13話 暴食獣
始界教聖書 第四章(勇者の後の世界)
『89.八厄災
この世には我々の想像を超える厄災がある。ここでは、それ以降の章で一つずつ説明していこうと思う。』
『おーい。なんで、戻った?『respond』』
『エネルギーが足りないため。消費エネルギーを抑えるため、『replace』を解き、節約モードに入る。』
『エネルギーが足りない?一体なぜ?』
『はい。アメリアと共進化したことにより、『暴食獣』という称号を獲得。よって、消費エネルギーが増加。『recycle』されたATPを用いるにも量が足りない。』
『なるほど。確かに凄いお腹空いてる。何か食べたい。』
『はい。そのため、食糧探して?』
『分かった。ちなみに、生体反応はあるのか?』
『半径100メートル以内にない。』
『そんな。死ぬ気で探す。』
俺は周りを必死に見回す。しかし、当然であるが、周りには無い。困ったもんだと考えていると、だんだん喉も乾いてきた。そう言えば、川がすぐ隣にあるじゃないか?川を泳いでいれば、その内餌も見つかるだろう。そう思い、俺は水辺へ近づこうと歩き出そうとする。その時、俺はある重大な問題に気づく。そうだ。
『どうやって四足歩行で進むんだ?』
『前足、後ろ足の動きを意識。そうすれば動く。』
その曖昧な回答に自信はなかったが、今は考えている場合ではない。とにかく今はお腹が空いて、なにか食べたい。進もうとふと下の方を見ると妙案が思い浮かんだ。土を食べよう!と思い口を地面につける。だが、その地面は硬すぎて全くもって食べることが出来ない。
『くそー。どうして食べれない。』
『硬いから。そもそも、地面は岩です。』
はー?と思って下を見ると、『respond』の言った通り、確かにそこは岩盤だった。なっ。俺はお腹が空きすぎて、幻覚まで見てしまっていたのか。そんな自分にショックを
受けながら、俺は再び水辺へと体を向ける。一歩一歩足を踏み出す度に前世で食べた美味しいご飯のことばかりが頭に浮かぶ。
『あー。ラーメン食べたい。刺身食べたい。とんかつ食べたい。……』と呟く度に、
『料理不可能。料理不可能。』と鬱陶しいくらいの音声が流れる。余りにうるさかったので、
『ちょっとうるさい。』
『しょうがなくエネルギーを消費しているのに文句ある?』
『おいおい。今なんて言った?』
『だから、エネルギー消費して『respond』してんです。』
『ちょっと待てよ。歩いてると、お腹の空きがだんだん上がってきたのはそういう理由?』
『はい。一理に。』
お腹が空いていて殺気が立っていたのでおもわず、きれてしまい、
『ふざけんなよ。こんな時に、どうでもいいことに反応しあがって『れすぱん』』
『『れすぱん』と言われたので口聞かない。』
『別にエネルギー消費が抑えられるなら、そっちの方がいいもん』と俺は応答の無い相手に回答する。
そうこうしている内に、川に着いた。そして、とりあえず水を飲もうと、水面に体を近づけると、全身が写り出される。その姿は、カエルというより山椒魚が小さくなった姿に似ていた。なるほど、これが急速進化した自分の姿か、進化というより退化なんじゃね?とか思ったが、アイツと喧嘩してしまったので、当然なにも聞こえてこない。ハー。
やちまったな。一人だとこんなにも心細いものなのかと思いながら、水を飲もうと口をつけようとすると、ある事を思い出した。そう言えば、この水にはアメリアのようなアメーバが暮らしていたんだっけ?ということは、この水を飲んだだら、また死にかけるというか今度こそ死んでしまうかもしれないじゃん。やばい。どうしよう。俺は究極の選択を迫られた。一つは、全くもって水を飲まないもしくは命の危険はあるが水を飲むという二択。さあどちらを選ぼうか?と思っていると、雫滴るこの静寂な世界に、何かが水面から飛び跳ね音が聞こえる。
一体何がと思って、音の聞こえた方を振り返って見てみると、そこにはマスのような魚がいたのだ。美味そうだな。と直感で感じた時には、本能的にもう俺の体は勝手に動き出していた。必死でそれに向かって泳ぎ進めていく。泳ぎは苦手だが、おそらく進化学的に水中に適応して泳げるようになったのだろう。だが、今はそんなことはどうでもいいのである。とにかくとにかく飯を!魚を!食べねば、死んでしまう。まさに食物連鎖の捕食者とはこういうことなのだと実感していると、その魚の魚影が見えてくる。『必ず食べてやる!』ただその一心で追いかける。
