Sheet7:エピローグ
「有休、明日まで取ってるから今日急いで戻ってくることも無かったなぁ」育美が聞こえよがしの独り言を呟く。「ペンちゃんも羽根を伸ばしたかったでしょうに」独り言はいつしか嫌味に変わっていた。
「いや、育ちゃん。ホントにホント、誤解だって。貴美代さんとは会うの二回目だし」必死な薔薇筆。「そうですよ〜まだ何にも無いですよ」貴美代が加勢する。「"まだ"!?"まだ"って何?」育美がヒートアップする。
三人のやり取りに当初はオロオロするエルだったが、育美の味方だというスタンスを保ちつつ薔薇筆の話を聞くよう促した。空気が読めない異種族のエルフとは思えない最大限の気配り。これはチーム『エクセレンター』最大の危機なのだ。
薔薇筆の釈明がひとしきり続き、何とかその場が収まった後、ほどなくして育美と薔薇筆は店を後にした。取り残された貴美代は、シンヤのいるボックス席の方へやってきた。
川口と盛り上がっていたシンヤは貴美代への当てつけというわけでもなく、まあまあな塩対応を見せていた。居心地の悪いアキラは少しずつバイク組の方へ軸足を移していった…
残されたエルは蚊帳の外。時々ドリンクのオーダーを受けるだけで、話し相手もなくネットの動画で暇をつぶしていた。
閉店後。
「エル、ホントすまん!!」アキラは店を閉めると同時に土下座せんばかりの勢いで謝り倒した。
「はー、何であの時見捨てていくかな。育美さん説得するのめちゃくちゃ大変だったんだから」エルは想像以上にご立腹の様子だ。
「薔薇筆さんも釈明するんだけど、その度に貴美代さんが相づちうったりするから、一緒になって嘘ついてるみたいになって…」
言葉に詰まるエル。
アキラはどうしていいか分からず、ただ立ち尽くすのみ。
「あのさ…」エルが真顔でアキラに向き合う。
「ウチらエルフ族は長生きなの」
「はぁ、存じております…」戸惑うアキラ。
「存じてない!対して人間のアキラは短命」少し寂し気なエル。
「一緒に居られる時はほんのわずかしか無いんだからちゃんと向き合ってください!」アキラに抱きつくエル。泣いている?アキラの肩で涙を拭っているようだ。
しばしの静寂。二階からオムの鳴き声がかすかに聞こえる。
「あ、オムが呼んでる」エルが何事も無かったかの様にアキラから離れ、二階へ向かう。
アキラは肩口の湿り気をそっと撫でながら大きく息を吸うと、天井を見上げながらゆっくりと吐き出した。
〈完〉




