1-7
「思い出した?」
真実が頭の中で蘇ってきて、うつむいて涙ぐむ私に死神のKさんが声を掛けてきた。
「…思い出した」
私はゆっくりと頷く。
「私はいじめっ子たちに迫られて誤って、足を踏み外して死んだの…」
ガクガク震える。
もう何もしたくない。
こんなバカげたことで死ぬなんて。
「でも、真実ってね、残酷なものが多いのよね。
貴方みたいにちょっとしたミスで死ぬ人も今までたくさん見てきたし。」
Kは私を慰めようとしているが、私はまだまだつま先から震えが来ている。
「ところで質問だけど、すごいツッコミ満載だけど」
今まで忘れ去られていた存在のようなダリネが手を上げてKに聞いてくる。
「なあに?ダリネちゃん♡」
「その言い方はやめろ」
Kの一言でダリネは少し顔が真っ青になる。
「なんで、この子の魂がこちらへと行方不明になったのか?
それと、そのイジメっ子の“えのま”なんとかっていうヤツには罪は問われないのか?」
そうだ、その二つの件が気になる。
亡くなった私の魂がなぜ日本ではなく、メフィレスと言う聞いたこともないような国へと彷徨いこんだのだろうか。
そして、榎間奈津美―!憎き女に罪はないのか?
私までもが急に疑問に感じる。それと同時に少々身体の振えも治まった。
「一つ目の件、たまにあるのよね。
死んだ魂が別の国へと来てしまうイレギュラーな出来事が。
1万のうちの1つの確率で起きる現象なのよね。これは」
Kは私のことをチラッと見て、ダリネの方へと再び向く。
その眼差しはいつになく真剣だ。
「でも、そういう原因は不可解な事故や不名誉な死であればあるほど確立が高いのよね。
だからそういう意味では、ルエちゃんのケースは珍しくともなんともないわね」
と、ダリネを頷かせる。
セテアさんもそれに釣られて頷いている。
「二つ目の件、残念ながら、今回のことは不慮の事故っていうことになるのよね。だから榎間奈津美たちには殺人の罪はいちおう今のところはない、過失致死ね、まあ物質界警察の決定次第によるけどね」
え!?、こいつらに殺人の罪はないと…???
私はKの答えに憤りを隠せなかった。
「でも、もし、榎間奈津美がたとえ死ぬとする。そして閻魔大魔王様の前では天獄裁判沙汰にかけられやすくなり、地獄逝きもありでしょうね。
1人の子を苦しめて死なせたことだし…。たとえ不慮の事故だとしても。
それは人生偏差値ではマイナスポイントになってしまうわ」
「なるほど、なるほど~、勉強になった~」
ダリネがうんうんと首を上下に振る。
「こういう殺人まで行かない罪に問われる人間は私たち死神か、先祖霊の方、もしくはその人間の前世霊でもある守護霊がやってきて、この人間たちをマークして監視することになるの。また次にこの人間たちが更に悪いことをしでかさないか見張るために」
それを聞いて、私は安心した。
なんか胸がスッーとしていく気分だ。
「それにしても、“えのま”、“えんま”…、似ているよな。ぷぷぷ。
閻魔大魔王の血を引いている家系の子だったりして。笑う」
「ダリネ様、笑い事じゃありませんよ」
独りでダジャレを言いながら笑っているダリネにセテアさんが冷たくツッコむ。
でも、また疑問点が浮かぶ。
私を残したお母さん、お父さん、アティは…。
今の事故がテレビでは撮り上げているのでは?
「あの…」
「言わなくてもわかるわよ。テレビでは一切報じていないけど、新聞、ネットでは高1、謎の自殺か。と取り上げているぐらいだわ。
まあ、もしかしたら向こうの警察が榎間のことを取材にしに来るかもしれないわね。
そして、向こうの決定で逮捕されたりする場合もあるだろうし、補導なり 書類送検もあるかもしれないわね。向こうの物質界の警察にそれは責任が行くけど。
なんにせよ、ブラックリストに載って、マークされることは確実だわ」
なんだか少し安心した。
まだもう少しモヤモヤするが、あ、家族のことよ!
「あの、それで残された私の家族のことですが」
「ああ、それなら今度通夜、葬式やるみたいだから、安心よ。
それにルエちゃんの遺体もすぐに見つかったし。
今のところは自殺扱いになっているけど」
それでも、榎間たちに罪があまりなさそうなのががっかりだ。
「日本に着いたときに、通夜葬式の映像は今度流すからね。
そこで母親と父親とアティの姿が流れるから。
それはそれで覚悟はしておいてね。
家族、親戚たちが泣いている光景になるかもしれないから」
そうだろうなあ、生きているあっちの世界にいるお母さんたちはさぞや辛いだろうなあ。
アティは泣いているかわからないけど。
あの世に来てしまった私の方も覚悟しなければ。
この場面に遭遇したら、どう対応していいのかわからないけど。
「なーに、いろいろと安心よ。そんなに不安がらないで。日本階層では貴方の死んだお婆ちゃんもいるでしょう。
そこで、私も含めて、先祖の家系を連れて、この紫水晶でその映像を見るのよ。
だから、貴方には今では心強い人たちもいるから。
それに誰しも通らなければならない道だし。
気落とさなくていいのよ」
優しいKに説得されて、再び涙ぐむ私だが、こういうときこそ、私が元気出さなければどうすると逆に前向きに強い感情も芽生える。
「さて、そろそろ、出発するわ~!日本階層へと~!」
なんとか解決したかのように、Kは振り切って、ダリネの家から出ようとする。
「よかったな、ルエちゃん、これで、いちおう成仏出来るぞ~!
俺の時は葬式酷かったから安心しろ!」
「まあ、それはさておいて、ルエさん、日本階層行っても私たちのことは忘れないでくださいね」
ダリネを払うかのように、セテアさんが私に向かってウィンクする。
私はそれが非常に嬉しかった…!!
ところが―。
ダリネ家のドア、壁が轟音とともに一気に壊される。
「ああー!!築10年の木造一軒家があああ!!」
ダリネが頭を抱えながら言う。
「こんなことするのはお前だけだな、リパヌ!!」
「よく気が付いたな、ダリネ。
今日こそ、貴様と決着を付ける!!」
壊れた壁の向こうに立っている人物、リパヌと呼ばれた、赤い髪の毛にジーンズとラフな格好をしている長身の男が現れたのに、動揺を私は隠せなかった…!!