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「ギャホ!旅人の少女よ、おいらに食べ物を分けてくれー!」
小さい白顔のお化けが、通りすがった灰色のコートを着るいかに旅人という少女に、声を掛ける。
「お化けさん、どうぞどうぞ、このキャンディーをあげますから、元気になってください」
少女は誰にでも優しいので、お化けにも当然優しかった…。
お化けはにこりと笑った。
*
(―こんな薄暗い展開の話にに人々が簡単に惚れ込むなんてたかが知れている)
少年は掛けている眼鏡をくいっと動かして、白いフカフカなベッドから起き上がる。
マンションの5階の窓のシャッターの隙間から、顔を覗かせる。
そこには、紫の長髪の男がはしゃぎながら歩いている光景が見えている。
と、そのとき、スマートフォンが、突然、お気に入りのゲームサントラBGMで鳴った。
少年がパッと見ると、そこには『メフィレス第1役所』と書かれた電子字で、スマートフォンの画面を覆い尽くしていた。
冷や汗が出る。
(俺は別に悪いことなんてこれっぽっちもしていないぞ!警察よりはマシだが)
そんな思いをすると、動悸がちょっと激しくなって、出てみると…。
「あの、スナレ・ノースフィンズさんでしょうか?
私、メフィレス役所職員でございますが…」
「はい、なんでしょうか?」
やはり、電話の相手は役所の職員の男性であった。
だが、なぜか妙に弱気な声であるのが、こっちにもわかる。
「あなたの住所を知りたいと言う方たちがいまして、ちょっとここら辺にいるって、職員同士の会話がその方たちに漏れ聞こえしたらしくて、代表のマシャムネ様という方が一目散に貴方の家へと向かってしまってしまい、大変申し訳ありません!」
職員がへコヘコと謝る。
ということはそいつらが自分と話したいということだなと少年・スナレが思った瞬間…。
ピンポーン!
スナレ家のインターフォンが鳴った。
セキュリティホーム画面では、先ほど、シャッターで覗き込んだときに一瞬見た紫で長髪の男性が立っている。
「では、ご用件失礼します」
職員がパッと電話を切る。
「あ、あの、待ってください!
俺、こういうのにめっちゃ慣れていないんで…」
と言ってももう手遅れだった。
「どなたでしょうか?」
「ダリ…いやいや違う、マシャムネっていう名前の者でーす!」
眼帯までもしているマシャムネっていう男性は、初対面の相手でも、明るい声で挨拶をする。
バカかこいつは…と、ため息をつくスナレ。
「とっとと帰ってください!」
「えっ、なんで?小説書いたり、フリーゲーム作っているんでしょ?
すごいじゃん!そういうの!
憧れるから会って話してみたい~!」
(うわっ、ストーカー並みのファンかよ…)
スナレは引いてしまった。
(それどころか、死後の世界でも早速一生過ごせないのかよ!
早過ぎる!
俺の人生、オワタ!
1周忌もまだ経っていないんだぞ!
早く生まれ変わらせて、今度こそは安寧した人生送ってやる!)
そんな猛烈な決意をしたくなる。
「ねーねー、入れさせてよー!お願いだから~!」
マシャムネが子供みたいにだんだん駄々こねるのがわかる。
が、何かおかしなことに気が付いた。
(この男―、髪が紫で眼帯…!)
そう―、メフィレスの歴史上に出てくるあの人物に外見がそっくりなのだ!
(これは興味がある!
こんなチャンス滅多にないんだぞ!スナレ!)
スナレは子供っぽいその英雄及びお連れの3人をも自分の家に入れさせることにした…。
*
「おっす、おら、マシャムネ!」
「…」
「べ、べつに竜で願いを叶える某漫画のマネしているわけじゃないぞ!」
スナレは唐突に英雄が漫画のキャラの台詞のマネをしているのは笑うべきか悩むどころ。だが、最早それどころではなくなってきたので、スナレはダリネ一行を自分が普段使っている居間のテーブルに案内した。
「で、あの言いたいんですが、貴方の正体は実は…」
ダリネの連れのラネスがまだきょとんとしている。
大慌てをしたダリネは、ラネスの視界が入らないところ、強引にスナレの肩をぐいっと引き寄せて、テーブルの床下に隠れる。
「なぜわかった!」
「だって、歴史って、小説の参考になりますし…」
しまったー、このスナレという少年に早速自分の正体がバレてしまったー!とダリネは後悔した。
「そうか!しかしな、今、俺はラネスっていうあの眼鏡っ子に正体隠しているんだけどな」
「そうっすか。とりまあ、おんなじですよ、有名小説家な俺の家の場所も知ったことだし」
「そうだな、って、自分で言うな!」
自信ありげのスナレにダリネがツッコむ!
そして、テーブルへと2人は再び顔を上げる。
「へっ、だって、俺、生前は有能だったんだもん!
14歳で欧州の小説ティーラー大賞受賞したんだし!
まあ、1年後には自殺したんだけどね」
一瞬、しんみりとする間…。
「死後でも、有能っすよ!きゃんふりで『kirisasame』がこの前まで9か月ぐらい連続1位だったし!」
「ほお、そういや、TOP画面にいつも上位にいるな、あまり気にならなかったけどな」
チッと舌打ちするスナレはダリネの今の発言が気に食わなかったらしい。
「ぜひ、プレイしてくださいよー!ダ…いえいえ、マシャムネさん。
ホラー調のノベルゲームですよ~!」
「私、プレイしました~!面白かったですよ!あれは!
衝撃のラストでしたよね!」
ラネスが目を輝かして話す。
「なるほど、そんなに面白いのか…」
ダリネが喜ぶラネスを横目で見終わると、しょぼんとする。
「実はホラー系はあまり好きじゃないんだ…」
と小声で口を開くダリネ。
スナレが歴史上の人物でも苦手なのがあるんだなあって思うのと同時に、自分のゲームがこの偉い人物に見向きもされていなかったとショックを受けた…。




