義妹に立場を奪われた令嬢は…
まずはアクセスしていただきありがとうございます。
久しぶりの投稿です。(書いては消してを繰り返していたら前作からかなり期間が空きました…。)
今回は短編\(^o^)/です。
ん?と思うところもあるかと思いますが、よろしくお願いします。
サーヴァス王国の首都の南側に位置している広大な領地を持つ貴族の屋敷の敷地内に使用人すら近づかない昔は図書室だった場所がある。
そんな場所にひとりの少女がいた。名はアイリーン。彼女は歴史あるネイビッド侯爵家の嫡女のはずなのに、平民でも着ないようなボロボロの衣類を着て生活をしていた。
五年前に彼女の母親が逝去し、父親の再婚相手と義妹がやってきたときから変わってしまった。
『アイリーン、お前は今日から使用人として生きなさい。』
『お父様どういうことですか?わたくしはネイビッド侯爵家の跡取りで。使用人に混ざるなど…』
パシッ!
『言う事を聞くんだ!』
侯爵に叩かれ、涙を流す彼女を慰める者は既にいない。この数日前に古参の使用人と乳母は解雇されていたのだ。
そして部屋に入ってきたのはゴテゴテと着飾った婦人と彼女と同じ年齢の少女だった。
『今日からこのプリシラが侯爵令嬢で、お前は一切社交をしなくていい。』
『えっ…?』
『パパ、この子がアイリーンなの?ふふ、あたしのほうが可愛いじゃない!』
『旦那様、プリシラの方が侯爵令嬢に相応しいですわ!』
『ああ、そうだな。アイリーン、これは決定したことだ。』
気持ちの悪い笑みを浮かべた侯爵がアイリーンに近づく。
『これからはお父様ではなく、侯爵様、あるいは閣下と呼べ。ふたりのことは侯爵夫人とプリシラお嬢様と呼ぶんだぞ?拒否権はない。メイド長、後は頼む。』
『はい、侯爵様。アイリーン、着いてきなさい。』
新しく雇われたメイド長に腕を鷲掴みされて無理矢理連れていかれる。
『お前は今からただのリーンです。返事は「はい」だけです。』
『えっ…』
パシッ!
『返事は!?』
『はい…』
自身より背丈よりある大人に12歳の少女に抵抗することは不可能だった。
屋敷内は全員新しい使用人となったので、彼女が侯爵令嬢と知る者はメイド長以外にいない。
彼女は理不尽の耐えながら何とか生きようと必死だった。
食事は1日に一回。カビの生えたパンと野菜くずの水スープ。それすらも出なかったり、侯爵夫人や他の使用人たちにボロ雑巾のように扱われ、南部の暑い気候の中での屋外作業で倒れても水をかけられて『何を休んでいるの!?リーン、あんたは飯抜きだよ!』と放置され、翌日には違う作業を強要される毎日だった。
『ねえ、アイリーン。』
『(久しぶりに名で呼ばれたわ…)はい、プリシラお嬢様。』
それは彼女がデビュタントを迎える15歳になったときだった。もちろんアイリーンはデビュタントなんてさせてもらえず、プリシラのデビュタントの準備で屋敷内が忙しないときに私室へ呼び出されたアイリーン。
『あたし、もう少しでデビュタントでしょう?でも、面倒だから社交とかしたくないわけ。お家でダラダラしていたいのよね。』
『はい。
(貴族の義務を果たしたくないのね。)』
『だから、あんたがあたしの振りして社交するのよ?』
『…』
『返事は?』
『わたくとお嬢様では容姿が…』
パシッ!
『あんた幻影の魔法が得意でしょう?パパが言ってた。だから、あたしの姿になりなさい。』
(ここで断ったらもっと酷い折檻を受けてしまうわ…)
『返事は?あたしはネイビッド侯爵令嬢であんたは使用人。そうよね?』
侯爵に似た気持ちの悪い笑みを浮かべるプリシラ。
『はい、お嬢様。』
『じゃあ、早速魔法であたしの容姿になってちょうだい!』
『はい。』
アイリーンが自身に手を翳すとポワっと光に包まれて他人からはプリシラに見える様になった。
『無能かと思ったら案外やるじゃん!あっ、そうそう。そのまま学院にもあたしとして通ってね?
