第19話 友達
学校に着くと早速俺たちはそれぞれの席に座る。
しかし、俺や美羅、夢子さんが一緒に登校してきたことは、もう周知の事実らしくクラス内で話題になっている。
しかし、もう隠すようなことではない。
夢子さんは「ごめんなさい。これから大変な事になるかもしれないわ」と言った。
夢子さんはともかく俺にはそこまで痛手とは考えていない。
ただ、幸原さんに知られたら少しいやだなと思うだけだ。
「なあなあ、前原さんと登校してなかったか?」
珍しい、とでも言いたげなクラスメイト。
佐々木。
「ああ」
俺は一言そう返す。
「仲いいなんて噂はなかったのに」
「たまたま会ったからそのまま登校したんだよ。な、美羅」
「うん」
美羅もうなずく。
「それにしても夢子ちゃんとの登校楽しかった」
そして美羅は夢子さんとハイタッチをする。
その瞬間俺は冷たい視線を感じ取った。
その視線の主は鶴崎真紀子、夢子さんの友達だ。
まあ、視線を向けている理由は何となくわかる。
ただ、碌なことにならない、そんな気がした。
夢子さんはいつも鶴崎さんと一緒に登校していた。
そんな彼女に対して夢子さんはどう言い訳したのだろうか。
例えどう言い訳していたとしても、自分とではなく別のクラスメイト(しかも男子)と登校していた。
この事実は気に障るだろう。
今まで男性のクラスメイトと夢子さんがともに登校してきた事実はないのだから。
もしや、これから大変になるかもと、謝っていたのは、こういう理由があったのだろうか。
自分の友達が突っかかってくるかもという。
そして、それは朝のホームルームが終わった後だった。
「ねえ」
ああ、悪い予感が当たった。当たってしまった。
早速、鶴崎さんに話しかけられた。
「何でしょう、鶴崎さん」
平常を保ちながら答える。内心びくびくとしている。
少しでも受けごたえを間違えたら殺られる。そんな感じがした。
「ちょっと、朝に夢ちゃんと登校してなかった?」
「う、うん」
「私、夢ちゃんに朝の登校断られたんだけど。別の人と登校するからって」
断られた?
やっぱり夢子さん、断ってたのか。そうだろうなとは思っていたが、珍しいな。
「貴方って、夢ちゃんを狙ってないよね」
狙ってないかどうか、か。
狙ってるつもりはない。
俺はまだ幸原さんの事が好きだし、夢子さんは友達という側面が強いと思う。
美羅と同じことだ。
「狙ってないよ」
正直に答えると、
「そう」
と、静かに答えられた。
「言ってもいいの?」
「え?」
何を言われたのか、分からなかった。言っていいの?とは何の事だ?。
「私知ってるんだから、あなたたちが同棲していることを」
その言葉を聞いた瞬間、ドキッとした。
「なんで?」
「怪しいと思って家を見張ってたら、家からあなたが出てきたの」
まさか家を監視されていたとは。
二度目だな。
「どうせ出来てるんでしょ? どうやって夢ちゃんを抑え込んだのかは知らないけど」
くそ、俺がどう答えようとそうなる定めだったのか?
「違う、違うから」
決してそんな関係ではない。
そもそも、高校生の身分で同棲なんて不健全だし。
「勘違いしないでくれ」
「勘違い?」
「うん、詳しくは前原さんに聞いたら分かると思うけど、俺たちは決して恋仲じゃないし、同居したのだって、両親の引っ越しが原因だし」
鶴原さんがじっと見て来る。
まさにジト目という言葉が正しいくらいの感じで。
はあ、くそ、一難去ってまた一難だ。
ただ、いつかはばれる事だ。
ここは、命を賭して弁明しなければ。
もしここで、同居しているという事実を周りに言いふらされたら俺も困るし、前原さんも困ることになる。
「信用できない」
「なら、前原さんに訊いてみろ。それに、考えても見てくれ。前まで接点がなかったのに急に恋仲なんてありえないだろ」
「隠してるだけじゃない? ラノベとかにもそう言うの結構あるし」
くっ、事実そう言う作品は多くある。
クラスのマドンナとなるヒロインと付き合ってることがばれたら面倒になるから隠すといった作品は多々見たことがある。アニメでだが。
「ここは現実だぞ。それに俺は幸原さんに告白して振られた。この時点で今前原さんと恋仲な訳がない。俺は前原さんの事が好きなわけじゃないひ、女として見てるわけでもないから」
「え?」
俺は振り返る。そこには夢子さんがいた。
「え?」
え?とはどういう意味だろうか。
普通に考えれば、今の俺たちの会話で勘違いされた可能性が高いという事だ。
夢子さんは、どかどかと階段を下りて行った。
俺たちはその姿を見守るしかなかった。
「えっと」
俺は鶴原さんと顔を見合わせる。
「追いかけましょう」
そして俺たちは一緒に前原さんを追いかける。
階段を下向して、そこで前原さんの姿を見つけた。
キンコンカンコン
予鈴が鳴った。
もうそこまでの時間はなさそうだ。
俺たちは走って夢子さんの元へと走りだしていく。
何に対して勘違いをし、嫌だと思ったのか、その誤解を解かなくてはいけない。
夢子さんは見た目よりもか弱い少女なのだから。
途中で二手に分かれる。
中の捜索と外の捜索で、俺は外担当だ。
「夢子さん」
校庭のベンチに座る彼女に声をかけた。
彼女は暗い顔をしていた。
まさに今悲しいことがあったような顔だ。
俺は黙って彼女の隣に座った。
夢子さんはそっと俺の目を見る。そして黙って顔を俯かせた。
「何があったんだ? いや、何が悲しかったんだ?」
俺は静かに訊く。
「ごめんなさい。これに関しては私が一方的に悪いの」
やはりそうか。
「夢子さんは、俺の隙じゃない、女として見てないという言葉に引っかかったんだな」
「ええ、ごめんね。弱い女で」
「あれは建前だろ。もし仮に、俺が夢子さんの事を女子として見てるなんて言ったらどうなるんだよ。質問攻めにあうじゃないか」
そう、口にしてからいけないことを言ってしまったと思った。
「違うんだ、そうじゃなくて」
「客観的に見て私の事をどう思うの?」
「どう思うって」
「女子として可愛いと思うかどうかってこと」
「……可愛いと思うぞ」
「そ、ありがとう」
そう言って夢子さんは笑った。
なんなんだよ。
「言っとくけどこれは」
「分かったるわ、じゃあ、戻りましょ。授業が始まっちゃうわ」
「あ、ああ。そうだな」
今日は本当に夢子さんに振り回されすぎだ。
でも、許してしまう。夢子さんの去り際に見せた笑顔を見れば。
あの笑顔はまさに、素晴らしかったのだから。




