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嫉妬 アルベルト王太子Side

ゴビンタン砂漠に追放されたディアーナを寝台列車の試験運行を使って追いかけるアルベルト王太子。6月21の夜に乗り込んで6月23日朝までは快適な旅の模様。オリエント急行の初回運行は1883年10月4日夜、パリのストラスブール駅から出発した。1867年時点ではアメリカのジョージ・プルマンが寝台車を完成させて会社を設立させたぐらいでまだまだスタート地点にたったぐらい。



 

 大陸を横断する寝台特急の旅は快適だった。本物のベッドが運びこまれているのだから、当然なのかもしれない。ゴビンタン砂漠までの旅は後悔に苛まされて、辛い旅になる予定だった。しかし、シャム猫が俺についてきており、俺はシャム猫と共に寝台特急の豪華なコパートメントで過ごすことができ、激しい後悔は残っているものの、少しずつディアーナを取り戻せるのではないかという僅かな期待が膨れてくるのを感じていた。


 ジャックは俺がシャム猫の面倒を見ないと思ったらしいが、俺は傷心旅行に着いてきてくれたシャム猫に感謝していた。進んで面倒を見た。シャム猫はオスでユーリーという名だ。


 ユーリーと一緒に寝台車のベッドからカーテン越しに飛ぶように後ろに飛んでいく景色を見るのは素晴らしい経験だった。特に、薄暗い世界からだんだん夜が明けていく様を見るのは、信じ難いほど美しいものだった。


 俺の心は希望と哀愁の入り混ざった、なんとも言い難い失恋の心地を味わっていた。


 だが、その哀愁じみた心地は、1967年の6月23日の朝刊が配達されるまでのことだった。


 ユーリーを片腕に抱きながら、ドアを開けて朝刊の袋を手に戻ってきてた私は、衝撃のあまりにベッドの上にユーリーを落とした。


「なんだって!?」


 それは、隣国の怪物のような大国、ザックリードハルトの皇太子とその妹がブルクトゥアタだったというセンセーショナルな記事だった。美しい挿絵がついていたが、ザックリードハルトの私より8歳下の皇太子に抱きついている髪の長いマスクをした女性が描かれていた。見るからに美しい女性だと分かる挿絵だった。


『ワイン色の髪をした美しい女性と一緒に……』


 俺はそのくだりを二度見をした。


 ――まさかっ?

 ――いやいや、ディアーナなわけがあるまい。

 ――だって、ディアーナはゴビンタン砂漠にいるはずだろう?


 そこで、私の気持ちをさらにかき乱す感情が湧き起こった。


 ――もしかして、とっくに俺に愛想が尽きていて、ザックリードハルトのルイ皇太子を選んだとか?俺より8歳下の若いやつを選んだのか?


「うわっ!」


 俺は思わず声を上げた。シャム猫のユーリーがびっくりしてベッドから飛び降りた。


「嘘だろう?俺より彼の方が良いという決断か?ディアーナ……」


 俺は心拍数が跳ね上がった状態で、拳を握りしめた。


 ――痛恨の悔やみだ。俺はなぜ浮気した?他の女性をなぜ抱いたのだろう。しかも一人はディアーナの親友だぞ。クソっ!俺は最低のやろうだ。


 ――ザックリードの方が比べものにならないほどの大国だ。そこの皇帝の妃の方がずっといいに決まっているじゃないか。俺より8歳も下の彼はとてつもなくハンサムな青年として昨今有名だった。俺より奴の方が魅力があるということか?ディアーナ……。


 俺は寝台車のベッドの上を悶絶して転がり回った。


 ――バカだバカだバカだバカだバカだバカだ。


「俺は本当にバカだ!」


 俺は泣きたくなった。実際に鼻の奥がツンとして涙が出た。


「俺は振られた」

「俺は、もっといい男のザックリードハルトの皇太子の若造に恋人を取られた」

「ディアーナは、俺より奴の方に魅力を感じたんだ!」


 俺は涙声で一人で泣き喚いた。


「いやだ。いやだ。ディアーナを若造に取られるのは嫌だ。俺には年の功で何かもっとこう彼女を喜ばせることができる……」


 俺はそこで、自分の魅力を再考した。


「一体、どの点が隣のハンサム若造より優っているのだろう?」


 俺はどん底の気分になった。なぜならば、何が優っているのか分からなかったからだ。


「時間だ!俺の方がディアーナと長い時間をかけて関係を気づいた!」


 俺は全く手を出さなかったディアーナとの交際を思い出した。


 ――あぁ、彼女は完璧だったのだ。


 隣の芝生は青い?

 逃げる魚は大きい?

 失ったものは大きい?


 もう、この状態をどう表現すべきか分からないが、俺は何がなんでもディアーナを奪い返してやろうと心に誓った。


 ――絶対に、奴に取られるのは嫌だ!



 俺の中に何か得体のしれない情熱のようなものが湧き上がった。それは熱を持って、前に前にと俺を突き動かすのに十分なパワーを持っているものだった。





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