あんたは学院に通えないから、勉強もさせてあげるわ!』
その人からアイリーンの役目は使用人からプリシラの影武者になった。
『それと、このことはママは知ってるけどパパは知らないから、ヘマするんじゃないわよ!?』
『はい、プリシラお嬢様。』
『それじゃ、後宜しくね?』
(彼女がどこへ行くのかは知らないけれど、あの性格を真似るのは難しいわ…)
アイリーンはプリシラとしてデビュタントを迎えた。挨拶周りをしているネイビッド侯爵と侯爵夫人を視界に入れながらも、話すとボロが出そうだったので極力話さずに壁の華になろうかと思ったのだが、プリシラは容姿が良かったのでそれは無理だった。
様々な令息から声がかかり、ダンスを踊らなくてはならなくなってしまった。
自己紹介して、無難な会話をするアイリーン。
『僕とも話してくれるかな、美しいご令嬢?』
数名に囲まれていた彼女の所に貴公子が現れた。
『お名前を伺っても?』
『ネイビッド侯爵の娘プリシラですわ。』
『プリシラ…?』
『何かございまして?』
『いえ。素敵なお名前ですね。僕はドルイード公爵家のフィリップです。』
『ドルイード公爵家といえば、公爵夫人は王妃陛下と姉妹ですわね?』
『ええ、そうです。』
アイリーンは社交に困らないように侯爵夫人から許可を貰い本邸の図書室に通い、使用人として働いていた間の社交界の情報を更新してあった。
(助かったわ…調べておいて正解でしたわね。)
『プリシラ嬢、一曲いかがですか?』
『お願いいたします、ドルイード様。』
フィリップの差し出す手を取り踊った。
『またお会いしましょう。』と優雅な所作に顔が熱くなるアイリーン。
(駄目よ!今のわたくしはプリシラなのだから!)
後に屋敷へ戻ったが、社交界での反応はとても上々だったようで、釣書やお茶会の招待状がたくさん届いた。
『ふふ、この調子で素敵な殿方…そうね第二王子殿下なんて捕まえてくれたらいいけど。王太子殿下には婚約者がいるし。』
『プリシラが王子妃なんて素敵ね!』
アイリーンはこの母娘何も知らないのだなと思った。
この国は東西南北の家紋の和平を保つために王族の妃は持ち回りになっている。
今の王妃は北の家紋なので現在の王太子妃や王子妃の候補は東の家紋から選ばれる。王太子レイノルドの婚約者は東の公爵令嬢であるので、万が一にもアイリーンがプリシラになりきってうまくやったとしても南の家紋であるネイビッド侯爵家が選ばれるはずがないと思っていた。
そして学院へ通うようになった。
ある日学院の中庭で昼食(質素なサンドイッチ)を摂っているととある人物がやってきて、言い放った。
「プリシラ嬢、君に一目惚れした!僕と婚約してくれないだろうか?」
「ヴォルフ殿下、御冗談を。」
同じクラスに在籍する第二王子ヴォルフが頬を赤らめて言ってきたのだ。
「僕は本気だぞ!?」
「殿下の婚約者候補にもいない南の家紋のわたくしにはどうにもなりません。」
「そんな慣わしなど捨て置けばいい!」
「ヴォルフ様、そこまでになさってください。」
「フィリップ、いいではないか!」
「ネイビッド嬢、ヴォルフ様がすまない。」
「あの、大丈夫ですわ。
ですが、殿下。ここは学院内とはいえ小さな社交界。王族が慣わしを軽視してはいけません。
家臣としてのお願いにございます。東の家紋のご令嬢方との時間を大切になさってください。」
「君は美しいだけでなく、謙虚なのだな。ますます気に入った!だが、確かにここは社交界だ。本日は君の諫言を受け入れよう。失礼するよ。」
「ネイビッド嬢、すみませんでした。」
ヴォルフとフィリップが去っていき彼女もサンドイッチに視線を戻そうとした。
「プリシラさん?よろしいかしら?」
「スタイン様、ご機嫌よう。わたくしにご用でしょうか?」
東の侯爵令嬢のエリーゼが声をかけた。ヴォルフの婚約者候補筆頭である。
「あなた、殿下に声をかけられたからと調子に乗らないでくださいね?
