九十六戦目
先程の戦闘でキングボアのロース肉が塊で手に入った。
テマリさんのレベルも一気に上がり1回でレベル21になる。
離れた場所から適当に連射するだけで敵は攻撃する間も無く討伐されるのだからこんな美味しいレベル上げは無い。
これをハメ殺しという奴なのではないだろうか?
消極的な2人だったがこの一件からは積極的に攻撃をするようになった。敵の索敵範囲外からの攻撃に限ってだが・・・これを味を占めたというのでは無いのだろうか?
3回戦目、4回戦目も2人は狙撃ポイントから一歩も動かずキングボアを撃ち殺す。
ドロップアイテムは俺が回収するのである。
理由は単純・・・怖くて2人は近寄れないから。
敵の活動範囲外から狙撃をするという究極に安全な戦法をとってレベルを上げ始め、いつしかレベルが40を越えた。それでもこのやり方を変えようとはしなかった。
レベルが上がるから良いのだが卑怯感は否めない。それに戦闘経験という観念からは良い経験にはなっていない気がする。
イルカさん&テマリさんペアが一通りレベルが上がると、今まで戦闘に参加していなかったリノさんにバトンタッチした。リノさんはソロでボアへと立ち向かう。
「リノさん、本当に1人で大丈夫?」
「得武君は私に大丈夫じゃない装備をくれたのかしら?」
「いや、そんな事は無い。でも不安じゃないのかなって。」
「私はイルカさん達よりは戦闘慣れしてるから大丈夫よ。」
そう言って俺のサポートを断るリノさん。
そんな事言いながら、やはりレベル差的にモンスターに対して恐怖を感じるのかリノさんもかなり離れた場所から戦闘を開始した。
リノさんの武器は風魔法を発生させる魔導具・・・見た目は扇子である。
それを持ってイノシシ型の巨体の背後に気付かれないように慎重に周り遠距離から扇子を扇ぐ。風魔法で作られた真空波が問答無用に真っ二つに切り裂いていく。
ラウダの所有物である風の妖魔、ケットシーの魔石を使っているだけあって風魔法の威力的には申し分ないようだ。
これによりレベル9から始まったレベルも順調に上がる。ただリノさんの偉い事は、レベルが40を超えると、敵の土俵に足を踏み入れた。
敵の突進を肌身で感じながら扇子を振る。
魔法というのはイメージが命だ。それを知ってか知らずか違う魔法が発動したのだった。ボアを吹き飛ばす事も出来るのだ。
正面からイノシシ・・・じゃなかった、キングボアを風で吹き飛ばし、フロアの天井に叩きつけて殺した一戦もあった。
この3人がレベル50になる頃、皆は移動し階層を変える。
ここでのドロップアイテムはキングボアの牙3本、ロース肉5キロ×3箱 霜降り肉5キロ×2箱。キングボアの魔石10個である。
次は冬月先生のレベルアップの番である。
冬月先生はもうすでにレベル39まである。
対する敵はレベル80のゴブリンジェネラル。
冬月先生は右手をチラチラ確認していた。
冬月先生は敵の10メートル範囲内に侵入する。
すると目に光が宿ったように巨大なゴブリンは背丈程の巨大な斧を持って立ち上がる。
身体2メートル50。頭に立派な兜を被り、鎧を纏っている。
目が紅く光っている。
立ち振る舞い的に本当にゴブリンなのか?と問いたくなる。
現に、ゴブリンはジェネラルクラスになると本来沢山の仲間を引き連れている事が多いのだとエリシアは語る。
本来は単体でいる事が珍しい個体なのだが、ここは商業用に作られたダンジョン。戦い辛さは一切省いた仕様になっている。
冬月先生の武器を作ったのは俺自身なのだが、実際戦闘する姿を見るのは初めてだ。上手く作動するか不安だし威力、命中率等不安が残るが・・・。
そう考えてるとゴブリンは駆け出した・・・瞬間だった・・・。
ゴブリンジェネラルは僅か5歩の命だった。歩いただけで血飛沫が飛び散り動きを止める。
見ると無数の風穴が身体中を蝕み崩れ落ちる。
巨大な青い血の水溜まりが出来ていた。一瞬過ぎて俺も何が起こったのかわからなくなってしまうが、
「さすが冬月先生。」
