第20話 恋愛感情
「夢子さん、鶴崎さんが心配してたから連絡した方がいいかも」
その帰り道、夢子さんに行った。
もう今は48分。ギリギリ授業には間に合うかどうか、という時間だ。
もしかしたら鶴崎さんはまだ探しているのかもしれない。
そうなればアウトかもしれない。鶴崎さんの印象は今の俺にとってあまり良くはない。
ただ、遅刻して欲しくない。
「そうだね」
そう軽く口にした夢子さんは携帯を取り出し、手慣れた手つきでメッセージを送っていく。
「うん、これで大丈夫」
そう笑顔で笑い、その足で教室に戻った。
教室に入るタイミングは少しずらしたが、それでも、ほぼ同じタイミングで教室に入ったことには変わりはない。
やはり、案の定とでも言おうか。男子からは羨望の目で見られた。
とはいえ、普段から交友関係を広げ、相談役に徹しているという事もあり、夢子さんと男子が一緒に教室に入ること自体はそこまでおかしな話ではないと思うが。
とりあえず席に着くと、授業の開始を待った。
なんだか、やけに幸原さんがこちらを見て来るので少し照れる。遊園地の時の事があったからだろうか。
今でも幸原さんの事が好きな事実は変わらない。
が、過度なアタックは嫌われてしまう。
そこが困るところだ。
その後、二時間目の休み時間。
鶴崎さんに「春田君が言ってたこと本当だったんだね、悪かった」と、謝罪の言葉をもらった。
どうやら勘違いは晴れたみたいだ。
最初から夢子さんに訊いてくれたら良かったのに、とは思うが、口には出さない。
そしていろいろなことがあった今、俺は一人になりたいと思った。
今日はボーとする時間が必要だ。それも、授業時間ではいけないのだ。
そして、昼休み。俺は一人でグラウンドに出た。
美羅も「一緒に行きたい」と言って着いて来ようとしたが、一人になりたいと言ったら素直に応じてくれた。
今日の夢子さんは積極的すぎるし、先ほどの女として客観的に見てどうという質問も明らかに、俺を意識してそうだった。
ここで、俺に少し良くない考えが浮かんできた。もしかして夢子さんは俺の事が好きなんじゃないか。
俺は急いで首を振った。
俺は何を考えているんだ。そんなこと考えてはいけないだろ。
と思うも、考えれば考えるほど興奮してしまう。
だが、忘れてはいけない。俺の本命はあくまでも幸原さんだ。
それ以外は眼中にないなんてひどいことを言うつもりはないが。
ちょっと精神統一しなければいけない、
ちょっと心が乱れてしまっているのだ。
買ったパンのビニールを開き、口にくわえる。
「ねえ、春田君」
声を掛けられた。パンの咀嚼をやめ、即座に振り向いた。
声の主が幸原さんであることがすぐに分かった。
俺は急いでパンを飲み込み、
「どうしたんだ?」
俺は笑っていった。
しかし、なぜここに幸原さんが現れたのかも分からない。
遊園地を除いて失恋後の初めての会話だ。
「ねえ、春田君は私のことまだ好き?」
「え?」
この人は何を言っているんだ?
俺は驚いた。
好きに決まっている。決まっているが、それを幸原さんに言っても果たしていい物か。
俺は迷う。
なにせ幸原さんは男性関係で困難な目にあった人なのだ。
「ごめんね。私よくわからなくて」
「分からない?」
「私さ、今でも友達でいたいと思ってるもん」
「友達でいたいと?」
「うん」
素直にうなずかれ、俺は困る。
「それはつまり俺が変な恋愛感情を持たなかったら、また友達でいたいと思っているってこと?」
なんか言葉がくどくなった気がする。
しかし、そういう事なのだろう。
「うん」
実際頷いて見せてくれた。
俺はこの場面、友情を取るか恋愛を取るか。
少なくとも言えることは、好きであることを諦めていない状態で友達を続けるのも良くないという事だ。
美羅や夢子さんに相談したい。
いや、でもそれはだめだ。ここは俺自身で答えを出さなきゃならない。
何しろ、俺は。
「ごめん。まだ好きだ」
俺は言った。嘘をつくわけには行かない。
「そうなんだ……」
「ごめん」
俺は頭を下げる。
「謝る必要はないよ。でもさ」
悪戯な笑みを浮かべて来る。
「私はまだ春田君と一緒にいたい」
「何が言いたいんだ?」
「私に恋愛感情を見せないで」
なんていう純粋な言葉なんだ。
一見我儘に見えるが、当然のお願いだ。
俺は許しを得れるかどうかというところに来ている。
もしもこの提案を突っぱねたら俺は後悔するだろう。
しかし、好きな女性に対し失恋状態で一緒にいられるものなのか?
普通、どこかでぼろが出てしまうのではないか?
そんな疑問が俺の中に廻る。
しかし、だけど、このままは嫌だ。このまま疎遠になるのは。
「努力するよ」
「ありがとう」
そして彼女はにっこりと笑った。
ああ、この笑顔。美しい。好きだ。
さて、果たして俺はこのまま恋愛感情を持たないことが出来るだろうか。
先が暗いな、そう俺は感じた。