そして遂に魚に追いついたのだ。俺はその魚にかぶりつくと、目の前が赤くなった。だが、食という欲望に取り憑かれていたからだろうか。はたまた、そのように死と隣合わせの経験をしすぎてしまったからだろうか。前世のように生物の命を奪うことに対しての謝罪の気持ちはおろかなんの躊躇も無くなっていた。その自分に残る感情は、食物連鎖の摂理に基づき捕食者として喰らうと。ただそれしかなかった。
同時に前世を含めた人生で一番美味しいものを食べているという至福の感情に包まれた。なんと美味しいのだろう。前世の自分は自分で狩猟採取は大変で、尊い生物の命を奪うことは悪いことであると思っていたのに、始めての狩猟を終えた感情は、自分でも信じられないくらいの幸福だ。そして今すぐにでもさらに獲物を食べたいと思っていると、後方からものすごい物音が聞こえる。
振り返ると、そこには水上を走るジェットコースターの最後の如く水飛沫が立っていたのだ。一体何が?と思った時には、もう遅かった。多分だが、俺が食べたマスのような魚の血液が水中に漂っていたのが原因なのだろうが、イノシシのような馬鹿でかい生物が、俺目がけて襲ってきた。
そして、俺はどのように逃げるかを考える暇もなくその生物に口の近くにまで吸い寄せられた。そこには、まさに歴史の資料集で見たことのあるギロチンのような歯が開き今にも閉じそうなのが見えた。
やばい。ここから逃げ出さなければ。と思い、後ろへ下がろうとする。すると、その身体の動きに反応して、アメリアとの戦いで見たことのある仮足が俺の後方から生え、その生物の両脇にある立派な角に巻きついたのだ。そのおかげで、ギロチンの様な歯に挟まれずにすんだ。良かったと思って安心していると、俺がまだ近くにいることを奴は匂いで感じとったのだろう。
一度、奴は飛び跳ね俺が巻きつけた仮足をちぎった。その拍子で体が飛び上がる。すると、下にはギロチンのような歯がギシギシ音を発てながら、動いたのだ。俺は余りの恐怖に思考停止していると、どんどんその歯の方へ下降していった。
まずい喰われると思った瞬間、『死』という言葉が思い浮かぶ。すると、俺は大声で『死ぬ。死ぬ。死ぬ。…』と叫び始めた。それが幸運なことに、相手が驚いたのか、怯んだ。そして喰われる寸前で歯を閉じた。
俺はその歯が踏台となったのだろうギリギリ食べられずにすんだ。だが、直ぐに口を開けた為、尻尾が噛まれてしまったのだ。その結果、俺の身体は再び口元へ寄せられた。奴が俺を食べようと再び歯を開けると、頭から口の中へと入り、身体の半分のところら辺で食べられる。その瞬間体に激痛が走る。俺はふと我に返り、
「助けて!痛い。」と声を出す。だが、当然誰かが助けてくれることは無い。どうしよう、俺は口の中に入ってしまったのかと思っていると、俺のことを飲み込もうとしているのか、凄い力で引っ張られる。やばいと思って、前を見ると、口の入り口の所に少しだけ空間が出来ていた。
そこに仮足をかけられればと思い、激痛はしていたが、そこ目がけて全力で仮足を伸ばす。だが、残念なことに空間の手前にある赤色の大地に触れただけで、ぎりぎり届かない。くっそ!ここで飲み込まれて、お終いか。そう思うと再び『死』という言葉が出てきそうになった。だが、なぜか分からないが、飲み込まれなかった。一体何がと思って上を見ると、その赤面の大地が一部溶けていて、そこに仮足が刺さっていたのだ。
『一体なぜ?』と思っていると、
『暴食作用が働いた。そして今『recycle』で体を治療している。』と『レスパン』の音が聞こえる。すると後方の激痛が止まった
『あー。ありがとう。『respond』。ところで、今どうすれば良いんだ?』
『はい。何とかここから抜け出して!』
『何その曖昧な回答。まだ怒ってるの?』
『はい。』
『『はい。』じゃねぇーよ。今死にそうなんだけどー。』
『だから、渋々協力してる。』
『そうだったの?』と言うと、ギロチンの様な歯が再び開
き出したと同時に、洪水の如く大量の水が入り込んできた。
『やばいっ。押し流される。なんと…』と言いかけると、刺さっていた仮足が取れ、その濁流に巻き込まれ、喉の奥の方まで押し流された。くっこのまま『死』んじゃうのかと絶望に染まりかけていると、突如として、何かを突き破る音がして、体が急に止まった。
『ここで、諦めてはなりません。主人様。ここからが勝負です。』
『私だって、このまま易々と、貴方の為に私も死にたくない。勿論ここまで来たのにも作戦がある。』
