第十七話 四日目 宿にて
俺たちはお代を払って館を後にする。
外に出ると辺りは既に暗くなっていた。
「そろそろ寝る場所を探すか」
俺は近くにあった手ごろな値段の宿に泊まることにした。明日が祭り最終日だからか今日は込み合っている。
夕飯を取る為、食堂へ向かうと、既に大勢のヒトビトがいた。
人間族をはじめ、融纏族、指翼族、長命族、〈命の国〉では珍しい金創族が楽しそうに食事をしている。
「ゲルグ! あれ何!」
レーテーが指差す先には、巨大な料理を運ぶ人間族がいた。
「あれはカワイノシシだな。川に住むイノシシで、ああやって丸焼きにすると美味い」
「食べてみたい」
「他にも料理は沢山ある。どれを食べるか決めてからにしよう」
実際は、あのカワイノシシは予約しなければ食べれない。レーテーには他の料理を見せて忘れさせよう。
「ふうぅん。……あれは⁉︎」
今度は両腕の翼でぱたぱたと空を飛んでいる指翼族
を指差す。どうやら芸をしているようだ。
「あいつは指翼族の芸人だ。指翼族は、普段は人間族と同じ腕をしているが、その両腕には翼が隠されている。飛ぶ時には指の間から肩にかけ裂け、その間に強靭な膜を張り、空を飛べる。尤も今となっては飛べるやつは相当珍しいがな」
では翼の膜を戦闘服の材料にしていると聞く。なんでも燃えにくく、柔軟でそこそこの強度があるからだと言う。まあそんな惨い情報は言わないが。
授命族といい、〈命の国〉や〈黒鉄の帝国〉では人間族以外の種族への扱いが酷い。授命族は蘇生の道具に、指翼族は服の材料に、融纏族には、生殖時に相手と融合する、その快楽のみを扱われ、長命族にも(多少はマシになったようだが)差別が横行している。この場にはいないが奴隷族という種族は、ほぼ全ての個体が奴隷として扱われている。貴族をはじめとした金持ちに買われ、奴隷作業をさせられているそうだ。
その後もレーテーは色々なことを質問してきた。その度に俺やカガチが答えていった。この子はついこの前まで収容所で外の世界を知らなかったのだと思い出された。
「ゲルグ、祭りが終わったらどうするの?」
食事を頬張りながらレーテーが問う。その口には蔓スパゲッティをはじめ、焼き魚、ヌマウシハンバーグが詰まっている。この数日で今まで食べれなかった分を取り戻すかのように食べている。
「そうだな、〈薬の国〉に行くため、ヒャッコ山道を進む。その途中で俺の幼馴染のアゼミが住んでいるからそこで一晩泊めてもらい、次の日には に着くだろう」
お前達が祭りに行かなければもう一日早まるがな。と付け足す。だが帰ってきた言葉は「行く!」だった。
「アゼミってどんなヒト?」
「アザミは……」
アザミの事が思い出される。子ども時代を共に過ごし、固い絆で結ばれた。そして大人になり、アザミは〈命の国〉の国の男と結婚した。その後〈薬の国〉と〈命の国〉で戦争が始まった。そして、……戦争の中で俺はアザミの夫を殺した。
「……今はこの話はやめておこう」
「?」
レーテーはきょとんとする。
レーテーにこんな話をするわけにはいかない。
夕食を食べ終わり、部屋に戻る。今日の宿は、〈命の国〉で一番美しい街の宿らしく、部屋から家具に至るまで綺麗で豪華だった。あの値段でこの部屋だから、ただただ驚かせられる。
「ゲルグ、明日の花火、楽しみだね」
枕元でレーテーがほほ笑む。
「そうだな。俺も花火は初めて見るから楽しみだな」
とは言ったものの、製造元である〈黒鉄の帝国〉にはいい思い出が無い。十年前の戦争で、俺達を苦しめた大砲も、同じ〈黒鉄の帝国〉が作っている。何か変な物を仕込んでいなければいいのだが……。
「ほら、花火が見たければ早く寝なければ駄目だぞ」
「はあぃ」
そう言いながらもレーテーは暫く起きていたが、やがて限界に達し、こてんと寝てしまった。
まだ子どもだな。そんな事を思いつつ、布団をかぶる。
ふと、今日の事を思い出す。今日の占いの事だ。ハバ様は俺に宿敵との対決を、レーテーには花畑に向かう事、そしてカガチには……。
「カガチ」
まだ起きているカガチを呼ぶ。
「なんですか」
カガチは目を擦って眠そうなふりをする。
「ハバ様の占いで思い出したが、お前の旅の目的は何だ。〈薬の国〉に行って何をするつもりだ」
ハバ様はレーテーを守れと言った。それならばカガチの旅はレーテーと関係することになる。俺はレーテーを守るという使命がある以上、知っておくべきだ。
「教えません」
「っ! おい!」
「では寝ます」
そう言うとカガチはすぐに寝てしまった。
まあいい、目的と言っても相手は子どもだ。遠方の恋人に会いに行くとかそんな所だろう。
ちゃっちゃと終わった四日目、次回は五日目です!
次回は19日更新予定です!