と声を掛けると、余裕そうに笑う先生。
見た目的に呆然と立ち尽くしていたように感じる試合。先生何をしたんですか?と聞きたくなるような戦闘。
勝手に自滅したように見えるゴブリンジェネラルだが、血が吹き出るのは明らかに物理的な攻撃が加わった証拠である。
「このレベルが上がりましたって効果音慣れないわね。一気に上がるとこんなにうるさいなんて通知オフしたいわ!!」
ああその気持ち、分かります。何個上がりましたって纏めてくれたらいいのに、一回一回<レベルが上がりました>って言うもんだからうるさいのだ。耳が痛くなる気持ちがよく分かる。
「先生、何したんですか?」
と疑問に思うリノさん。これにはイルカさん、テマリさんも同感の様子。
「よく観察して見て見なさい。」
魔石を拾い上げて5分後、もう一度冬月先生はゴブリンジェネラルと再戦する。俺も武器の性能を見る為目を凝らしてよく戦闘を観察する。
ゴブリンジェネラルのすぐ頭上を鳥のようなものが通り過ぎた・・・
一瞬ゴブリンジェネラルの目は泳ぐが、しっかりと冬月先生を視界に収めて歩いてくる。
そこからの展開は全く同じものとなった。
ゴブリンジェネラルは5歩歩くと崩れ落ちて活動停止。身体中に無数の刺し傷。青い血の水溜まり・・・
「わかった!!冬月先生ファンネ○使ってる。」
リノさんは興奮して叫ぶ。しかし冬月先生は首を縦には振らない。
「違うわよ。確かに小さい虫みたいなのが魔導砲放って殺したのはそう見えるのかもしれないけどよく見てなさい。」
モンスターは黒い泡となって消えると、戦場に飛び散った青い血の上にドロップした大きな斧が一振り落ちていた。
冬月先生はそれを戦場の隅に置いてもう一戦挑むかのように身構えた。何か集中しているように見える。俺は声を掛けた。
「冬月先生、もう少し下がらないとダメージ負いますよ。」
「今集中してるから静かにして!!」
何に集中しているのだろうか?その成果は次の戦闘に現れた。
ゴブリンジェネラルが地面から木の芽が成長してくるように黒い繭が盛りがって成長し、繭からゴブリンジェネラルが現れる。
明らかに近距離にいる冬月先生を睨み、「グゥああぁ!!」と咆哮を上げながら飛び掛かっていた。
冬月先生危ない!!と思ったけど、アクセサリーにはオートシールドが機能が搭載されている。それが破られるまで我慢だ。そう思って固唾を飲んで見守る。
その心配は杞憂だった。
目と鼻の距離。大きく振りかぶったゴブリンジェネラルの斧は2歩ほど届かず地面に転がった。
ゴブリンジェネラルはほとんど動けていない。3歩も動いただろうか?また今度は大きな風穴が胸に一旦集中していた。
「凄いです。何もさせていないですよ。」
と絶賛すると、冬月先生は自慢げ・・・
「弱点鑑定ってスキルに振ったら攻撃力が増したみたいね。」
笑うのだった。
なるほど、先程集中してたのはスキル振りの最中だったのか。それにしても殲滅速度が倍になった。これは凄い!!
そう考えていると
「冬月先生の武器の仕掛け、わかったかもです。」
声のする方へお振り向いた。そのトリックを紐解いたのは意外にもテマリさんだった。それは冬月先生も同じように思っていたようで
「本当?」
と疑っている。とても動体視力が高いようには見えないのだ。
「冬月先生の武器ってもしかして、ドローンですか?」
「正確!!凄い、よくわかったわね。小型化したドローン兵器よ。私の魔力と連動して動くようにして貰って、12機同時に飛ばしてます。私の魔力を吸い取り魔導砲を放ちます。何故わかったの?」
もっと詳しく説明すると、ドローンはドローンでもエリシアのスキルの乗ったドローンだ。ちゃんと生きている。
戦闘と同時にゴブリンジェネラルの周りを6機飛び回り、冬月先生の周りにも展開する。
冬月先生への敵意を感知した瞬間、砲撃を開始。1秒に2発。
これがゴブリンジェネラルに空いた風穴の正体であり冬月先生の武器である。
それにしても先生が問うように何故テマリさんがわかったのだろうか?
