第12話 ゴーカート
「幸原さんっぽい人を見た」
その後、美羅が帰ってくるタイミングで俺はそう告げた。
「え? 幸原さん?いたの?」
「ああ、いたみたいだ」
「まさかだね」
「そこで私たちは、春田君と幸原さんの仲直り作戦をしたいと思います」
その前原さんの言葉に美羅は目を輝かせながら「おー!」と言った。
美羅の表情から仕草、その全てからからわくわくという感情が伝わってくる。
やっぱり言うのやめたほうが良かったかなと後悔しそうなほどだ。
相変わらず美羅は恋バナが好きすぎる。
「俺はぜひお前たちを利用させてもらうさ」
俺がそう言うと、
「智也悪役っぽい」
そう言って美羅は笑った。
確かに厨二病モードに入っていたかもしれない。
そして外へと出る。とは言っても幸原さんの姿はもう見失っているので、今から出来る事と言えば、遊園地を楽しみながら捜索する事だ。
とはいえ、会ってそれで終わりじゃない。
そこからが本番だ。
「次は前原さんどこに行きたい?」
俺はふと訊いた。
「え? 私?」
前原さんは指で自分を指しながら言う。
「私は、えっと」
考えていなかったのだろう。
「ゴーカートに乗りたいかな」
彼女は笑ってそう答えた。
「ゴーカートね。私も行きたい」
「言っとくから俺も前原さんもお前と一緒には乗らねえからな」
釘をさしておく。
「え? なんで?」
「自分の胸に聞け」
「前原さん嫌なの?」
「えっと……」
前原さんは困っている様子を出す。
「困ってるじゃないか」
「そっか、残念だな一人で乗るの」
「私で良ければ」
「前原さんはやめといたほうがいいだろ」
俺はともかくな。……俺も嫌だけど。
美羅がどんな危険運動をするかなんてもうわかり切っている。
どうせ、最高速度でカーブを曲がるんだろ。
ゴーカートで事故とかあるのかは知らんが、美羅がどんな事になるかは目に見てわかる。
事故のリスクがあって、車酔いするリスクがある。生きて帰れる保証などないのだ。
乗るデメリットあれど、よほどの冒険者以外美羅の車には乗らない方がいい。
そして、俺たちはゴーカート会場に着いた。どうやらもう結構並んでいるようだ。
「こりゃ10分は最低でも並ぶな」
「だね」
ここはそこまで全国的な知名度のある場所じゃない。だからこそ、休日でもあまり並ばないで行けるのだが、流石に並ぶアトラクションもある。
ジェットコースターとゴーカートはどの遊園地でも並ぶ類のものだから仕方がない。
「幸原さんの姿は……」
俺は呟く。周りにはいなさそうだ。
「今は諦めるしかないね」
美羅が答えた。
「それよりもさ、ゴーカートさ、てことは智也と前原さんが一緒に乗るってこと?」
「そうなるな」
「どっちが運転するの?」
「前原さんだろ。俺はそこまで運転したいわけじゃないから」
「じゃあ、私の車に乗せてあげるよ」
「やめてくれ」
俺がそう言うと美羅が笑った。
そして世間話を繰り返しているうちに俺たちの番が来た。まずは美羅だ。
「じゃあ、私の勇姿を見ててね!」
そう指でグッドマークを出してくる。
余談だが、ここのゴーカートには一人用と二人用のゴーカートを用意されてある。美羅が乗るのは一人用、俺たちが乗るのは二人用だ。
それも、ブレーキとハンドルが運転席のみにある車両だ。
そして美羅を見ると早速、運転が荒々しい。あれは、まるで暴走族だ。
あんな運転の車に乗ったら吐くこと間違いない。
良かった。前原さんがいて。
「すごいね」
「ああ」
「私はあれに乗らなくてよかったわ。あれに乗ったらと思ったら」
「そうだな」
絶対に吐く。
「賢明な判断だったな」
その言葉に前原さんもただ頷いた。
そして美羅が「楽しかった」と言って戻ってきた。俺としてはあんな運転して良く生きて帰ってこれたなと感心した。
車の一個くらい破壊してもおかしくない運転だったから。
「美羅って将来運転免許とかとるのか?」
「取ると思うよ。それがどうかした?」
「美羅は運転しない方がいい」
俺はそう美羅の肩を掴みながら言う。
免許取ったら平然と高速道路で100キロや120キロはおろか140くらい出して捕まるやつだ。
そう確信した。
「まあ、とりあえず二人も乗りなよ」
「ああ、分かった」
「うん」
美羅の話は置いとき、俺たちはカートに乗る。
だが、乗る直前に前原さんが遠くをじっと見る。
そして一言。
「本当に私が運転でいいの?」
「ああ、別に俺は運転したいわけじゃないから」
「分かったわ」
そして前原さんはアクセルを踏み車を走らせる。
おお、なんと暗線運転なんだ。
これは煽りでも何でもない。先程の美羅の三分の一のスピードしか出ていないだろう。
しかしこれでいい。周りの景色が見れるから。
「春田君、これは言っていい事か分からないけれど、少しいいかしら?」
「どうした?」
「さっき、幸原さんがいたわ」
その言葉に俺は身を乗り出す。と、シートベルトに体が阻まれた。
「いたのか」
「ええ、私も気づいたの車に乗ってからだけど」
「そうなのか」
さっき遠くを見ていたのは、運転の事じゃなくて、幸原さん関連の事だったのか。
俺は、列の方向を見る。美羅がカメラを構えている。
その近くに列に並んでいる幸原さんの姿があった。どうやら友達と来ているようで、隣に眼鏡をかけた小柄な少女の姿があった。
幸原さんと一緒にいる子、俺は知らない。
少なくともクラスメイトではないのは確かだ。
そしておそらく同じ学校の子でもない。
俺は体が高ぶってきた。
仲直りして見せる。そして、俺を振った理由とその後俺を避けた理由を聞きたい。
「興奮してるの?」
「ああ」
「そう」
そして運転に集中を入れ始めた。
俺はそのまま前原さんの運転をゆったりと享受していった。
前原さんの運転は本当に静かで、寝れそうなほどだった。
やっぱり乗るなら美羅じゃなくて前原さんだな、と俺は思った。




