Sheet4:本音
INDIRECT関数の説明に今ひとつ理解が及んでいないアキラと貴美代を察した薔薇筆は、こんな例え話を始めた。
「例えば、あなたが好きな人にメッセージを送りたいとします。しかし、その人が使うSNSは毎日変わります。今日はLINE、明日はInstagram、次の日はWhatsAppかもしれません。このような状況で、あなたが毎回異なるSNSを選ぶのではなく、『今日使うSNS』という指示だけを与えれば、そのSNSに自動的にメッセージが送られる。そんな仕組みがINDIRECT関数です」
今度はエルが眉をひそめ困惑気味だったが、アキラと貴美代は何となく理解した様子だった。貴美代は誰に言うともなく呟いた。
「実は元カレにも一度電話したんだけど…」
「着拒されてたとか?」アキラが尋ねる。
「ううん、留守電に切り替わったから。メッセージ入れずに切っちゃった」貴美代は目を伏せ、か細い声で続けた。「折り返しも無かったから、向こうは話したくないんだろうと思う」
「まだ怒ってるのかな?」エルが言う。
「分からない…」貴美代は唇を噛み、目に涙を浮かべた。「でも怖くてもう電話なんて出来ない」
「貴美代さんはよりを戻したいって思ってるの?」アキラが静かに尋ねた。
「えぇ」貴美代は小さく頷いた。
薔薇筆は少し考え込むような表情を見せてから、慎重に言葉を選びながら話し始めた。「失礼かもしれませんが、会社を辞めた理由について聞いてもいいですか?元カノが職場にいて、しかも社長の娘だったとなると、居たたまれない状況だったのではないでしょうか」
貴美代は深いため息をついた。「分かりません。実は、もしかしたら父が辞めさせたのかと思って問い詰めたんです。でも父は知らんの一点張りで…」彼女は一瞬言葉を詰まらせ、それから決意を固めたように続けた。「復職は無理かもしれない。でも、せめて恋人同士の関係は修復したいんです」
貴美代の言葉には、偽らざる本音が滲んでいた。部屋の中に重い沈黙が流れる中、他の三人は彼女の複雑な心情を察し、どう声をかけるべきか迷っているようだった。
そんな沈黙を破ったのはアキラだった。
アキラは何か思い出したかのようにエルに尋ねた。「エル、その元カレは最近店に来たことある?」
「ううん、貴美代さんと来たのが最初で最後。顔は覚えてるから、来たら分かるよ」とエルが答える。
「そうか…もう来ることはないかな…」アキラは当てが外れたように落胆した。
「あの…彼、サイトのクイズは今でも見てるんじゃないかと思います」と貴美代が言った。「ただ、一人でスナックに来る性分じゃないみたいで、今度来る時は新しい彼女ができた時かもしれませんね」と少し自虐的に付け加えた。
「そうか…クイズは見てるか…」アキラが考え込んでいる間に、薔薇筆が提案した。「新しいクイズを作りますか?彼に向けたメッセージを潜ませたやつを」




