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生きるよすが アルベルトSide

1867年7月3日のザックリードハルトのルイ皇太子とディアーナな結婚式でのアルベルト。

 俺は気持ちが沈んだ。

 結婚式は素晴らしかった。ザックリードハルトの皇太子と皇太子妃の結婚式は、緊急に決まったにも関わらず、素晴らしい挙式だった。ディアーナは震えるほど美しかった。


 大聖堂に馬車で現れたディアーナは、見たこともない美しく豪華でおとぎの国の主人公のようなドレスを着てはにかんでいた。本当ならば、本当ならばだ。俺の花嫁としてそのディアーナがいたはずなのだ。


 俺は頭を抱えて泣いた。結婚式に参加しながら、ディアーナの幸せを願って泣いた。俺が幸せにしてやれないことを悔やんだ。だが、ルイ皇太子ならば、きっとディアーナを幸せにしてやれるとも、心のどこかでちくりと胸に棘がささる思いと共に思った。


 認めよう。

 後悔しているし、やり直せるものならやり直したい。

 でもやってしまったことは取り返しがつかないこともある。

 人の気持ちを傷つけてしまって、それをなかったことにできないことがある。愛においても、友情においても、ただ一緒にその場の空気を吸っているだけの人間同士においても。相手が見えない場合においても。


 相手が見えないからって適当なことを気軽に言ってふざけたことを言ってくる輩もいる。


 俺は王太子だから特にそれが分かる。王太子でなかったとしても、一般の民においてもだ。気軽に取り返しがつかない事を言ってくる輩がいる。


「母上、大事なお話があります」

「何でございますか。ディアーナは美しくて素晴らしい花嫁ね。あなたも祝福しているのでしょう?」

「はい、ディアーナが幸せになってくれることを願います。俺は王座を辞します」


「はい?フェリクス、アルベルト兄さんの言葉を聞いている?今の言葉をあの幸せそうなディアーナが大観衆に熱狂的に歓迎されて、正式な皇太子妃として馬車でパレードしようとしている瞬間に、こんな大事な重大発言をするなんて、息子の育て方をやはり私は間違えましたね」

「母上、申し上げにくいのですが、私も王座を辞します」


「え……?フェリクス、あなたも王座が要らないとおっしゃるのですか?」

「はい、鉄道ビジネスに力を注ぎたいです」

「それは王座を辞さなくてもできると思いますが」

「いえ、もっと自由に人生を生きたいのです」

「なるほど……って。国王であるお父様にお話をまず二人ともしなさい」

 俺たちはディアーナが花嫁衣装の長いドレス馬車に仕舞い込み(多分、あれは魔力を使ったね)、ティアラを頭に乗せた状態で、ルイと一緒にパレードに出発して行った姿を見送っていた。


 心は決まった。


「なるほどねぇ。ディアーナまでドミノ倒しで王権辞退が続くのかもしれませんね」

「かもですねぇ、母上」

「本当に、俺もそれは一瞬思いましたよ、母上」

「この時代、特別な力なくして王位を維持するのは至難の技ですから」

「我々のような普通の人間は、8代ぶりに現れた魔法の長椅子を乗りこなす『ブルクトゥアタ』のような特別なスターに任せるべきかと」


 母上とフェリクスには言えなかったが、ディアーナには幸せになってほしいが、彼女が望むならばいつでも応えようと思っていた。


 多分、きっと、それはないのだが。

 俺が生きていくためには、何かの矜持が必要なのだ。俺の自由に思わせてくれ。


「あなた、ディアーナを諦めきれないのね」

「母上っ、なぜそれを……?」

「分かりやすわ。フェリクスもそれは分かっていたでしょう?」


「はい、母上。兄さん、兄さんがディアーナを諦めていないのは分かるよ。アリス・スペンサー邸宅にいたみんなが分かっているよ」


「あの家は素晴らしかったわね。時々、皆であそこに集まりたいわね」

「はい、是非それを提案しましょうか。家を移動するのは大変だし、最低限動き続けていられるようにするにはどうするかをディアーナに相談しましょう」

「あ!母上、禁書の閲覧ができますかね」

「だって、もう王座は関係ないのですから。王座を辞するのですから、評判はもう気にしなくて良いですよね」

「我々は盗まず、正式に堂々と禁書を閲覧しましょうよ。ブリンジャー子爵がいるじゃないですか」

「お父様が国王でいらっしゃる間は、控えめにしましょう。ただ……そうね。ブリンジャーに頼めばなんとかなるわね。ただ、エミリーは絶対にダメよ、アルベルト」

「分かっています。テスにもエミリーにも近づきません。ディアーナを失った原因ですから」

「よろしい」


 ディアーナの結婚はショックな出来事だが、なぜか人生の決断ができたことでこの結婚式は晴れ晴れとした気持ちで過ごすことができたのだ。


「兄さん、氷の貴公子が王座を捨てるとなると、もっとモテますね。遊ばないように」

「分かっている。ディアーナを失って懲りた。次のチャンスを伺う者としては遊ぶ気持ちはない」

「次のチャンスって……アルベルトいい加減になさい。心で思うのは自由ですが、口に出して言うのは控えなさい」

「はい、私の生きるよすがのようなものですので、自分を保つためにはどうしてもその希望が必要でして、大変申し訳ございません」


 パレードの後、素晴らしい披露宴が開かれた。


 王座ドミノ倒しの可能性は、エイトレンスの王妃である母上からこっそり花嫁姿のディアーナに告げられた。


「そういうことなのね!みなさんが幸せになるということなら時が来たら引き受けますわ」


 ディアーナの言葉はこうだったそうだ。


 つくづく大した女性に惚れてしまったものだ。俺の恋は生涯続くことを確信してしまった。




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