あなたがどう足搔いても婚約者にはなれないのですから!」
「承知しております。」
「立場を弁えているならいいのですわ。それではご機嫌よう。」
(牽制かしら?どうしてそんなに不安なのかしら…?今は南の我が家から婚約者が出るはずないことはスタイン様が一番理解されているはずですのに…)
そんな事件?が起きたにも関わらずヴォルフの秋波は止まらなかった。むしろ悪化していった。
事ある毎に絡んできて、その度に他の令嬢から虐めにあった。家でも学院でもボロボロになり始めた。
学院でアイリーン(プリシラ)に関わることはさすがに不味いと思ったヴォルフは屋敷に招待状を出して王城へ呼び出すようになった。
「プリシラ!王子殿下からの招待状よ!」
「えっ!嘘!あたし王子妃になれちゃうかも!?」
(まさか殿下がここまでしてくるなんて…)
「あの女の娘の割には役立ったわね!」
「ねえ、ママ!殿下のために新しいドレスを買うわ!」
「そうね!すぐに商人を喚んでちょうだい?」
そして王城にはプリシラ本人が行き、引き続き学院にはアイリーンが通う生活が始まった。
プリシラは悪知恵だけは働き、王城でヴォルフを篭絡。学院では建前上関わらないようにするから。週末は王城へ呼んでほしいと伝えたらしい。
そのお陰で学院内でエリーゼたちから虐めに遭うことは減ったのはせめてもの救いだろう。
必要以上に絡まれなくなり、独りではあるが穏やかな学院生活を送っていた。
「ネイビッド嬢、今時間はあるだろうか?」
「ドルイード様、ご機嫌よう。何かご用でしょうか?」
最終学年への進級試験の試験勉強を図書館でしているとフィリップから声をかけられた。
「実は、ヴォルフ様とエリーゼ嬢の婚約が整ったので、王城へ来るとを控えていただきたいのです。」
(どうしましょう…王城へ行っているのはプリシラ本人でわたくしはどうしようも…もっともらしい理由は…)
「婚約が決まりましたのね。お祝い申し上げます。
ですが、王族からの呼び出しを無下にはできないことドルイード様もおわかりですよね…?」
(この位しか思いつかない…)
「ヴォルフ様にも控えるように伝えるつもりです。」
「承知いたしました。」
「ありがとうございます。それより試験勉強ですか?」
「はい。」
「ネイビッド嬢は成績上位にあぐらをかくことはせず、勉強に励んでいるのですね。」
「知識を身につけるのは好きですので。それに成績上位だったとしてもわたくしにも苦手な分野があります。得意分野だけが伸びているから成績が良いだけなのですわ…」
「そうかな?あっ、ここの公式間違ってますよ?」
「えっ!?」
ヴォルフに指摘されたところを確認すると確かにそうだった。
「すぐに気がつくなんてさすがですわ。」
「はは。僕も勉強は得意なんです。」
「ドルイード様は首席ですものね。」
「たまたまですよ。」
「たまたまで首席キープはできませんわ。」
「そうでしょうか?おっと…そろそろ僕はこれで。」
「はい、ドルイード様。」
しかし、そんなふたりの会話も虚しくヴォルフはプリシラを誘い、彼女は王城へ通い続けてしまったのだ。
「プリシラさん、あなた何様なの!?ヴォルフ様はわたくしの婚約者ですのよ!」
「そうですわ!南の貴族が口出しするなんて!」
「失礼にも程がありますわ!」
エリーゼたちに呼び出された先で水をかけられたり、頬を打たれたり、悪評を流したりされ始めた。
アイリーンは理不尽に耐えるしかなかった。
そして卒業式。もちろん卒業式に参加したのはプリシラ本人だ。彼女今馬車で移動している最中だ。
「わたくしを修道院へというのはわかるけれどまさか北とは…」
ネイビッド侯爵はサーヴァス王国の北の端にある修道院へアイリーンを入ることにしたのだ。
これからゲートを潜り北の修道院の近くの領地に到着後、さらに馬車で移動する手筈だ。
「さようなら…」
そうして彼女は嫌な思い出が多い故郷を離れたのだった。
………
「リーン、そこはいいからあちらをお願いできる?」
「はい、承知いたしました。」
北の修道院へ来て二年経った。彼女は20歳になり、健康に過ごしている。
「ここはカビた物は出てこないから、幸せだわ…」
そう思いながら、日々を女神に感謝しながら生きていた。そんなある日だった。
朝の祈りを終えて掃除をしていたときにここの長でもある修道士から呼び出された。
応接室のドアをノックすると「リーンだね。入りなさい。」と優しい声が中から聞こえた。
「リーン、こちらはここの修道院を管理している領主の…」
「ネイビッド嬢、やっと見つけました!」
アイリーンが顔を上げた瞬間に見覚えのある男性が視界に映る。
「えっ!?」
(この方ってまさか…!?)
「アイリーン=ネイビッド嬢、やっと君を見つけることができました。」
(どうしてドルイード様が…?)