「綾香ちゃんと学校で寝泊まりした時、こんな事あったよって話してくれた事があって。その時冬月先生のドローンの話を聞いたからもしかしてって思いました。」
俺の知らないストーリーがあるのだろう。
「確かに私、こんな世界になって2日目に咲羅さん、綾香さんと3人で行動した時にドローン操ってたわよね。あの時は情報収集目的で飛ばしてたけど。得武君、最高の武器を作ってくれてありがとうございます。」
「俺がしたくてやった事だから気にしなくて大丈夫です。」
と言いながら内心思う・・・
冬月先生の魔力と連動させるのに凄く苦労したんだよな。
エリシアが関わっているからエリシアを親だと思ってしまって・・・始めは俺たちの魔力を吸うようになったんだよな。魔力供給をキッパリ切って「これから出会う人がご主人様だよ」って何度説明した事か。
あの雛鳥達が、冬月先生という主と出会い活き活きと活躍する姿を見ると・・・ああ、なんだろ、感動して来た。
「なんで新子君泣いてるのよ。」
「冬月先生、大事に大事に育てて下さいね!!」
「感情移入が凄い!!でもなんか気持ち分かるわ。この上目遣いで擦り寄ってくる感じがなんとも言えない可愛さがあるわよね。」
「そうですよね!!分かります。」
「どうなってるの!?生きてるの?」
「はい、生きてますし、一機ずつにちゃんと個性もあります。魔力で冬月先生と連動してますので冬月先生の意図を汲み取ります。」
「優秀ね本当に。私のスキル、弱点鑑定のスキルを伸ばした途端、この子達弱点以外攻撃しなくなったもの。」
「戦闘以外にも、ちゃんと写真や動画、撮ってあげて下さいね。」
「わかってるって。」
と満足そうに笑う冬月先生。
「スキル振り?」
そのあたりをよく理解していないイルカさんテマリさんリノさん。
「スキルってのはね・・・って、モンスターがリポップするから場所変えましょう。」
凄く離れた場所へ移動し、冬月先生のスキル振り講座が始まった。
3人は真剣にその講座を耳にしてスキルポイントを振っていく。
「あの、称号ってなんですか?モンスターを倒す度にジャイアントキラーを始めとする数々の称号を手に入れるんですけど、これ、装備する類のものじゃないですよね。」
懐かしい。俺の取得した称号の数は数えきれない。
「リノちゃん、良いところに気がつくわね。そうよ。称号は私達の業績によって取得されるものよ。称号を得る利点は、例えばゴブリンキラーならゴブリンに対しての攻撃力が増したりするけど、もう一つ、これが重要よ。」
「それは?」
「そのランクに応じてスキルポイントを取得出来る。」
俺もこのスキルポイントで多くのスキルを習得した。レア度のランクでは、100回以上HP0になった者に送られる称号が俺の持っている中で最高のレア度のものである。
しかし大変不名誉な称号な為、おススメは出来ないなと笑うのであった。
「なるほど。レベルがカンストした場合、狙って称号を集める事でスキルを伸ばせるという話なのですね。」
「そうなの。」
さて、スキル振りも皆終わらせた所で次の番にはどんな展開が待ち受けているのだろうか?
