第14話 アイス
「ねえ、もう一回ジェットコースターに乗ってもいい?」
美羅のその言葉、正直驚いた。
何しろ、今この瞬間大絶叫しながら楽しんでいたのに。
まさかのもう一回とは。
「お前マジか」
「マジだよ」
開き直ったようだ。
とはいえ、ジェットコースターに二度乗ることは別にだめな事ではない。
止める理由もない。
「じゃあ、楽しんで来いよ」
「ええ、二人も一緒に」
「前原さん行こうぜ」
俺はそう言って、列とは真逆の方向に歩いていく。
「う、うん、楽しんできてね」
「せめて列だけは一緒に並んでよーー」
ごめんだ。
今日は熱射とんでもなく暑いわけではない。しかしさすがに屋根の中に入りたい。
そしてそれは、前原さんも同じ考えみたいなようで、
「アイス食べて来るわね」
と、笑顔で言った。
これは断れるんだな。
「それにしても長谷部さん化け物だね」
「そうだな」
あんな三半規管破壊マシンに二回も乗るなんてな。
そして俺たちは近くのレストランに入りソフトクリームを注文した。前原さんはパフェだ。
パフェはかなりの値段がする。
やはり前原さんの家はお金持ちだ。
「春田君、良かったね」
パフェを一口、口に入れ、早速前原さんが呟く。
俺はそれに対して「え?」と返す。
「緑ちゃんの事」
「それか」
そう言えば一旦その問題にはけりがついたんだったな。
「俺は、嫌われてなかったと分かっただけでうれしいからな。原因が俺以外にあったという事が分かっただけで」
勿論そんな事情を知らずに告白してしまった俺も悪いんだけど。
「まあ、これから元通りやれるかは分からないけど。何も考えずに告白してしまったし」
「でも、私にとっては、もう春田君はいい人だと思うわ。私に気遣ってくれるし、今日も何回助けてもらったか」
「当然の事だよ。俺も苦しんでいる前原さんを見たくないし」
「私にとっては相談を受けることがそういう事なの」
「ああ、そう言うこと言ってたな」
別に嫌な事ではないと。ただ、疲れただけと。
「でも、疲れないように。相談とかは春田君みたいに大事な人に絞って言うのがいいのかもしれないわね」
その瞬間、前原さんは顔を赤くし、慌てて口を手で抑えた。
「ごめんなさい、いまのはその」
俺はそんな前原さんを見て気づいた。
前原さんの言葉の意味をそのまま取ると、俺にとって前原さんが特別な人という意味になってしまう。
「大丈夫。同居人である前原さんは俺にとって大事な人だよ、恋愛関係無しでだけど」
「そんなことを言われても困るわ」
そう言って前原さんはわざとらしく咳払いをする。
「とりあえず私が言いたいのは、今日の春田君が頼りになる人ってことよ」
「そう、ありがとう」
そう言えば気になっていたことがある。
「なんで、美羅の遊園地の件を受けたんだ?」
そこまでは仲がいいわけではなさそうなのに、なぜ美羅の誘いに乗ったのだろう。
最初はただ、断れなかったのかなと思っていたが、段々と違う気がしてきた。
「春田君の友達だからよ」
そう静かに前原さんは言う。そしてスプーンでパフェを一すくいして口にくわえる。
「私は春太君の事を知らなさすぎるわ。もちろん長谷部さんの事も。だから、少し知りたいと思ってしまったのかもね」
「前原さん……」
「それに春田君と長谷部さんは珍しいと思うわ。互いに恋愛感情がない完全な友達関係で入れるもの」
「それはそうだな」
俺は美羅に恋愛感情を抱いたことも無いし、恐らくだが抱かれたことも無いだろう。
それはそういう物だと思っているが。
「私はねそうもいかないの。さっき、緑ちゃんが男性関係で嫌な目にあったって言ったでしょ、あれ実は私もなの」
「というと……」
「私は、男子とも話すわ。それは友達として楽しく過ごすため。……でも、度々告白されるの」
「告白?」
「ええ、何度も何度もね」
確かに何度も前原さんが告白されているのを見ていた。
そしてその時の返答は全て――
「私は断ってきたわ、友達ではいたいけど、恋人としては見てないのって」
そう、断られてきた。男子からの人気はあれどいつしか高嶺の花と呼ばれることも出てきた。
それは、どんなにいい男の人――学内順位二位の秀才でも、サッカー部のキャプテンでも、モデルをやってる人でも――全て撃沈されてきたのだ。
そうなれば、どんな男子でも思うようになる。
ああ、自分はこの人とは縁がないのだと。
「だから、告白は減ったけれど、それでも男子の方から私の事が好きなオーラは出てくることはある。だから二人の関係性が興味深かったのかもしれないわね・それに同居人なのだし」
「それに対して、いやだとかは思わないのか?」
「思わないわ、それは全て私を全力で求めているっていう事だもの。話がそれたわね」
「ああ」
「私は今春田君の事が興味深いのよ。たぶん恋愛とかじゃなくて人間として」
理屈は分かる。
俺が、気になってるんだろうな。
恋愛とかじゃないというのも、言い訳?としてだろうが、本当にそう思っていそうだ。
「だから長谷部さんとも友達になりたかっただけ」
今回の遊園地で、だいぶ前原さんの事が理解できるようになってきたような気がする。
前原さんを取り囲む、全てが。
「分かった。で……それで俺たちの事はいつから気になっていたんだ?」
「それは同居し始めてからだけど」
「なるほどな」
少なくとも俺は幸原さんに浴してもらったことを言いことに告白した、友達という関係から、恋人という関係に昇華させようとした人間だ。
最近前原さんの俺に対する評価が高いように思えるが、決して俺はそんな評価されるような人間ではないと思っている。
今の話を聞いて猶更だ。
その時にメールが届いた。
『終わったよー』美羅からのものだ。
「前原さん」
俺は前原さんにメールを見せ、それからアイスを互いに急ビッチで食べた。