「領主様、リーンはお探しの令嬢だったのですか?」
「ああ、そうだ。すまないが少しふたりで話しをさせてくれないだろうか?」
「承知いたしました。終わりましたらベルでお報せください。」
修道士が部屋を出たので促されたソファへ腰掛ける。
「まずは、いきなりで驚かれたと思うので説明します。
ネイビッド嬢、僕はあなたが魔法を使用してプリシラ嬢として社交や学院へ通っていたことを知っていました。」
「えっ!?」
「僕は魔力が多いので、幻影魔法は効きません。」
「で、ではドルイード様は最初から?」
「ええ。僕の目には銀髪の令嬢が映っていました。」
(バレているとは思いもよりませんでしたわ…)
「申し訳ございませんでした。…改めまして、アイリーンです。嘗てはネイビッド侯爵令嬢でした。」
「フィリップ=ドルイード公爵です。」
「公爵になられたのですね。おめでとうございます。
それで、ドルイード様はどうしてこちらへ?」
「君を攫いに来ました。」
「さ、攫いに!?ど、どういう…」
「その前に、卒業パーティで起きた事件について話させてほしいのです。」
「事件にございますか?」
「そうです。実はヴォルフ様がエリーゼ嬢と婚約破棄を宣言されたのです…。」
「えっ!?ま、まさかとは思いますがその後…」
「そのまさかです…。」
アイリーンの予想通り、ヴォルフはプリシラと婚約すると宣言したのだ。
エリーゼが虐めをしていたのは皆知っていたのもあり、破棄はスムーズだったらしい。
しかし、それだけではなかった。
「エリーゼ様のご実家に慰謝料請求を…?」
「ええ。ネイビッド侯爵家がプリシラ嬢に肉体的、精神的に傷を負わせたからだそうです。」
「なんてこと…」
エリーゼの実家とネイビッド家では領地の大きさに天と地ほどの差がある。
歴史こそネイビッド家が古いがそれだけなのだ。
「エリーゼ嬢側は王家に抗議しましたが、ヴォルフ様は頑としてプリシラ嬢を求めたのです。そして…」
「そして…?」
「婚約が認められないとわかると身体の関係をもったのです。」
「…っ!!」
婚前交渉は醜聞でしかない。しかも婚約者でもない男女にはあるまじき行為だ。
「世間知らずな娘だとは思っておりましたが…」
「僕もヴォルフ様がそこまでするとは考えておりませんでした。
プリシラ嬢が関わること以外は問題ない御方でしたので…。」
「あの、ふたりは今?」
「ヴォルフ様たち西の王領にある屋敷に軟禁されております。御子様とご一緒に…」
「御子様…できていたのですね…?」
「はい。この処遇はレイノルド王太子とレスリー王太子妃がお決めになりました。
両陛下はヴォルフ様を甘やかしすぎるので。」
「そうなのですね…。」
「軟禁されるまでに1年後と半年ほどかかりました。
いくら問題を起こしたとはいえ王族の子供を産むまでは王城で軟禁し、その後移送した形です。」
「あの…ネイビッド侯爵家は…?」
アイリーンは良い思い出はないが、母親と過ごしたあの家がどうなっているのか気になったのでフィリップに問いかけた。
「ネイビッド侯爵家はプリシラ嬢の件がなくても裏で危険な取引等に関わっていたので降爵し現在は男爵家となり小さい領地を残し僕が管理しています。」
「男爵…
(それでも名前が残ったのね。よかったわ…)」
「貴女が悲しむと思い、取り潰しだけは免れたかったのです。」
「わたくしのため…?」
「アイリーン嬢、女男爵になる気はありませんか?」
「えっ!?」
思いもよらない提案に思い切り立ち上がってしまう。
「貴女は学べば立派な領主になります。学院の成績も優秀でしたし、何より貴女は学ぶことが好きでしょう?きっと立派な領主に…」
「ドルイード様、わたくしは修道女です。もう貴族社交には戻れません…。」
ですよね。と顔に書いてあるフィリップは次に意外なことを口にした。
「では、僕の妻になるのはどうでしょうか?」
「御冗談…ですよね…?」
「本気ですが?」
ケロッとした表情のフィリップ。
「わたくしは貴族ではありませんから…。」
「ネイビッド男爵家に貴女の籍は残っています。
アイリーン嬢が望むならばネイビッド家を復活させませんか?」
「わたくしは…」
人生で初めて自身の力を必要とされた彼女の出した答えとは…
お読みいただきありがとうございました!