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ピエロ アルベルトSide(1)

1867年6月25日、ザックリードハルトの豪華なホテルにいるアルベルト王太子。

「なんだよ……。俺は道化(ピエロ)かよ」


 ――何が氷の貴公子だ。笑わせるな。この情けない男のどこが貴公子だ。


 俺はジャックがしばらく面倒をみてくれていた、シャム猫のユーリーを抱いてザックリードハルトの豪華なホテルの部屋のベッドに座って途方にくれていた。


 パリはナポレオン三世によって大改造中であり、1867年の二回目のパリ万国博開催のために巨大な豪華ホテルが続々と建設されていた。例えばホテル・デュ・ルーブルだ。それをそっくり参考にしたようなホテルがザックリードハルトにもあり、俺とジャックはそのホテルに宿泊していた。


 寝台車が心配だからと着いてきてくれた護衛の者たちも同じホテルに宿泊させている。お忍びの旅なので、列車を利用しない時は目立つ護衛は控えてもらっていた。


 寝台車の試験運行はザックリードハルトの都の次駅で止まっているとジャックが教えてくれた。つまり、最初に考えたルートでゴビンタン砂漠のアリス・スペンサー邸宅を訪ねることはまだ可能な状況だった。元の計画のルートに戻るために、このホテルを飛び出して寝台車に飛び乗り、列車の旅を再会することはまだできるのだから。


「氷の貴公子も散々ですね」


 ソファに座って新聞を読んでいたジャックが俺に話しかけた。


「なあ、ユーリー」


 おっと、シャム猫のユーリーに語っている体で俺をおちょくるというスタイルか。


「口の減らない奴め。だが、今回ばかりはジャックの言葉は事実だ。自分が情けないが、俺のものだと思っていたディアーナは、俺のことを真剣に愛していると思わせながら、実はそうではなかった」


 俺はシャム猫を撫でながら、キッパリと言った。自分に言い聞かせるように。


「振られて当然のことをしましたからね」

「それはそうだ。だが、俺のことを愛しているんじゃなかったのか?」

「そこにこだわります?」


「俺のディアーナだと思っていたんだ、いや、確実に俺のディアーナだったはずなんだ」

「でも、思考回路がやばいですよ」

「どこが?」

「だって、エミリー嬢と同じように抱いてやるからとか宥めようとして言ったんですよね?発言が最悪です!」


「本当に?それって、でも……」

「どの立ち位置から仰っていますか?抱いてやるとか、どの目線で?ディアーナ嬢からすれば、この阿呆と言いたくなるセリフですっ!」


 相変わらずジャックは辛辣だ。平常運転のジャックの辛辣な言葉を聞いていると、俺は段々冷静になってきた。


「俺がもう一度、いや今度こそディアーナの心を掴むためにはどうすべきなのだろう。あの素晴らしい女神の心を掴むには何をすればいい?」

「いや無理っすね」


「俺の気持ちが収まらん。自分でも最悪なクズの振る舞いだとは思うが、人間は何度でもやり直せるはずだろう。だから俺もやり直したい。心を入れ替えたい。エミリーの豊かな胸に目が眩むんじゃなかった」

「今の発言にも問題があります」


「そうか。このセリフは禁句だな。今のは俺が完全に悪い」

「全部王太子が悪いんですよ。反省してください。失恋を認めて、先に進むのも人生ですよ」


 ジャックは新聞から目をあげて、静かに俺に告げた。俺はその言葉を胸に手を当てて何とか聞き入れようとしたが、どうしても無理だった。


「まだ、諦めきれない。最後までこの恋の成就を見るか、成仏を見るか、どちらかはっきりするまであがきたい」

「もう、十分はっきりしていますけどね」

「口の減らない奴め。俺の中ではっきりしないという問題だ」


 シャム猫のユーリーが呆れたように俺から離れた。ユーリーはソファにいるジャックの方に歩いて行った。


「ユーリー、お前まで俺を見放さないでくれ」


 俺がシャム猫のユーリーに悲しく懇願した時、ホテルを静かに誰かがノックする音がした。


 ジャックがハッとした表情になり、俺の顔を見た。


「――ディアーナ嬢であるわけがないだろうが、一応、チェックします」


 声にならないような小さな声で、ジャックが囁いた。俺は、心臓を抑えて深呼吸してジャックにうなずいた。襟元を正し、身なりを整えながら、背筋をまっすぐに伸ばして身構えた。


 ――頼む、ディアーナであってくれ!


 ジャックが静かにホテルの部屋のドアを開けた。


「……」


 ――なぜ無言なんだ?


「これはこれはロクセンハンナさま。ようこそ」


 ジャックの軽やかなよそ行きの声が聞こえた。


 ――ロクセンハンナ?クソっ!ルイのやつ……!




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