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失恋した俺は俺にだけ弱い内面を見せてくれるクラスのマドンナと同居をする――これは完璧な彼女を救うための物語  作者: 有原優


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第17話 アニメ

 

 普段家に帰るとすぐに俺たちは部屋へと戻るのだが。前原さんは部屋に戻らず早々にリビングのソファーに寝転がった。


「どうしたんだ?」

「単純に疲れたわ」


 そう、弱々しい声で呟く前原さん。その様子を見ると、本当に疲れていそうだ。


「楽しかったのに疲れるのは無情だわ」

「それはそうだろ。疲れない人間の方がいない。だけどそれは、楽しかった証なんじゃないか?」

「楽しかった?」

「ああ、だって嫌な時だけじゃなくて、楽しかった時も疲れを感じるだろ? 例えば文化祭の後とかさ」

「確かにそうかもね」


 そう言って彼女はふふっと笑った。


「いつもありがとうね」

「おう……」


 そして俺は部屋に戻ろうとする。もう、ご飯は食べたから後は寝るだけだ。


「待って」


 だが、その直前で前原さんに止められた。


「どうしたんだ?」

「私たちも下の名前で呼び合わない?」


 その前原さんの声は震えていた。

 何で震えているのかは分からないが、


「いいよ」


 別にそれで損することはない。


「ありがとう、智也君」


 その、前原さんの口から発される智也君という言葉、少しドキッとする。

 そして、前原さんは俺を見てまた笑う。

 何がおかしいんだが、


「ねえ、智也君も呼んでくれないかしら」

「あ、ああ」


 そして、前原さんが俺の事をじっと見る。

 ああ、くそ、緊張する。


「えっと、夢子さん」

「うん、ありがとう」


 満足してくれたようだ。

 俺はそれにほっと胸をなでおろす。


 そして、リビングを後にして部屋で一休みだ。

 実のところを言うと、俺も疲れた。

 今日一日遊びつくしたからもう眠気もいっぱいだ。


 正直まだ二十一時だが、今からベッドに入っても余裕で眠れる気がする。それほどに俺は疲れていた。


 俺はベッドに寝転がる。あまり、お風呂に入る前にベッドに入り込むのは良くはないと思うが、今日くらいは許してほしい。


 寝転がるとわかりやすく体の疲れが取れてきているのが分かる。

 その時にドアがノックされる音がした。

 前原さん、いや今は夢子さんと言った方がいいのか。

 それで、どうしたのだろうか。

 俺はだるい体をえいっと起き上がらせ、彼女の元へと向かう。


「ねえ、一緒にテレビ見ない?」


 今日の夢子さんはどう考えてもおかしい。

 家に帰ってから俺に甘え過ぎなのでは?


「布教したいのよ。私の好きなアニメを」

「あ、ああ。いいけど」


布教。


前原さん、いや夢子さんの口からその言葉が出てくるだなんて思っていなかった。


「ありがとう」


 そう言った夢子さんについて行く。

 この変わりよう。なんとなくわかった。

 ちょっと勇気を出して俺ともっと仲良くするために、次のステージへと進もうというつもりという訳か。



 俺が夢子さんについて行くと、そこには既にテレビがソファの前に置いてある。ソファに座って一緒に見ようという事なのだろう。


「どうぞ」


 その夢子さんの言葉に合わせて俺もソファに座る。

 一日目と同じような形になった。しかし中々緊張する。

 あれから距離が縮まったという事もあるのだろうか。


「それで、私が見たいアニメはこれなの」


 そう言って夢子さんが見せて来たのは、有名な週刊漫画に掲載されている漫画のアニメだった。


「私ね、今まで人にはあまり言ってこなかったけど、このアニメが好きなの」

「このアニメが……」


 しかし、確かに夢子さんが好きそうな雰囲気はする。

 そのアニメは、人気アニメでもある。しかし、それは女性向けの作風ではなく、ばりばりの男性向けだ。

 だが、一部の女子にも人気がある。それはこの作品に魅力的な男性キャラが多いからだ。

 例えば毒舌キャラ、熱血キャラ、クールキャラ、最強でミステリアスな先生キャラなど、人気キャラの鉄則のようなキャラたちが沢山出てくるのだ。そのために女性人気もある。というか、女性ファンの方が多い。


 ちなみに俺はこの作品を一度も見たことはない。

 なぜなら、タイミングが無かったから。


 俺は普段そこまでアニメを見るわけではない。だからこそ、そこまで手が終えてないのだ。


「あ、見たことはあるのかしら」

「今日もはあるけど、ないな」

「なら見ましょう」


 そう言って無表情でつける。

 夢子さんは俺の前では作り笑顔をする必要がほとんどない。

 突かれているからなのか、する必要がないと思っているのか、恐らく前者だろう。


「今日はね、幸福だったと思ってる。だって一日が終わるのが怖いもの」

「怖い?」

「今日が終わったら忘れる気がして……。それに日常に戻るのも怖いし」


 忘れることが怖い、日常に戻るのが怖い、か。

 気持ちは分かる。楽しい日も終わり、日常に戻る。

そうなれば、過去の出来事になってしまう。


「だからこそ、延長戦というという事でアニメを見たんだな」


今日という日を終わらせないために。

もっと楽しむために。


「ええ、そうなの。ねえ、智也君、少し私の昔話を聞いてほしいの」


 真剣な顔をしてくれてる。

 俺が気になっていたかおおの事を話してくれるということが。

 それはうれしい事だが、なんとなく、不安な気持ちも生じてしまう。

 俺は息を吸い込む。隣にいる夢子さんにばれない様に。


 その間にもアニメは流れている。

 まるで聖徳太子だ。(二個だけだが)


「私は昔から、ずっと……臆病なの。小学生の時に、友達から嫌われてそのまま虐められるようになったの」


 虐め、やはりか。


「たぶん、私はお調子者だったんだと思う。それで、皆の反感を買って嫌われたんだと思うの」

「だからこそ、いまみたいな感じになったのか」

「ええ」


 予想通り、ではある。


「なんで今これを言う気になったんだ?」

「智也君は違うと思ったからよ」

「そう、だな。嫌ならちゃんとぶつかればいい。それで、仲直りをする努力をして今の関係から進化させればいい。俺は少なくともそう思う」

「そう、ね。智也君はやっぱり優しいわね」

「優しくないよ。こんなお当然の話なんだから」


 俺がそう言うと、ふふと、笑う。


「私のあこがれはごめんだけど、智也君じゃないの」

「なら誰なんだ?」

「美羅ちゃんかな」


 言いたいことは分かる。


「あいつはあいつで我儘だけどな」

「うん、でも私はああなりたい。気を使わないで喋れるように」

「なら、ちょっとづつ訓練してみようぜ」

「ええ。頑張るわ」


そう言って彼女は笑った。

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