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裏切りの事実

 私の秘密は、過去の人生の知識も使えることだ。給水の仕組みや湯の仕組みやトイレの仕組みには、過去の会社員時代の知識と魔力を組み合わせている。また、エアコンの仕組みや太陽光発電の仕組みと魔力と組み合わせて使っている。


「ディアーナ、ねえ、この家の仕組みはどうなっているの?」

「砂漠なのになぜこんなに涼しいの?」


 ルイの弟だという12歳のアダムと、ルイの妹だという11歳のロミィは私を質問攻めにした。二人とも長い髪の毛を洗って乾かすと、また三つ編みにしていた。それは小学校の規則だからだろう。ザックリードハルトにそういう規則のある特殊な小学校があることを私は思い出した。魔力を有する子たちのための小学校だ。


 アダムもルイと同じように金髪で青い瞳をしていたが、ロミィはブルネットでブラウンの瞳の持ち主だった。


「魔力を使っているのよ。やり方はそうね、あなたたちにも教えられない秘密よ」


 私は二人の好奇心をなんとかかわそうとした。


 この時代の一番普通の女の子であるメイドのテレサとミラは、砂だらけになったルイとアダムとロミィの服を洗うのに四苦八苦していた。こっそり私は魔力で砂を払ってあげて感謝された。


 ルイたちの言葉には微かに訛りがあった。訛りから考えると、やはり隣国ザックリードハルトの民だろう。そして、彼らは貴族だろう。ルイは王立魔術大学に通うと言っていたし、三つ編みの規則のある小学校に通うアダムとロミィの話から、3人とも魔力を有するのは間違い無さそうだった。


 彼らが乗っていた長椅子だが、飛ぶ長椅子の存在は私でも知っていた。しかし、おとぎ話か伝説上の存在だと思っていた。魔法の長椅子を家宝としている貴族家系が確かに存在したはずだが、彼らが打ち明けてくれるまでは聞かずにおこうと思った。


 執事のレイトンは高位貴族に対する態度を保ち、丁重に3人に接していた。


 お昼ご飯はハッシュド・ビーフ、プディング、バターたっぷりのマフィン、干し葡萄入りケーキ、クランベット、ジンジャーエールだった。コックから私付きのメイドになったミラが大活躍してくれたのだ。美味しかった。


 これから食料をどう調達するかは課題だが、アダムやロミィ、ルイも私もこの日の昼食に大満足だった。レイトンとテレサとミラも食事を取り、十分にエネルギーが補充できたようだ。


 私はこの家が私の叔母のアリス・スペンサーの邸宅であることをルイとアダムとロミィに説明して、事情があって王妃様からゴビンタン砂漠に追放されたので、1年のつもりで今朝家ごと魔力で移動させてきたばかりだと説明した。


 そして、アリス叔母の集めた本がたくさん並べられている図書室に、アダムとロミィを案内した。彼らが本に夢中になっている状況を確認すると、ルイをそっと書斎に呼んだ。


「昨日、アルベルト王太子に私を振ってくださいとお願いしました。そしたら、王妃様に砂漠への追放を命じられたの」


 私は自分を見つめる彼の煌めく瞳に圧倒される思いだったが、説明した。


「私はディアーナ・ブランドンで、19歳でブランドン公爵家の長女。でも、今は追放された身よ。あなたたちがなぜ禁書を盗んだかは、目的はアダムから聞いたけれど、どうやって禁書を使うつもりなのかしら?」


「それはこれから考えるんだ。まず読み解かなければならないし。これほどの家を一気に砂漠まで移動するほどの魔力があるディアーナにお願いがあるんだ。僕らに協力して欲しい」


 私は闇の禁書を盗んだザックリードハルトの兄妹に、協力を要請されてしまった。


「実は私もお願いがあるの。あなたの国は、言葉の訛りからしてザックリードハルトの人よね?あなたは我が国のアルベルト王太子の愛人の話をしたわ。どうやってその事を知ったのか、経緯を詳しく教えて欲しいの」


 私の質問に彼は一瞬考え込んだ。


「僕と一緒に見てみる?ディアーナの魔力と僕の魔力で、僕が見たものを一緒に君も見ることができるかもしれない」


 私は悩んだ。愛人とアルベルト王太子が一緒にいるところを見るということだろうか。どうすべきか悩む。だが、私は数分考え込んだ後、覚悟を決めた。


「自分の目で確かめられるというなら、それが一番だわ。私も見てみたいわ」


 私は震える思いだったが、本当に私の親友が王太子の愛人なのかをどうしても確かめたかった。


「じゃ、これから長椅子で行こう。ディアーナの魔力で、ゴビンタン砂漠を抜けて宮殿までこの長椅子を移動させてくれたら、さっきみたいに竜巻に襲われることもないと思う」


 ルイは私を見つめた。


「いいわ。レイトンに説明してくるわ」


 私は正直どこかでルイの勘違いであって欲しいと思っていた。王太子の愛人が私の親友であるはずがないと思いたかった。王太子に侍女の愛人がいることも信じられない思いだった。


 執事のレイトンやテレサとミラに説明した後、私とルイは玄関先までルイが乗ってきた長椅子を運んだ。砂の上に五芒星を描き、ちょうど中央に長椅子が来るように置いた。そして、長椅子の上に、馬に乗る要領で跨ったのだ。


「つかまって!」



 私はルイにしっかりとつかまった。そして、小さく呪文を唱えた。私の手には護符もある。


 一気に長椅子は宮殿まで動いた。私は宮殿の森の中に長椅子を移動させた。


「凄い。あっという間に移動できたね。さあ、今は1867年6月21日、午後14時30分だね」


 ルイは私に懐中時計を見せてくれた。金の鎖の随分立派な時計だ。


「ええ、そうね」


 私はうなずいた。


「ここからは、この長椅子に本領発揮してもらう」


 ルイはそう言うと、私にしっかりつかまるように言って、高速で長椅子を飛ばした。


 森を抜けて王家所有の別邸が見えた時、ルイは後ろにいる私に振り向いて、ささやいた。


「今は1867年、6月3日の午後2時だよ」

「えっ!?」

「この長椅子は少し前の過去には行けるんだ」


 私はひどく驚いた。


 過去に行ける!?


 ルイが黙って2階の寝室の窓の外に長椅子を飛ばした。中には親密な体勢の2人がいた。1人はアルベルト王太子で、1人は宮殿で働く若い侍女だった。2人共何も着ていなかった。


 侍女が喜んで全てを捧げている様子が分かった。


「もういいわ」


 私が力なくそうルイに告げると、高速で長椅子が飛んで、宮殿に戻った。


「6月15日の午後4時だよ」


 ルイが説明した。


 豪華な客間で王太子と抱き合うエミリーの一糸纏わぬ姿が見えた。エミリーは幸せそうだった。


 私は泣けてきた。

 親友のエミリーは、私がアルベルト王太子にゾッコンで、王太子の恋人として、私がプロポーズを待っていたのを一番良く知っていた令嬢だった。




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