★21 女神
よろしくお願いします。
金曜日の夜、皐月に会いに行った。
こんな時間に会いにいったことは無かったので、皐月は不安そうだった。
「皐月、TDLで俺のこと好きだって言ってくれたよね・・・」
俺の表情を見て、皐月の顔がゆがんだ。もう分かっちゃったみたいだ。
「ゴメンなさい!俺は樹愛羅が好きなんだ。」
胸が痛い。
「・・・ズルいよ。一緒に暮らすなんて!
ちゃんとしたら、あんなに可愛いなんて!
あんなに健気だなんて!
・・・もう二度とゴンちゃんのこと好きだなんて言わないから!
ゴンちゃんより、もっといい人見つけてやるんだから!
樹愛羅よりもっと、もっといい女になって、絶対に後悔させてやるんだから!」
俺の目を見て強がる皐月が愛おしかった。でも恋ではなかった。
・・・大切な幼なじみ、親友を無くしてしまった。
だけど、樹愛羅との絆を切ること、それだけはイヤだった。
「お帰り!・・・ゴンちゃん、どうしたの?」
笑顔で出迎えてくれた樹愛羅だけど、俺の赤い目を見て心配してくれた。
「うん、皐月にゴメンなさいって謝って来たよ。」
「えっ・・・」
「樹愛羅、好きだ。」
「わ、私なんかでいいの?わた」
樹愛羅が自分を蔑もうとするのを遮った。
「樹愛羅がいいんだ。樹愛羅じゃなきゃ、ダメなんだ。」
「あ、ありがとう。」
喜びの涙を流している樹愛羅を抱きしめた。
「樹愛羅、好きだ。」
「ゴンちゃんが好き!大好き!」
・・・
2回戦の相手は第1シード校で、春の市大会をぶっちぎりで優勝した強豪私学だった。
サッカー部員全員が樹愛羅とハイタッチして、意気揚々とグラウンドに向かった。
向こうの方が、体がデカい上にスピードがあって、テクニックも凄かった。
だけど、全員が球際に食らいつき、体を寄せて頑張ったら、
なんとか両者無得点で前半が終わった。
前半は全員で守備ばかりしていたけど、
後半始まってすぐに俺は敵ゴールに向かって突進した。
上手いところに縦パスが来た!手を伸ばして敵ディフェンダーを弾き、体を入れた。
ゴールキーパーが少し前に出ていたので、思いっきり右足を振り抜いた。
ゴールの右上にボールが吸い込まれ、ネットをゆらした!
味方が、応援に来ていた家族や友達、樹愛羅が歓喜していた!
俺は思いっきりジャンプして、樹愛羅に向かってガッツポーズをした!
敵の猛攻が始まった。前半とは全く気迫が違った。
俺たちの方が運動量は少ないはずなのに、先にへばっていく。
だけど、ゴール近くに11人が集まって必死で守っていた。
後3分で後半終了という時間になって、相手にコーナーキックを渡してしまった。
ニアに鋭く蹴られたボールに、敵が頭から飛び込んでゴールネットを揺らされてしまった。
「守りきるぞ!」
みんなで声をかけあって、自陣でバックパスを繋ぐ。
PK戦にしたくない敵チームが襲いかかってきた!
俺と例の後輩が敵ゴールに向かって走り出した。
もう一度、カウンターで獲るぞ!
敵ディフェンダーが2人ずつで、俺たちを挟み込もうとする。
苦しい!もう限界だ!
「ゴンちゃん、がんばれ~」
樹愛羅の声が聞こえた!
顔を上げ、腿を上げた!
敵ディフェンダーより半歩前に出た!
前に落ちたボールに足を思いっきり伸ばしてトラップして
敵ディフェンダーをほんの1歩、置き去りにした!やった!
ゴールキーパーの位置を確認し、右足を振り抜いた!
俺のシュートは敵ディフェンダーのスライディングに阻まれると、
こぼれ球は敵のボールとなり、カウンターでゴールを決められてしまうと同時に、
試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
「また、やられたかと思ったよ。市大会の初戦でこんなにビビるとはね。」
敵ディフェンダーが握手を求めてきた。
「こっちには勝利の女神がいるけど、ここまでだったみたいだ。」
お互い笑顔で握手を交した。
「ゴンちゃ~ん!」
大きく手を振っている笑顔の樹愛羅に向かって小さく手を振った。
「なに、あの子、お前の彼女?可愛いじゃん!」
「ふっ、試合には負けたけど、勝負に勝った!」
「ええ、なにそれ!」
「次も頑張って!」
「おう!」
右手をあげると、バチッとハイタッチされた。痛すぎた・・・
味方のベンチに戻るとみんな笑顔だった。
「ゴン先輩、惜しかったですね!」
「もう少しだったのに!」
監督がパンパンと手を鳴らした。
「みんな、よく頑張ったな。正直、10対0くらいかなって思っていたんだ。
でも、ホント、勝ったときのコメント考えちゃったよ!
3年生の5人は特に頑張ってくれた。
今日が最後になってしまったけど、みんな卒業までサッカー部員だからな。
じゃあ、お疲れさま。」
みんなでワイワイ言いながらベンチの外へ出たら、
家族や友達が待ち構えていて、大きな拍手をくれた。
笑顔の樹愛羅が褒めてくれた。
「みんな、お疲れ様。もう少しだったね、惜しかったね。
でも、みんな凄くかっこよかったよ。」
「樹愛羅先輩のお陰ッス!
先輩の応援がなけりゃ、10対0だって監督、言ってたッス!」
部員みんなが笑顔で頷いていた。
「え~、みんなが頑張ったからだよ~」
「みんな、女神様に~敬礼!」
みんなでビシッと敬礼すると、はにかみながら樹愛羅も敬礼を返してくれた。
しばらくして解散し、樹愛羅と二人っきりになると、
俺のスマホの受信音が鳴り続けた!なになになに、なんなの?
恐る恐るラインを開いてみると、俺じゃなく樹愛羅へのメッセージが溢れていた。
『サッカー部の試合が終わったなら、今すぐ、バスケ部の応援に来て。市立体育館ね。』
『剣道部の試合がもうすぐ始まるんだ。樹愛羅ちゃん、武道館に来てください!どうか助けて!』
『陸上大会絶賛開催中だよ。早く来て来て!樹愛羅だけでいいよ!』
『水泳大会もうすぐ決勝なんだ。女神様のご来場を心待ちにしています!』
『助けて樹愛羅!樹愛羅がいないと負けちゃう!』
俺をねぎらう言葉はないのか!
『ゴンちゃん、お疲れ。女子テニス部は今から団体戦よ。樹愛羅とすぐに来て!』
「樹愛羅、女子テニス部の応援に行こう!」
俺が手を差し伸べると、樹愛羅は花のような笑顔で頷いて、手を繋いでくれた。
女神の仕事は終わらない!
読んでくれてありがとうございます。
面白ければ評価をお願いします。
一応、これで終わりです。
が、明日、最後に彼のお話を少しだけ。




