父である皇帝にバレて叱られる ロミィSide
1867年6月22日、ザックリードハルトの宮殿で父である皇帝と娘であるロミィの会話。兄のルイ、アダムと参謀ダニエルも同席。
「ロミィ、お前は何がしたかったんだ?」
父は皇帝である前に、一人の悩める父親だ。苦悩の表情を浮かべて11歳の私を見つめていた。父の父親は処刑されていた。神経を尖らせる問題として、皇帝としての民衆からの人気と、民による議会政治の実現を邪魔しないポジションを両立させるバランス感覚が必要だった。人気の度合いがあまり目立ち過ぎてもいけないのだ。父は私たち3兄妹の行末を案じていた。
ロクセンハンナ家末裔の3兄妹が、8代ぶりに出現したブルクトゥアタだというセンセーショナルな事実が暴露された。それが今後どういう風に皇帝の人気を左右するのか、未来が誰にも読めなかった。誰かに悪用される可能性を否定できないほどのセンセーショナルさで、熱狂的な温度感で国民に知れ渡ってしまったのだから。
「小学校の友達に自分がブルクトゥアタだと教えたかったの。本当に軽率だったわ。ごめんなさい」
私は謝った。アダムもそばにいて、固唾を飲んで私たちの会話の行方を見守っていた。父、ルイ兄様、アダム、私、ダニエルの5人で会話をしていた。
「ルイが一緒に乗っていたこの女性は誰だ?」
私はルイ兄様に答えを委ねた。ディアーナ姉様との出会いを正直に話すと、私たちが隣国の王立魔術博物館から闇の禁書を盗み出したことまでバレてしまう。慎重に言葉を選ぶ必要があった。
――私はディアーナ姉様とルイ兄様の結婚を強烈に後押しする役に徹しよう。出会いの説明は、ルイ兄様に任せよう。アルベルトの奴が奪い返しに来る前に、ディアーナ姉様と婚約までしてしまいましょう。
私は父に感情を悟られないように、目を伏せた。
「彼女はエイトレンスのブランドン公爵令嬢のディアーナ嬢です。エイトレンス王位継承権の21位の令嬢です。最近まではアルベルト王太子と婚約間近だと思われていましたが、彼女の方からアルベルト王太子の婚約の申し込みをキッパリ断ったそうです。魔力が非常に強い方です。勉強熱心で博識な女性でもあります。ザックリードハルトの皇太子である私の妃になって欲しいと望んでいます。ただ、彼女には私の身分はまだ明かしておりません」
ルイ兄様は一気にここまで話して、一息ついた。父の表情をうかがっている。アダムと私も父の顔色の変化を見逃すまいと、じっと父の顔を見つめていた。
「ブランドン公爵令嬢はどのくらい魔力が強いんだ?」
父は興味を惹かれた様子でルイ兄様に聞いた。
「おそらく当代随一。歴代随一かもしれません。彼女の魔力は隠されていたようです。彼女自身の話では、誰にも知られないようにしていたとのことでした」
父は身を乗り出してきた。処刑された父親を持つ皇帝としては、魔力の強い妃候補というのは、非常に気になるポイントで間違いないだろう。アダムも私も父の変化に期待を抱いた。
「エイトレンスのアルベルト王太子の婚約を断ったせいで、彼女はエイトレンスの王妃からゴビンタン砂漠への追放を命じられたそうです」
ルイ兄様の言葉に父は目を細めて何かを考え込んだ。
「ゴビンタン砂漠に追放されたくなかったら、自分の息子であるアルベルト王太子と結婚しろと脅迫したのだな?」
「そういうことになりますね」
「ブランドン公爵令嬢に、王妃はどうしても自分の息子の嫁になって欲しかったということだな」
父は腕組みをした。ルイ兄様は説明を続けた。
「ディアーナ嬢はブランドン公爵家の敷地にあった彼女の叔母の邸宅を一瞬で砂漠に移動させました。執事、メイドの2人と共に砂漠の家で快適に暮らしています。魔力と公衆衛生法、電気等の知識を複雑に組み合わせて、涼しくて湯浴みのできる生活を灼熱の砂漠で実現しています。父上にも是非一度遊びに行って欲しいです。ディアーナは瞬時に父上をこの宮殿から砂漠の家まで移動させてくれますよ」
父の目は思慮深い目線でどこか遠くを見つめて、ふうっとため息をついた。
「ディアーナ嬢に是非会ってみたい。私もその砂漠の家に行ってみたいものだ」
父はルイ兄様にそう言った。
「婚約の話はそれから進めるとしよう。まず、私が彼女に会ってからだ」
私は父がディアーナ姉様に好感を持ったのを感じて、黙った。
「ロミィ、ルイ。軽率な行動は慎みなさいと常々お前たちに言っていたと思う。ブルクトゥアタだとバレたことで、一気にお前たちに注目が集まった。これが良いことなのか、悪いことの始まりなのか、まだ誰にも分からない。くれぐれも注意をするんだ。これ以上、昼間に長椅子を乗り回すのは慎みなさい」
父は私とルイ兄様にそう言って、目を閉じた。
「はい、申し訳ありませんでした。」
「はい!本当にごめんさい!」
私たちは父に素直に謝った。
「善は急げと申します。早速ですが、明日の夜、ディアーナ嬢の家に父上も参りましょうか」
ルイ兄様は婚約に向けて話を進めたいようで、ここぞとばかりに踏み込んできた。
「まあ、明日の新聞の第一面はこの話だろうからな。ワイン色の美しい髪を風になびかせて、若い女性が皇太子と一緒に長椅子で飛んでいたという話は、あの素敵な挿絵で有名な新聞あたりが『皇太子の恋人か?』と表現して書きたてるだろう。明日、23日に彼女に会えるのなら会いたいものだ」
父の言葉にルイ兄様は目を輝かせた。
「ありがとうございます!」
ルイ兄様と私とアダムは、こっそり目配せした。今日の夜の闇の禁書の解析会は中止だとディアーナ姉様に伝えたそうだが、明日は約束の時間にゴーニュの森で待ち合わせをしていることになっている。
皇帝である父も長椅子でそこまで連れていくことになる。
これは、楽しい冒険かもしれない。父が舅になる日は近そうだ。
私は母を生き返らせるという危険な計画が、ディアーナ嬢が私の義姉になった瞬間に現実味が増すという期待に胸が膨らんだ。
その夜は、ダニエルは何も怒らなかった。あまりの事態に、どうしたら良いのか分からなくなったようだ。
私たちは父に怒られただけで、放免されたのだ。腫れものに触るように周りの者たちに距離を取られた私たちは、いつもより早めにぐっすり眠ることができたぐらいだった。




