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「どうしようか。どうしようか」
ダリネはなぜか慌てているみたいだ。
「そうだ、まあ、真実を話そうじゃないか。そして、あとは気分転換に俺の部屋を見るということで」
と、1人で手をトンと叩いて納得しているダリネであった。
「で、なんでさっきからボソボソしているですか?」
「そうだな、まずはリビングに行こう」
ダリネたちの後を追い、マルタ家の中を奥まで入ると、リビングに到着。
なぜかそこはすごく綺麗にされていて、やっとくつろげる場所に着いたと私は安心する。
白くてクリーンな広いテーブル。
そしてテレビまでもある。
「あ、テレビあまり見ないし。
見ても深夜のエロ…いやいやなんでもない」
今、しっかり聴こえたぞ。
何かいやらしいことを言おうとしたな、このダリネは。
「そういうことはよして、みなさん、私が作ったイノシシを丸焼きにして刻んだ料理食べましょう」
さりげなく話を変えるセテアさんが素敵だった。
「ちょっと待っててくださいね」
セテアさんが先ほどダリネが担いでいたイノシシをダリネと一緒に抱えて、フライパンも通せずにそのままコンロに通して焼く。
どうしよう、セテアさんが料理している間、この変そうな人と二人きりだ。
「ん?なんだい?」
「いえ、なんでも…」
そりゃ、確かにダリネは私の命の恩人だったけど。
「あー、どうしよう。どうしよう」
ダリネは相変わらず何かを悩んでいる。
そのさまを見たせいか、急に携帯のことを思い出した。
携帯を使えば、この辺境の地で、自分の両親とやり取り出来るのではないかと思ったからだ。
「そうだ、携帯、携帯っと」
私がポケットの中に携帯を探す。
が、持っていたはずの携帯がなぜかない。
「あれ、ない!?どうして!?」
「そりゃそうだ、俺たちもあんたも死んでいるからな!あ、言っちゃった…」
ダリネがつい口を滑らして言ってしまったという真っ青な顔になっていくのがわかった。
「死んでいるってどういうことですか!?
やっぱりこの世界はあの世なんですか?」
セテアさんの作ったイノシシの丸焼きを刻んで出された料理は意外にさぞ美味しかったが、私がやはり死んだんだという衝撃に身震いをしてしまう。
しかも死んだのは私の他にもダリネもセテアさんも死んでいるということだ。」
「そうだよ、この世界はあの世で、天国だよ。
ルエちゃん、よかったね、天国に来れて。
地獄に来たら厄介だよ~!」
ちょうど、そのとき、ダリネがなぜかいつのまにか持っていたクラッカーを出し放って、パンパカパーンと私を驚かせる。
「ようこそ!天国へ~!」
「ダリネ様、それは冗談キツイと思いますよ」
セテアさんのツッコミでも、ダリネがやっと私に真実が言えたと明るい顔をしている。
「どうして、私が。
もしかして死んだの?
なんで死んだの!?」
明るいダリネとは正反対に私はだんだん真っ青になっていく。
さっきのダリネよりもだ。
「それが、死因が俺たちじゃわからないんだ。
案内係りと言った死神や警察じゃないとね…」
「じゃあ、両親とも二度と会えないというの?
アティにも!」
「あてぃ?なにそれ?」
「犬です!ペットです!
私が可愛がっていたペットです!
そんな…」
私はうつむき、涙ぐむ。
「残念だけど、君の親やそのペットのアティにも二度と会えないよ。
ま、君が意識不明の重体なら会える可能性はあるかもしれないけどさ」
そんな…、酷いことをやっぱりかと思いつつ、残酷な真実を突き付けられた私…。
「そういえば、私、おばあちゃん亡くしているんだった。おばあちゃんとは会えるよね?」
「そ、それが…」
ダリネが困惑した顔をする。
「ここはニホンじゃなくて、ヨーロッパのメフィレスという国の死後の天国の住み場、階層なんだ。
だから、あんたはひょんなことにこの国に彷徨ったというわけだ。
たまにあるんだ。
死んだ魂が、自分が生きていた国の階層に当てはまらなかったりして彷徨うことを」
それじゃ、私は1人きり。
また1人きり。
どうすればいいの。
死んだおばあちゃんとも出会えないの…?
私は天涯孤独になった気持ちでいっぱいだった。
「まあ、俺とセテアはメフィレスという国生まれだからいいけど」
ダリネの小言を無視して。
「まあ、昼食は終わったので、気分転換に俺の部屋を案内しよう~!」
ダリネがにっこりとほほ笑んで、私を部屋まで案内しようとする。
「ちょっと待ってください!ダリネ様!
あんな部屋、女の子に見せつけるわけには行かないですよ!
しかも、今、彼女は頭が混乱している最中ですよ!」
慌ててるセテア。
何かあるのだろうか?
でも、男の人の部屋ってわくわくする、どうなものなの。
まあ、男だから自分の身は守らないと。
いざとなったらセテアさんが助けてくれるかもしれないし。
いえいえ、私は何を妄想しているのだろうかと平常心を保とうとするが、 どうしても自分が死んだことに落ち込んでしまう。
「ほーい、ここが俺の部屋だー!」
ばばーん!(効果音)
見事に散らかって乱雑な部屋だった。
しかも、生前、日本で少し見かけたアニメのポスターがところどころ貼ってある。
それにアニメ女性キャラが下着になっている抱き枕…。
何、考えているんだこの人は!
いい加減にしろ!けしからん!と叫びたくなってしまう。
「いやあ、実は自分、日本好きなんすよ~!日本人見たらサインして欲しいぐらいだ。
というわけでサイン!」
自分の部屋から探し見つけたサイン色紙で、私にサインを書かせようとする。
「却下!」
「えー!なんで~!?」
ガッカリするダリネ。
「汚い部屋、私、大嫌いなんです!」
だが、そのとき、私の頭の上から何かが落ちてきた。
“湯上り少女、温泉でS●Xハ●撮り~!”
と、女性が裸で湯上りポーズを取っている。
おそらく、これは…。
見上げたら、案の定、それ系のDVDの山だった。
私は違う意味で身震いする。
外国人ものもあるが、日本人ものもある。
そして、「絶対!アキバロワイヤル!」という美少女ゲームのパッケージが目につく。
そういや、死ぬ前にアキバに行ったら、こういうのがすごい売っているのが目についたんですけど。
もうこの部屋は鳥肌ものだ~!
「ルエさん、いざとなったら私がダリネ様からお守りしますので」
セテアさんがこっそりと私に言う。
それを聞いて私は安心した。
でも、セテアさん、よくこんな破廉恥な男と同居?しているなあってつくづく感心する。
「おいおい、ねえ、整理整頓出来ない俺の代わりにルエちゃん、綺麗にしてくれない?」
「ダリネ様は綺麗にしてもすぐ部屋を汚くするのでもう勘弁です!」
私の代理にセテアさんが答えてくれた。
セテアさん素敵だー!
「それはそうと、あんたちょっとはにっこり笑うようになったじゃないか~!」
ダリネが私が瞬時見せた笑顔を見て、ほほ笑む。
「別に。なんでもないわ」
「やっぱり女の子は笑った方が可愛いよ~!むしろ、それにつきる!」
何言っているの?この人。
もう知らないんだから!
そのときだった、ピンポーンとダリネ家にインターフォンの音が鳴った。




