決まってるでしょ。夢子さんが奥手だからだよ」
「…………そもそも私があの二人に食い込むことが正しいのかな?」
「え?」
美羅は思わずとぼけた顔をする。
「だって、二人がくっついた方が私にくっつくよりもいいかもしれないし」
「それダメ!!」
美羅が夢子の口をとっさにふさぐ。
「それ禁句だよ。だって、それは負けヒロインの言う言葉だから」
「ま、負けヒロイン」
夢子が驚いたように言う。
「負けヒロインはさ、健気なんだよ。健気だから人の恋を応援しちゃって結果的に、気が付いた時には手遅れなんだ。だからさ、どんどんアタックしなきゃ」
そうじゃないと、せっかく夢子に対して感情を動かせている。
なのに、それがふさがってしまったらどんどんと告白しにくくなる。
やる時は積極的に休む暇を与えない方がいいのだ。
「もっとラブコメイベント起こすとかさ」
「美羅ちゃんがやってたのは違うんじゃないかな」
「いや、そうだよ絶対に。お風呂に一緒にはいれとは言わないけどさ。この前みたいに、不意に手を触るとかそう言うのガンガンやって行かなくちゃ!!」
「う、うん」
そう頷いて見せた。
(さーてどんどんかき乱さないとね)
そう、恋愛見る専の美羅の舌が回った。




