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遺物の哀歌Sheet1:ストレンジャー

とある街の小さなスナック『エンター』。

何故かIT絡みの難事件が舞い込むが、馴染み客と結成したチーム『エクセレンター』が華麗に解決。


【登場人物】

アキラ:『エンター』の店主。性別不詳で通している。ショートヘアで丹精な顔立ち、Tシャツにレザージャケットが定番のスタイル。

客はマスターかママか分からないので、「アキラさん」と呼ぶようになる。


エル:『エンター』唯一の従業員。自称異世界から転移してきたエルフ。尖った耳がユニークな北欧系美人。魔法は使えないがPC、特にエクセルに精通している。"エル"はアキラの付けた愛称。


川口:チーム『エクセレンター』発起人。通称"グッさん"。ダジャレとオヤジギャグを好む会社経営者。


育美:『エクセレンター』命名者。サブカル好きな20代OL。マニアックな知識が問題解決の糸口になったりする。アキラとエルのカップリング推し。


薔薇筆:20代後半の技術系会社員。店のサイトにクイズを送り付けて来た。"薔薇筆"はその際のハンドルネーム。理数系が得意な事から『エクセレンター』のメンバーに加わる。現在育美と交際中。

年が明けて間もない1月半ば。

アフターコロナの昨今、企業関連の新年会はほぼ需要を失っていた。

少なくともここ『エンター』では、そんな状況だった。今日も閑古鳥が鳴くほどではないものの、週末にしては寂しい客足だった。


ボックス席には、バイク屋の店主とツーリング仲間の二人が座り、アキラとバイク談義に花を咲かせていた。アキラのバイクもその店でメンテナンスをしてもらっている。


カウンター席の二人組が帰るのと入れ替わりに、薔薇筆が現れた。入口で見知らぬ女性に話しかけたかと思うと、その女性と連れ立って店内に入ってきた。

「いらっしゃい…えっと、お連れの方ですか?」エルは恐る恐る薔薇筆に尋ねた。付き合っているはずの育美さんとは違う女性。ヤバい、ヤバい、アキラ、どうしよう!? ボックス席に目をやると、当のアキラはバイク仲間と話に夢中で、状況に気付いていないようだった。


「あー、エルさん。こちらの方は入口でお会いしただけで、連れではないです。呼び込みみたいなことをしてしまいました」薔薇筆は、不審そうな表情を浮かべるエルに手短に弁明した。

「その…今日は育美さんは?」エルの返答にはまだどこか疑いの色が残っていた。

「育ちゃんは従姉妹が今度成人式なので、その関係で実家のほうへ帰っています。振袖の着付けとか、そんなこんな…」薔薇筆はそう言いながらカウンター席に座った。


「あの、私、隣よろしいでしょうか?」件の女性が薔薇筆とエルの両方に声をかけた。

「どうぞ」と言った薔薇筆だったが、女性が本当に隣に腰掛けたのでちょっと戸惑った。普通に考えて一つ席を空けるものだと思っていたからだ。


「じゃあ、ハイボールをもらおうかな」と薔薇筆はおしぼりを受け取りながらエルに告げた。隣の女性もすかさず「私もそれで」と言った。誰が見ても連れだと思うだろう。薔薇筆は観念した様子で彼女と会話を始めることにした。

「この店は初めてですか?」と無難な質問を投げかける。

「えっ…あー、二回目でしょうか…」彼女は少しバツが悪そうに答えた。

「去年の十月の終わり、男性といらっしゃいましたよね。そこのボックス席で…」エルが話に割って入ると、女性は驚いた様子を見せた。


「ちょっと、エルさん、よく覚えてますね」と薔薇筆が彼女の代わりに驚きを表現する。

「うん、一度会った人の顔は大体覚えてる」とエルは当然のように答える。通常、別の男性と来店した過去を暴露するなんて行為は禁じ手だが、今回は薔薇筆が相手なのでアキラも咎めたりしないだろう。

「エルフの特殊能力ですか?」と隣の女性が言う。二度目の来店でエルの素性を理解しているようだった。

「どうかな。…個体差ってやつじゃないかな」とエルは素っ気なく答えた。


そんなやり取りをしていると、ボックス席からアキラが戻ってきた。「いらっしゃい、お二人さん。ペンちゃん、こちらはお知り合い?」とアキラは薔薇筆に尋ねる。

「いえ…」先ほどエルにしたのと同じ弁明をする薔薇筆。アキラは女性が何か深刻な事情を抱えているように見えた。

「じゃあ、一応紹介しておこうか。俺はこの『エンター』の店主アキラ。こっちはエルフのエル。そして隣は常連の薔薇筆さん」


「バラフデ…えっ、もしかしてサイトでクイズを出題してる薔薇筆さんですか!?」女性は驚きの声をあげる。「薔薇筆さん、今日はあなたに会いたくて来たんです!」じっと薔薇筆を見つめる女性。硬直する薔薇筆。

アキラとエルは唖然とした面持ちで顔を見合わせた。

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