やってきた可愛いあの子は宇宙人
「すぅー……すぅー……」
ある屋敷の寝室で、布団を被って寝ている者がいた。
そこへ、黒い影が忍び寄る。
ヌルリと触手を伸ばしてきたその時、部屋の明かりがついた。
「きゃっ!」
「ミュータン、また入ってきたな。駄目だと何度言ったらわかるんだ」
怒っている彼の名は、ハルト。中学生だが、両親はすでに他界しており、この屋敷に1人で住んでいる。
「はわわわ! バレていたんですか?」
驚いているこの少女は、ミュータン。ピンクの髪をツインテールにしている。
しかし、彼女は人間ではない。
上半身は普通の人間だが、足は6本の触手である。
つまり、宇宙人なのだ。
ミュータンが慌てていると、ハルトはため息をつく。
「こんな事もあろうかと、偽物を置いてて正解だったな」
ハルトが布団をめくると、スピーカーをつけている、丸めた布が現れた。
「あれ?! ハルト様じゃない!」
真実を知ったミュータンは、ガックリとうなだれる。
「せっかくハルト様を診察できると思ったのに」
「そんな事、しなくていいから」
ショックを受けているミュータンを見ても、ハルトは動じない。
「ミュータンは、僕の家にいきなりやってきたと思ったら、僕の体を調べたいとか言ってきただろ?」
言いながらハルトは、ミュータンと視線を合わせるようにしゃがんだ。
「あと、屋敷に突き刺さっている、あの宇宙船もなんとかしてくれないか」
「宇宙船はちょっと無理ですぅ。それに、大好きなハルト様の体の隅々まで調べたいじゃないですか」
「ミュータンのそれは、好奇心というより、欲望に近いから嫌なんだよ」
「そ、そんな風に私を見ていたんですか!」
「違うのか?」
「違います! ただただ興味があるだけですぅ!」
「かわいい……」
頬を膨らませながら怒るミュータンに、ハルトはぼそっと呟く。
それを聞いたミュータンの顔は、みるみる赤くなる。
「きゃーっ! ハルト様から『可愛い』って言われちゃったですぅ!」
「はしゃいでないで、買い物行くよ」
照れているミュータンを無視して、ハルトは玄関で靴を履いていた。
★★★
「こっちに来てから外に出るの、初めてですね!」
「そうだな」
ハルトの横を歩いているミュータンは、白いワンピースに水色の靴を履いている。
外見は、どう見ても人間である。
「足、変える事出来たんだな」
「はい。残りの触手は隠してますけど」
「まぁ、気楽に宇宙人を、外に出す訳にはいかないからな」
「それも、そうですね……」
「ミュータンも、あまり目立ったら駄目だぞ」
「はい、ハルト様!」
返事をしたミュータンが前を向くと、驚いて声を上げる。
「あっ、危ない!」
言った瞬間、前から歩いてきた数人の1人にハルトの肩がぶつかる。
「イテーじゃねぇか、兄ちゃん。どこ見て歩いてんだよ!」
ガラの悪い男は、鋭い目つきでハルトを睨む。
「す、すみません」
「はわわわっ! どうしましょう、ハルト様……」
「あぁん? こっちの姉ちゃん可愛いじゃねぇか。この女を渡すんなら許してもいいぜ」
「それは無理だ」
「なんだとコラァ!」
男がハルトの胸ぐらを掴むと、何かに強くはじかれた。
そして、男はなす術もなくふっ飛んだ。
「ぎゃぁっ!」
「ハルト様に手を出したら、許しませんよ!」
「なめんじゃねぇ!」
残りの男たちも向かってくる。
ミュータンは触手をムチのように使い、次々とはじいていく。
「ぐはっ!」
「ひぃっ!」
しばらくして、ボロボロの男たちの山ができあがった。
そこへ、サイレンの音が遠くから聞こえてきた。
「まずい! ミュータン、ここは一度家に帰るぞ」
「あっ、ハルト様、待ってくださーい!」
焦ったハルとは走りだし、ミュータンも急いで後に続く。
★★★
屋敷に戻った2人は、ハルトの部屋にいた。
「すみません……あれだけ目立つなと言われていたのに、約束守れませんでした……」
「いいよ、気にしなくて。ミュータンのおかげで、僕は怪我せずにすんだんだから」
「は、ハルト様ーっ!」
ミュータンはうれしくなり、ハルトに抱きついた。
「ミュータン……」
ハルトも抱きしめようとしたが、気配に気づきゲンコツを落とす。
「な、何をするんですか……」
「すきを見て、どこを触ろうとしている?」
「あはは……バレました?」
「ミュータンーっ!」
「ひぃーっ、ご、ごめんなさーい!」
ハルトに怒られ、ミュータンの悲鳴が屋敷中に響き渡ったのであった。
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