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日取り ディアーナSide(2)

「きゃっ!ロミィ、あなたと一緒にいるのはアルベルト王太子だわ!彼をご存知なの?」


 私はロミィの長椅子に一緒に乗って現れた男性に悲鳴をあげた。


「ロミィ?」

「何やっているんだ?」


 ロミィが長椅子に乗って颯爽と現れたとき、ルイとアダムもギョッとした表情になった。


 今日は宮殿の中で待ち合わせをしていた。ロミィはわざわざ宮殿の外から長椅子に乗って現れたのだが、一緒に乗っている男性がアルベルト王太子だと分かると、私は悲鳴をあげた。ルイもアダムもひどく不服そうだった。


「そこのカフェで、偶然お会いしたの。この方が無理に乗り込んできたのよ」


 ロミィはすました表情で言った。


「ディアーナ、君にどうしても会いたかったから俺が無理に頼み込んだんだ。彼女を怒らないでやってくれ」


 アルベルト王太子は氷の貴公子然とした態度で説明した。


「今日はあの本の呪文を試すつもりだったのだけれど」


 私が咎めるようにそう言うと、ロミィとアダムは大喜びした。


「ついに?嬉しいわっ!」

「じゃあ、いつものディアーナ姉様の砂漠のお家に行きましょう」


 私は憮然とした態度で「アルベルトさまも連れて行くの?」とロミィに聞いた。挙式の日取りの話をしたいのに、アルベルト王太子がそばにいるのは困るという思いだった。


「ルイ兄様とディアーナ姉様の結婚式の日取りが決まれば、アルベルトさまも引き下がるでしょうし」


 私はロミィがささやくように言った言葉に思わずハッとした。


「ルイ、すぐにでも結婚しましょう。早くあなたの妻になりたいの」


 私はルイの瞳をまっすぐに見つめて言った。今日、この話をしようと決めていたことだ。


「ディアーナ、結婚式は来週の日曜日でもいいかな?早く君と一緒になりたいんだ」


 ルイは私に頬を赤らめて言った。ルイは長椅子から降りてきて私を抱き寄せて、私の目をのぞき込んだ。


「いいわ」


 私がはにかんで言った途端に、ロミィの長椅子から飛び降りたアルベルト王太子が叫んだ。


「ちょっと待った!そこの二人!王族の結婚だぞ?ザックリードハルトは巨大な国じゃないか。その次期皇帝となる皇太子の結婚式がそんな簡単に決められていいものかっ!」


 アルベルト王太子は寄り添うようにくっついて立つ私とルイに、そう叫びながら走ってきた。


「大丈夫だ。ディアーナとすぐにでも結婚する!」


 ルイはそう言い返すと、私の手を取って宮殿の中に駆け込んだ。


「ダニエルっ!挙式の日取りを決めた!」


 ルイの呼びかけで褐色の髪の凛々しい若者が駆け寄ってきた。素晴らしく仕立ての良いスーツをきている。その若者は「いつにされたのです?」とルイに聞いた。彼はダニエルという名らしい。


「待て!待て待て待て待て待て!」


 アルベルト王太子が後から追ってきて、大声でダニエルとルイのやりとりを止めようとした。


「こちらは、アルベルト王太子だ」


 ルイはブロンドの髪を靡かせて後ろから走ってくる氷の貴公子をうんざりした様子で振り返って、ダニエルに説明した。


「おぉ、エイトレンスの王太子様でございますね。お初にお目にかかります」


 ダニエルは恭しく礼を尽くして挨拶をしようとしたが、アルベルト王太子はダニエルに飛び付かんばかりに走り込んでくると、ダニエルの両肩をガシッとつかんでゆすぶった。


「この皇太子はおかしいぞ。来週の日曜日にザックリードハルトの皇太子の結婚式をあげると言っているぞ!」


 しかし、アルベルト王太子はダニエルにやんわりとなだめられた。


「皇帝陛下からも早く挙式を上げるようにと申しつかっておりますので、全力で来週の日曜日の挙式を実現させます」

「はぁっ!?いくらなんでも結婚式の準備が7日かかそこらでできると思えない」


「我が国の皇帝がその気になれば、できますとも。一応、ザックリードハルトの皇帝ですし、アルベルト王太子様がおっしゃるように巨大な国の皇帝ですしね。仮にもディアーナ嬢はザックリードハルトの皇太子妃になられる方ですし、それはお望みとあれば叶えられないものはないと思います。我々は未来の皇太子妃に全力でお支えするのみでございます。こんな素敵なお方を皇太子妃に迎えることができて、きっと我が国の民は大喜びすることでしょう」


