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家隠し ディアーナSide(2)

「さあ、窓からルイとアダムの活躍を見るとするか」

「そうだな」


 アルベルト王太子とフェリクス殿下が話していると、アダムの声が階下からしてきた。


「手伝って!ジャック、ダニエル、アルベルト!フェリクス!レイトン!長椅子に足跡消しのための細工をするから!」


「おっと。お呼びだ。行こう」


 二人は部屋を出ていこうとして、アルベルト王太子は振り向いて優しい笑顔で私に言った。氷の貴公子が愛を囁くと、彼の周りに信じられないほどの温かさが宿る。

 

「ディアーナ、無理をするなよ。愛しているんだ。君が誰を愛そうと、俺は君を愛する」


 アルベルト王太子とフェリクス殿下は階下に降りて行った。アダムとルイが何かを皆に説明している元気な声がする。

 


 私の心にずっと引っかかっていることがあった。最初にルイと出会った日のことだ。二年後にはアルベルト王太子は私と別れたことを後悔しているとルイが言っていたが、そのことは今のアルベルト王太子の迫り方を見ると、当たっていると思う。


 もう一つ、ルイが最初に出会った日に私に言ったことがある。そっちの話が私の心にずっと引っかかっている。アルベルト王太子は亡くなってしまうとルイが言ったことだ。


 年をとってから亡くなるのだろうか。

 しかし、あの時のルイの言い方は数年内の近いうちにアルベルト王太子が亡くなると言っていたように思う。それは正直嫌だ。生きていて欲しい。私の最愛の人はルイだ。しかし、氷の貴公子がこの世から消えてしまうのは嫌だ。


 そんな感傷めいた感情に振り回されると同時に、アルベルト王太子は、どうやら私が恋人だった時代に、4人と関係を持ったらしいということが私の頭をよぎった。そのことで悲しく寂しくどうしたら良いのか分からない感情にまた襲われる。


 私は頭を振った。


 ――今はもっと考えるべきことがあるわ。アダムとルイが長椅子で砂漠の上を走り回って、フェリクスさまの足跡を消している間に、私は少しでも家を移動させるのよ。そしてこの家を完全にまた隠すのよ。


 

 私はベッドから起き上がってブランドン公爵家から運び込んだトランクを開けた。新たなチョークを取り出して、床の八芒星を書き直した。コリアンダーはスープに入っていたのでより強く魔力回路を開ける状態になったと思う。


 護符を持った。マカバスターで座標を少しずらすために位置関係を確認した。ほんの少しだ。ほんの少し、馬車で20分進んだぐらいだけずらして隠そう。使える力はまだあまり多くないはずだから。


 私はドアの外に出て、階下に向かって思いっきり声を出した。


「みんな、何かにつか待って!家を移動させるわ!」


「わかりました!お嬢様!」

「大丈夫です!」

「大丈夫だ!」

「いいわ、ディアーナ姉様!」

「よし、いいぞ!」


 皆が返事をしてくれた。窓の外を見ると、ルイとアダムが長椅子を使って猛然と砂漠の上を滑走している姿が見えた。フェリクス殿下の足跡を消して、これからやってくる軍を撹乱させるのだ。


 私は客間の八芒星の中に仁王立ちをした。大切な護符を両手で包み込み、目をつぶって念じた。八芒星の真ん中に置かれたマカバスターに力を注ぎ込んだ。


 家が消えたのが分かった。そのまま少しだけ何かが動いた。すぐにじわっと浮き上がるように私の周りに家が現れた。元の家の様子と全く同じで、私はアリス・スペンサー邸宅の客間に立っていた。


「みな、無事かしら?」


 私は聞きながら、階下に降りた。5日ぶりに動くので、妙な感じだが湯につかりたい。


「しまったわ。ルイとアダムにこの家が見えなくなったわ」


 私は一人で家の外に出た。砂漠が広がり、遠くに軍人が乗っているラクダの大群が見えた。私を見つけたルイとアダムが一直線にこちらに飛んできた。


「ポルタートレスティンギトゥルッサ!」


 ラクダで進む軍から、ルイとアダムの姿を隠した。私の姿もだ。


 ルイとアダムは、シーツの端に何かの重しを包んで縛り付けて、そのシーツの先端を長椅子の脚にくくりつけて砂漠スレスレを飛び回ることで、フェリクス殿下と案内人の足跡を消すという偽装工作したようだ。


 アリス・スペンサー邸宅の中からヴァイオリンとピアノの音が聞こえてきた。誰かが弾いているらしい。ロミィとフェリクス殿下が踊っているような笑い声がしている。ダニエルがピアノを弾いているのだろうか。ヴァイオリンを弾いているのはアルベルト王太子だろう。


 明後日は私とルイの結婚式のはずだ。夕暮れが近づいて一番星空が瞬き出した砂漠の景色は、空が赤く染まっていて、とても雄大で美しかった。すぐそこまで軍がきていたとしても、私たちの姿は隠されていて見えないだろう。


 アダムとルイが勢いよく飛んできて、私をルイが長椅子に乗せてくれた。私はルイの温かで逞しい背中にピタリと体をくっつけて、長椅子の上で幸せな気分を味わった。長椅子は風を切って砂漠の上を飛んだ。私の足跡も二人で消してくれた。


 私たちはアリス・スペンサー邸宅の中に舞い込むように長椅子で飛んで入った。


 砂漠の中にあるアリス・スペンサー邸宅は賑やかな笑いに包まれていた。


「今夜はフェリクスさまがお持ちになった食料でご馳走ですよ!」


 ミラが元気よく皆に告げ、歓声が上がった。アルベルト王太子とフェリス殿下とジャックとルイは、軍が禁書を探し回る様子を窓から監視していた。


 間一髪で軍の襲来に間にあったようだ。


 私たちは砂漠の家で幸せな夜を過ごした。油断はできないが、何とか私たちは軍の追跡をかわせたようだ。私は英気を養うために、沢山食べてその夜はぐっすりと眠った。



 明け方近くに、寝台列車で各国を旅をする夢を見た。隣にいるのは誰だろう?誰かが私に話しかけていたが、覚えていない。


「女王陛下になったらできないわね」



 そう誰かに言われて飛び起きた。アルベルト王太子と喜んで快楽に耽っていた侍女がそこにいたと思う。私の心は激しく動揺していた。嫌な夢だ。


 水差しから水を飲むためにコップを手に取った私は、アリス・スペンサー邸宅の客間のベッドの枕元にある物を見つけた。


 置き手紙だった。『結婚式の前に』という書き出しで始まる手紙だ。ルイからだ。





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