皆がスキル振りに没頭する中、一番先にスキルが出来たのリノさんだった。
「私から行きます。」
意を決してゴブリンジェネラルに近寄る・・・繭の台座に座り、ぼーっと天井を眺めていたゴブリンジェネラルは突如、命を吹き返したかのように斧を持って立ち上がりリノさんを睨んだ。弾け飛ぶかのように襲い掛かって来る敵に対し、
「よ、寄るな!!」
とリノさんは叫ぶ。やはり怖いのだろう、そんな声が出るなんて。
瞬速で近寄るゴブリンジェネラルはもうすでに斧を振りかぶっていた。扇子を振り抜いているが、これはゴブリンの攻撃には間に合わないか・・・。でもオートバリアは健在で15発ぐらいなら耐えれるだろうと予想しているから大丈夫だろう。
瞬時に判断し戦況を見守る。すると俺は目を疑った。
「えっ!?」
ゴブリンジェネラルが一瞬止まったように見え、リノさんの振り遅れた扇子の振りが間に合ったのだ。
ゴブリンジェネラルは吹き飛ばされて壁に激突。
さらに扇子から繰り出される風魔法が次々と追い討ちを与え、ゴブリンジェネラルは崩れ落ちる。
「今の・・・なんだ?」
俺は呟く。エリシアの鑑定スキルにはなんの表示も出ていない為状況判断がし辛いのだ。
「秘密。」
と言ってリノさんは何食わぬ顔でドロップアイテムを拾う。金色の球だった。その一連の様子を見ながら、横で囁く精霊の声を聞く。
「声のスキルよ。リノが発言した時敵の方向いてたでしょう。リノの声に鑑定掛けなさいよ。私の鑑定によれば、嘘吐きにペナルティを掛けるスキルよ。」
エリシアは皆から見えないことをいい事にリノさんのスキルを暴露。でもその説明だと謎がいっぱいだ。
沸いた疑問を小声でエリシアにぶつける。
「ゴブリンジェネラルは喋らないから嘘なんてつかないだろ。」
「それなんだけど、[寄るな]って最初に言ったでしょう?相手は可も不可も言わなかったけど、否定しなければ肯定とみなす効果でもあったのでしょう。異世界でいう契約魔法の力は少量の魔力で強固な力を発揮する。この場合、[寄るな]という要求に曖昧にして近寄ったゴブリンジェネラルはこのスキルによるペナルティを負ったという事になるわ。」
「反則だ。」
「ええ。反則よ。いい仲間を持ったわね。」
「それにしてもこのスキル、例えるならルールの押し付けだよな。」
「そのスキルに嵌らないように次からリノの前では下手な発言をしない事ね。」
「・・・そうだよな。気をつける。」
5戦ほどリノさんはゴブリンジェネラルと戦ったが、近距離でもシールドに傷を付けられる展開にはならなかった。安定の狩りである。
レベルも70を超えたところでイルカさんへバトンタッチ。
イルカさんは敵の戦闘エリアには近寄らない。ハンドガンなのだから2丁拳銃で近距離からのガンアクションを繰り広げて欲しい願望があるのだがそれは俺の要望であってイルカさんの本意ではない。
願いとは逆に25メートルほど離れたところでイルカさんの攻撃は開始された。
「錬金武装解除!!」
25メートル先にいたゴブリンジェネラルの斧、兜、鎧が全て鉄屑に変わる。まさかこれだけ離れてるのに武装解除が届くなんて!!
ビックリしたゴブリンジェネラルが反射的に視線を送る。その圧に晒されたイルカさんはドン引きした。
「うげぇ!!あの目やばいよ!!」
口元を引き攣らせながらがむしゃらにハンドガンを2丁拳銃にし撃ちまくる。
レベルアップによるステータスアップのおかげで反動の影響は無く、背筋を伸ばして左右交互に発砲する様子は絵になっている。
その全ての攻撃がただの大きいだけのゴブリンと化したゴブリンジェネラルの首元に吸い込まれていき・・・半分ほど近寄ったところで力尽きた。
俺も含めて皆が拍手を送ると膝から崩れ落ちるように地面に座りこむイルカさん。
「怖いよ。あの目はやばいよ。狂気の沙汰だよ。」
と感想を述べるイルカさんはトラウマになっていた。
「イルカさん?その錬金武装解除の効果範囲広すぎない?」
俺のスキル、錬金術補正が育つまでは効果範囲も俺から5メートル以内の範囲までだった。そう考えて俺は突っ込むと。
「だって得武君のスキル、そのままそっくり真似してるんだもの。得武君は100メートル範囲は余裕でいけるでしょう?」
なるほど。モノマネって事はそういう事なのか。精霊魔導師になって俺は錬金術の効果範囲をかなり広げる事に成功した。イルカさんは成長した俺のスキルをそのまま真似しているのだ。
「100メートルは余裕でいける。」
「余裕って・・・。MP消費が凄そうだから真似したくはないけど、得武君の方がおかしいわ。」