 ダニエルはビシッとアルベルト王太子に言い返した。私は初めてお会いしたダニエルのことが大好きになりそうだ。アルベルト王太子を口で打ち負かせるとしたら、ダニエルのような人だ。


「アルベルトさま、私もルイ皇太子と一刻も早く一緒になりたいのですわ。何もかも捧げる覚悟でおりますの」


 私も畳みかけるようにそう告げると、アルベルト王太子は真っ青になった。彼は宮殿の床に崩れ落ちた。


「早すぎる。いくらなんでも、俺に振ってくださいと君がお願いしたのは6月20日、ついこの間のことではないか」

「えぇ、新たな恋に落ちたのでございますわ。わたくしは本物の恋をやっと見つけたようでございます」


 私はルイにキスをした。彼の柔らかな唇が私の唇を受け止めて、彼の両手が私を抱きしめた。


「あなたと違って、ルイは私を裏切らないと思うの」


 私はキッパリと言いたかったが、声は震えてしまった。寂しい悲しい切ない思いが私の胸を突き刺した。胸が痛かった。


「ディアーナ、そうだ。俺は君を決して裏切らない」


 ルイは私に宣言してくれた。



「わかった。来週の日曜日だな?」


 突然、皇帝の声がして私は飛び上がった。どうやら一部始終を見ていた皇帝が姿を現したのだ。


「ダニエル、総力戦で挙式の準備を進めなさい。来賓はもう間に合わないだろうから、各国から招くのは潔く諦めよう。ブランドン公爵にはすぐに知らせよう。悪いね、アルベルト王太子。うちは素晴らしいディアーナ嬢がルイの嫁に来てくれることになって家族一同大喜びなんだ」


 床に崩れ落ちてワナワナと震えるアルベルト王太子に、皇帝は愉快そうに告げた。


「君にも非があるんだろ?諦めなさい。ルイは我が息子ながら、女性には非常に真面目なんだ。ルイが惚れたのはディアーナ嬢一人だ。息子は生涯をかけてディアーナ、君を大事にすると思うよ」


 皇帝は、最後のフレーズは私に向かって優しく言ってくれた。私は喜びのあまりに体が震えた。あれほどのショックの後に、こんな幸運が待ち受けているとは全く思えなかったことだ。


 こうして私の結婚式の日取りは決まったのだ。指を絡めてしっかりと私の手を握ったルイは、ブロンドの髪の奥から碧い瞳で私を見つめて「愛しているんだ、だから君と早く一緒になりたい」と私に囁いた。


 私も「はい」と返事をした。


 床に崩れ落ちて真っ青なアルベルト王太子には、この時新たな来客があった。


「兄さん!」


 私たち皆が振り返ると、従者に案内されてやってきたエイトフレンスのフェリクス殿下だった。アルベルト王太子の弟君だ。


「お前がなぜここに?」


 アルベルト王太子は不思議そうな表情でフェリクス殿下に聞いた。


「母上がザックリードハルトのディアーナ嬢に会ってくるようにとのことだ。さっきカフェで兄さんとジャックを見かけたんだ。兄さんが宮殿に長椅子で入るのを見かけて、宮殿の中を案内してもらっていたんだ」


 その言葉にアルベルト王太子はますます顔を引き攣らせた。見れば、フェリクス殿下の横にアルベルト王太子の参謀であるジャックが姿を現している。


「王座か?」


 掠れた声でフェリクス殿下に聞き返したアルベルト王太子は、絶望の光を目に宿していた。


「そうらしい」


 何かの暗号のような会話が兄弟の間で交わされたが、私にはよく分からなかった。ただ、とてつもなく良くないことを王妃様が考えているということだろう。


「見事に振られましたっすね」

「口の減らない奴め」


 ジャックは茫然自失となったアルベルト王太子を床から引っ張り上げて立たせた。


「ディアーナ嬢、ご結婚おめでとうございます。個人的には賢明なご判断だと考えます」

「ジャックっ、お前までやめろっ!」


 私はエイトレンスの一同がザックリードハルトの宮殿に揃ったことに戸惑いながらも、ルイが私に微笑む幸せに、あの心の痛手を忘れる事ができるよう私は願った。


「さあ、今日は過去に行くのでしょう?」


 ロミィは誰にも聞こえないような小さな声で、私とルイに聞いたのはその時だった。









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