第1話 失恋
「好きです! 付き合ってください!!」
俺は意を決して好きな子に告白した。
クラスメイトの幸原緑だ。その綺麗なロングに黒髪で、クラスの一部の男子から人気である。
彼女を好きになったのは、この学校に入って一月が経とうとしていたときだった。
あの日、教科書がなくて困っていた時に、たまたま気づいて貸してくれたのがきっかけだ。あの日は幼馴染の長谷部美羅が休みで困っていたのだ。
その彼女の優しさに惹かれて好きになったのだった。彼女は寡黙で、窓側の席にいる。
そこからも話したのはほんの数回だ。だけど、俺にはもう彼女しかいなくなった。その綺麗な姿を、何度じっと見ただろうか、
数日前
「幸原さんに告白したい!」
俺は美羅に相談した。美羅は女子だから、相談するのは怖い。
ただ、美羅は女子だが、恋愛感情なしで一緒にいられる幼馴染だ。
大丈夫だろうと思った。相談に乗ってくれるだろうと。
「え? あの智也が告白?」
「るせえ」
「だって、意外じゃん。あの智也が女子を好きになるなんてさ」
美羅の顔を見る。ニヤニヤしている。
そのニヤニヤぶりに、少しだけ、相談しなかった方が良かったな。
俺はどう思われてたんだよと、愚痴でも言いたくなる。
「でもさ、相談するなら私よりも、前原夢子の方がいいんじゃないの?」
そうして美羅は前原さんの方を指差す。前原さんはショートカットの小動物的な人で、よくクラスメイトの相談を受けている。
「まあ、確かにそうだが、彼女とは接点がないしな」
いくら、学校の相談屋さん的な立場にいる彼女とは言え、知り合いですらない俺の相談を受けてくれるわけがない。
それは烏滸がましいという物だ。
「いいじゃん、相談しちゃいなよ。なんなら私が相談しに行ってあげようか?」
「いや、いいよ。わざわざ相談するまでもない」
そんなんで、親しくもない彼女の時間を奪いたくない。
「ちぇ、相談すればいいのに」
「……お前、楽しんでる?」
「にひひー、ばれたか」
なんだよ、その笑い方は。
人の告白を使って楽しんでいるんじゃねえよ。
「まあ、とりあえず私が協力してあげる。明日ムードとか作ってあげる」
結局そう言ってくれた。
だが、経緯が経緯なので、本当に俺の為なのか、自分が楽しいからなのかはよく分からないのだが。
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「ハロー、幸原さん、ちょっといいかな」
翌日、俺の合図とともに、美羅は俺と幸原さんとを二人きりにさせてくれた。
美羅が幸原さんを誘って、俺の元へと案内してくれたのだ。「話があるんだってー」と言って。
美羅は、教室で二人きりの状況を作ってくれた、これに応えない手はない。
「好きです! 付き合ってください!」
俺は意気揚々とそう声を大にして言った。
「っごめんなさい」
幸原さんはそう、聞こえるか聞こえないかと言うレベルの声量でそう発した後、走って教室から出てしまった。
俺はその場で呆然とするしかなかった。
振られたという状況を把握するのに時間がかかる。
まだ今の状況をちきんと把握しきれていない。
せめて、理由を教えて欲しい。
逃げないで欲しい。
……もちろん振られることを想定していなかったわけではない。
手ごたえはあったが、それも100パーセントではない。
そもそもこの世に百パーという数字はないのだ。
ただ、ショックだ。
今は何も考えられない。
俺の初恋はこんなにあっさりと終わってしまったのか?
ああ、悲しいな、悲しすぎる。
だが、悲しみを表に出してはいけない。
それではあまりにも惨めだ。
こんな姿を美羅には見せたくない。
俺は強くあらなければ。
「ダメだったわ!!」
笑顔で言う。
まるでもう吹っ切れたみたいな感じで。
嘘だ。元気な自分を偽っている――要するに空元気だ。
「智也はそれで平気……なの?」
「ああ、もう大丈夫」
そう言って俺はその場を離れた。
……笑顔を維持するのも疲れる。
いつもは美羅と途中までは帰るのだが、今日はこの気持ちを隠せそうにもない。
だから、今日は一人で帰ると言い出した。
美羅は「どうしたの?」と訊いてきたが、そこは何とかごまかした。
歩くたびに、ショックな気持ちがどんどんとぶり返えしていく。ああ、やっぱり割り切るのは無理だ。
そのうちに俺に歩く歩幅はどんどんと短くなっていく。
気分治しに音楽をきいて、無言で歩いていくのだが、それも無理だ。
だんだん気分が沈み、もう歩けなくなった。
あ、公園だ。
それを見た時に俺の足の向く方向は変わってしまった。家から公園へと。
俺はとりあえず休憩にと、公園のブランコに座った。
ああ、つらいな。
ただ、久しぶりに乗る子ども用の遊具は少し楽しい。
家に帰りたくない。
こんな気分で帰れるはずがない。
だって、こんな気分で帰ったら何かあることは両親にバレてしまう。
バレたくない。
平然としていたい。
ああ、目をつぶりながら、ブランコを漕ぐ。
「ねえ、春田君だよね」
聞き覚えのある声が聞こえる。
誰だ、俺に話しかけて来るなんて。
嫌、俺はこの声の主を知っている。
前原さんだ。
なんでここにいるんだ。
そう考えながらも目を開けることはできない。目を開けるのが怖い。
いくら今までかかわりが無かった人とは言え、今の俺のみじめな姿を見られるのは嫌なのだ。
「どうして泣いてるの?」
「嫌だ、答えたくない」
理由が失恋なんて、ベタすぎて……
それに、知り合いでしかない前原さんに聞かせたと手という気持ちもあるし。
「大丈夫、私は馬鹿にしないし、誰にも言わないよ」
そう、優しい声で言う前原さん。
多分こういうところが、人気がある所以なんだな。
俺が言いたくない理由を的確に言い当てるなんて。
「大丈夫よ、ゆっくりでいいから」
「……前原さんには関係がない」
「関係あるよ、だってクラスメイトじゃない!!」
クラスメイトだから関係あるのか?
やっぱりいい子だ。
「とりあえず目を開けて、見てられないから」
「あ、ああ」
そして目を開ける。
するとそこには心配そうな顔をしている前原さんがいた。
ああ、関りのないクラスメイトのことも心配するなんて、なんて良い人なんだ。
だが、逆に良い人すぎる。
その優しさには狂気じみたものを感じる。
ただ、今の俺にはそんなモノにもすがりたいという気持ちがある。そんな百で信用できる訳ではないものにも。
「俺は、今日……好きな気に……ずっと好きだったのに、ごめんなさいの一言で俺の初恋は終わってしまった。なんでなんだよ。なんで振るんだよ。絶対後悔するじゃん」
なんで俺は、ただのクラスメイトにこんなみっともなく、自分の気持ちを吐露するなんて、なんてみっともないんだ。俺は……
しかも、こんなの他責思考だ。振る振らないなんて個人の選択なのに。
ただ、そんなのがどうでも良く思えてくるこの人の包容力。
ほんとう、すげえよ、この人。
そうして結局三十分くらい泣きついてしまった。
「……落ち着いた?」
「ああ、まあとりあえず」
「そっか。なら良かった」
そう笑顔で笑う彼女。なんでそんなかおしてるんだよ。なんで自分が満足そうな顔してるんだ。
はあ、俺もこんな人になりたい。こんな人になりたいなあ。