「そうか?」
「そうなの。」
でも、モノマネ師は想像以上に強いかも知れない。
現にレベル80のゴブリンジェネラルを倒している。それもソロ攻略なのだ。イルカさんにとっては大きな成果だと思う。
「後4回頑張ろう。」
「本気で!?」
「本気で。」
凄く嫌そうな顔をされた。でも腹を括ったのか大きく深呼吸して拳銃を構える。真剣な眼差しでモンスターのリポップを待つ。
程なくして地面が沸騰するかのように黒い繭が浮かび上がって来る。そのゴブリンジェネラルに対して、まだ繭の時点ですでに発泡するイルカさんだった。
ゴブリンジェネラルの胸に吸い込まれる銃弾の嵐。この2回戦目もほとんど展開は変わらないものとなった。
ゴブリンジェネラルの攻撃が届く前に活動を停止する。青い血の海が広がるのであった。
楽々撃破の気がしているのだが、リノさんの顔色は悪い。気にした冬月先生が声を掛けた。
「イルカさん、大丈夫?」
「先生、多分心が付いていってないのかもです。」
「初めての戦闘だものね。」
「そうなんです。まさかこんな展開になるなんて思ってもいませんでしたよ。」
「イルカさん、凄いわ。銃弾の跡を見て気付いたんだけど私の弱点鑑定を真似してるわよね。」
「冬月先生・・・あの・・・。そうです。勝手に真似させて頂きました。今度から許可取るようにします。」
「別に許可とか要らないから好きにやりなさい。凄いなって話をしたかったの。」
「ありがとうございます。へへ、なんか嬉しいな。」
先生に褒められてテンションが上がったのか、少し積極性が増したのか顔つきに怯えが無くなった。
3回戦、4回戦とクリアする。一回も危なくなる事なく余裕そうにクリアするから俺は油断していた。イルカさんの顔色はますます悪くなっているのに・・・
そして5回目・・・それはついに起こった。
「錬金武装解除!!」
使った瞬間にイルカさんは頭を押さえてうずくまってしまった。ゴブリンジェネラルの武器防具は健在で、何かを察知したゴブリンジェネラルはニヤリと笑いながらこちらに走り寄ってくる。
「どうしたの?イルカさん!?」
「頭痛い・・・。」
この症状は、MP欠乏症だ。オートバリアはあっても無防備になってしまう。マウント取られたらどうなるかわからないぞ!!
このままじゃ不味い。イルカさんを守らないと!!
俺は咄嗟に持っていた投げナイフを投げた。ゴブリンジェネラルの頬を掠める。その瞬間・・・ゴブリンジェネラルの頬から赤い波紋が広がり、皮膚を溶かしていく。
そのスピードは1秒で全身に到達し、ドロっとした赤い液体となって崩れ落ちた。その液体は沸騰し、気体となって消えていく・・・
「イルカさん大丈夫?これ飲んで。」
俺はアイテムボックスからエーテルを取り出した。自分では起き上がれないイルカさんの頭を腕に抱き寄せ、ボトルに入ったエーテルを口元に運ぶ。ゆっくりと飲ませた。
すると真っ白だった顔色が、だんだんと血色を取り戻していく。ふと目が合った。
「あ、ありがとう得武君。あの・・・ゴブリンジェネラルってどうなったの?」
吐息が当たりそうな距離である。
「俺が倒した。」
「そうなんだ。得武君強いね。もう大丈夫だから離して。」
「大丈夫?顔真っ赤だよ。」
「ち、近いから。ちょっと恥ずかしい・・・。」
「そ、そうだね。」
言われてみれば、俺セクハラじゃないか?失礼だと気が付き慌ててイルカさんを解放する。イルカさんは恥ずかしさを誤魔化すようにゴブリンジェネラルを横目で見た。俺も視線はそちらへ・・・
まだ沸騰の途中だった。
今まで確定でアイテムを落としていたモンスター達。最低でも魔石を落とすモンスター達なのだが、今回俺が倒したゴブリンジェネラルからはアイテムのドロップはなかった。
俺はそれに疑問に思いながらも話を進める。
「次はテマリさんだね。」
「私は無理だよ!!」
嫌がるテマリさん。でも今回はイルカさんからもアプローチがある。
「遠くから狙い打ちすれば大丈夫だって。」
「そうかな?」
ドキドキしながら離れた場所でゴブリンジェネラルの再出現を待つ。
5分経っても黒い繭は無い。何かの不具合かなと思いながらも時間を図りながら待つが、10分経っても再出現する事は無かった。
明らかに異常事態だがこれには心当たりがある。俺の毒ナイフが敵を消してしまったのだ。存在ごと無かった事にしてしまったのだった。
ここのゴブリンジェネラルはもう二度と出てこない。そう悟って俺は
「じゃあ、次の場所行きましょうか。」
と提案した。




