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「ダリネ、今日こそ、貴様と決着を着ける!」
謎の男、リパヌは私のことを気が付いていないかのように、ダリネとの長い因縁なのか、ダリネばかり一直線で見つめながら、そして持っていた鞘から刀を出す。
「へへーん、そうはいくかー!
ってか、こっちはてめーの相手している暇なんてねーんだよ!」
ダリネはリパヌに対してあっかんべーしながら、私を庇う。
「ダリネ、この人は?」
「いいから、こんなヤツ置いて、日本階層へと早く行きな!」
ダリネが私にこそこそとつぶやく。
「ん?そこのお前、なんだ、ダリネの新しい恋人か!?」
リパヌの視界に私が入ったらしくて、やっと私の存在に気が付く。
ってか、恋人って、すごい違うんですけど…!!
「さてはお前はとうとう、ロリコ…!!」
「バカか、お前、俺がこんな少女に手出すわけねーだろ!」
ダリネが赤面切っている。
「ルエちゃん、今のうちよ、逃げましょう」
Kが壊れた壁を抜けて、私へ手招きする。
「させるかー!
クレセントエッジズ!!」
リパヌの掛け声とともに、私の目の前に無数の刃が飛んできた。
刃が私を囲む。私は身動きできなくなってしまった。
「この女はどこのどいつかわからんが、人質にしてもらう。
どーせ、殺しても時間が経てばその場で復活するだろうけどさ。
ましてはここは霊体界だからさ。
ダリネにとっては屈辱的だろうな。
ふーはっははは!」
動けない私を見て、リパヌはあざけ笑う。
「そうかい、ではこう呼ばせてもらおう、落ちぶれの堕天使ちゃん♡」
「誰が、落ちぶれの堕天使ちゃんだ!“ちゃん”はよせ!」
ダリネがこの現状で、それでもふざけて笑うと、リパヌがそれを真に受けて憤慨している。
「さあ、この女を助けたかったら、私を倒すんだな!」
「ちょっといいですか、フェイントアーカム!」
セテアさんがいつのまにかリパヌの背後にいて、手でリパヌの首を峰打ちしたのだ。
「ふははは…。ぐごー!ぐごー!」
リパヌは見事に寝てしまった。しかもいびきをかいて。
そして、私を囲む無数の刃は解けて無くなった。
「セテアさん、ありがとうございます」
喜んで駆け寄る私。
「いえいえ。でも、今のうちにですよ。今のうちに日本階層へと逃げてくださいな」
「え、でも、この男は…」
「こいつは地獄から這い上がったリパヌ、本名リパティーヌ・ヴァイアサンよ。
ダリネに深い恨みを持っているヤツなのよ。
それにしても毎回現れるとこのように不発に弱い男でね。
ダリネちゃんしかいつも視界に入っていないんじゃないかしら?」
そうなのか、ってか堕天使だったの、この人。
でも、Kの言うとおり、確かに弱点を着ければ弱そうだ。
「まあ、それは置いといて、早く日本階層へと行きましょうね~」
Kの言うことに、従おうとする私。
「ダリネ、セテアさん…!」
「まあ、元気でな。短い期間で、いろいろあったけど、お前のことは忘れねーよ」
ダリネは鼻をこしこししながら私に挨拶。
「こちらこそ、ありがとうございました。楽しかったです。
あ、そうです、文通しましょう」
セテアさんはポケットからメモ帳を出して、自分の住所を急いで書きだして、私に渡す。
私はそれが嬉しくてたまらなかった。
「ありがとうございます。セテアさん、そしてダリネ」
私がぺこりと2人にお辞儀をする。
「あっちの日本階層へ行ったら、いつでもいいので、その住所当てに日本階層にどこにでも置いてあるポストへと入れておいてください」
セテアさんの丁寧な言葉。
私はこういう良い人もいるんだなーって、改めて思った。
それに命の恩人だし、そして…。
「さあ、行くわよー」
メモ帳をポケットに入れ込んだ私はKについていく。
2人に、そして寝ているであろう1人に手を振りながら。
「え、えとね、ルエちゃん。
日本階層行ったら、その中のさらにK―16―X番地に行くことになるからね。
そこではルエちゃんみたいな不慮の事故で死んだ子たちがたくさんいるから、ルエちゃんに共感してくれて友達になってくれる子もいるだろうからね」
Kがシルクハットを抑えながら、私の今後の日本階層の住処について説明してくれる。
そして、歩く。
歩いた先には門番がいて、Kはパスポートを門番に見せるなり、私の事情を説明するなりして、どこかのゲームでも見たことあるような旅先のワープ所に入り、メフィレスという国からはもうこれでいちおうお別れしてしまったのだ。
スケベでおかしいところもあるけど、明るいダリネ。
本当に天使のようで優しくて、思いやりのあるセテアさん。
日本階層へ着いて、いろいろと落ち着いたらセテアさんに手紙を送ろう。