『そうなのか?』
『そうです。主人様。上をご覧下さい。』
俺はそのアメリアの言葉に従い、上を見る。すると、上方4箇所に仮足が刺さり、イノシシのであろうか首の骨が剥き出しになっていた。
『オー。めちゃくちゃ刺さっているじゃんか。凄いな。』
『はい。このように上は安全。』
『本当か?また濁流でも来たら、どうすんの?』
『大丈夫です。我らの仮足は、変幻自在です。今は骨に二重に巻きつけてあるので、大丈夫です。』
『そうか。ありがとう。アメリア。ところで、作戦って何だ?『respond』?』
『はい。降下作戦です。』
『『降下作戦』?一体何をするんだ?』
『はい。まずは下を見てください。』
下を覗くとそこには、二つの穴が広がっていた。
『これらの穴は?』
『はい。一つは、塩酸ドバドバの胃地獄へと繋がる食道。もう一方は、比較的寄生しやすい肺へと繋がる気道。』
『なるほど。それでどちらに降下するんだ?言わずもがなだと思うけど。』
『はい。塩酸ドバドバの胃です。』
『えっ。マジで⁉︎』
『そんな訳ありませんよ。主人様。勿論気道に決まっているじゃないですか?』
『いいえ。胃と言うのは嘘です。』
『ねぇー。『respond』まだ怒ってんの?』
『はい。勿論怒ってません。』
『分かったよ。『respond』。それでどっちが夢のような気道に繋がるんだ?』
『はい。先程から空気の流れが凄い方があるでしょ。そっち。』
『そうか。分かった。じゃあ移動するかってこんなにがっつり仮足が骨に巻き付いている状態でどう移動するんだよ。『respond』‼︎』
『はい。今巻き付いている仮足を外すイメージをして、後は、肺胞につくことを信じてskyいやairway ダイビング。』
『えっ。この下をそのまま降りんの?肺胞に着くか分かんないのに。』
『はい。勇気を入れて頑張れ。足を自分で切ったように。』
『本当にそれしかやり方は無い?』
『無い。』
俺はその言葉を聞いて、絶望した。クソォー。どうして、俺はこんなに生まれ変わってから、恐怖体験ばかりしなくちゃいけないのか?なんて最悪なんだ。だがいつまでもここにいては、さっきの洪水を越える何が起きたら、胃に流されてしまうかもしれない。だが、ゴールが不確実で恐怖の対象であるスカイダイビングはしたくないと葛藤していると、上の方から水の音ではない何やらゴロゴロと音がする。俺が上方を見ると、驚く事に隕石のように岩が降ってきているのだ。
『い隕石だ。』
『あれが当たれば、多分死ぬ。死ななくても、胃に行く。』
俺はその言葉を聞いて、覚悟を決めた。もう迷ってなんかいられない。飛んでやる‼︎と腹をくくり、巻きついている仮足を外すイメージをして、飛び出す。すると急激に加速して、どんどん気道の方へ落ちていく。ふと、後ろを振り返ると、俺がさっきまでいた場所には岩石が降り、食道の方へと進んでいる。あの時、決意して良かった。本当に。もしあの時決意できなければ今頃胃の方へ押し流されていただろう。と安心していると、食道の方ではなく、なんとこちら側に岩の一つが落ちてきたのだ。
『まずい。あの岩迫って来ている。』
『大丈夫です。主人様。落ち着いてください。先程とは、逆に仮足を気道にさす事をイメージして下さい。』
俺は即座にイメージを膨らませる。だが、岩が迫ってくるという恐怖が邪魔をして、集中できず、中々イメージができない。
『くそっ。ここまでか。でも、まだ死にたくない!』と言った瞬間、俺の体から仮足が生え、ぶつかるスレスレの所で気道に刺さり、間一髪岩にぶつからず、右に避けることに成功した。そして、岩はさらに加速して、気道の底の方へと落ちていった。
「助かったー。」
『私は貴方の言葉に『respond』したまで。』
『そうか。ありがとう。『respond』』
『はいっ。それより、どうやら岩音が収まったみたい。今のうちに肺胞を目指しましょ。また水や岩が来たら、大変なので。』
『分かった。』そう、今の俺には、迷いはないのだ。意外かもしれないが、エアーウェイダイビングは、思ったより楽しい。というのもこの加速する爽快感。今まで、この世界で感じたどんなことよりも楽しい。
『さぁ。行くぞ!目指せ!肺胞!』と言い、俺は再び降下を開始した。
13話ご視聴ありがとうございました。ちなみに、アメリアアメーバに人間が寄生されると、赤痢と後脳を喰いつくされます。余談ですが、300pvありがとうございます。




