九十五戦目
「一人一人のマイナンバーは要らないから入場料を人数分払って下さい」との事だったので俺の心配の種である猿達のマイナンバー問題に関してはクリアした。もしダメならマイナンバーを発行しに行かないといけないし、そもそも猿に市民権は無い。無理な話だ。
お金に関してはユウタロウさん、ナツメさん、冬月先生が割り勘してくれた。
予想以上の金額で正直肝が冷える。全員の入場料で軽く車が買えるぞ・・・。
だけど、倒したモンスターのドロップアイテムを引き取ってくれるシステムなので、換金すれば元が取れるらしい・・・。
元を取り返す為に上手く貢献しなくては。
俺はダンジョンの内部を歩きながらエリシアの鑑定スキルを使ってダンジョンの構造を大まかに理解した。確かに咲羅がレベル上げにピッタリだと言う気持ちが分かる仕組みになっていた。それは・・・
各フロアにモンスターの沸きポイントというものが存在する。モンスターの出る数は1箇所1体のみ。再出現は討伐後5分だ。これは元々こんなダンジョンではなかった。ダンジョンマスターが操作して戦い易いようにしている。
1階から階を上がる毎にモンスターの強さが分かれて、7つあるビル毎に、出てくるモンスターの属性が違う。
だから人々は弱点属性のモンスターが出るフロアに好んで足を運びレベル上げをするらしい。
シークレットミッションをこなすとボーナス経験値が手に入る。
経験値の宝庫である。
このダンジョンがあるから、福岡市民の平均レベルは高いと言って過言ではない。ダンジョンなのに入場料を取られるのは癪に触るけど、その金を出すに値する価値がここにはある。
俺たちは2グループに分けた。
咲羅、綾香、レイチェル、ブルーノ、キイチ、寧々、カルンデ。ユウタロウさん、ナツメさんはレベルが高い為、ダンジョンの高いところで戦ってもらう。そこへ、ヤンキー6人と魔術師部隊も仲間入り。こちらのメンバーには特別顧問であるラウダの戦闘指南が入る。
目一杯技術を磨いてくれ。
ラウダを見送ったリノさんはなんか寂しそうに手を振っていた。なんか進展あったのかな?
残りのメンバーは下層で戦ってもらうのだが、
俺が皆のフォローに入る。
いざという時のために皆には回復薬を持たせている為、死ぬ思いはしても本当に死ぬ事は絶対にないだろう。回復薬の他にも万能薬を持たせているから万が一は無いと思うのだけど、心配である。
俺は、アルちゃんから気配察知のスキルとエリシアからは鑑定スキルをお借りしている。何があっても俺が対応出来る。皆には死ぬ思いすらさせないと心に決めている。
「ねぇ、新子くん。本当に私達ってレベル上げる必要あるの?」
とイルカさんは訊ねる。
「レベル低いままだとスキルレベルが低いままだろ?それだと今後の作戦に困ってしまう。」
「今後の作戦?」
「イルカさんとテマリさんにはユウタロウさん達がいる岡山の皆に会って貰いたいと思っている。」
「ええ!?」
驚くイルカさんとテマリさん。
「そこで、岡山の市民全員に回復薬とエーテルの量産、そして武器防具を整えてやって欲しい。」
「えっ!?」
「ユウタロウさん達の装備は異世界から持ち込んだものだと思うけど、それでも俺から見たら弱いように感じる。住民達はモンスターからドロップした武器防具を装備している場合が多いと思う。今後協力してマーサを倒して行くのに弱いままの装備では困る。2人が作ってあげた方がもっと強いのが作れるんじゃないかって。」
「何を根拠に?」
「船、改造してくれたんだろ?その時に確信した。レベルが上がってスキルが充実したらきっと、素晴らしい才能が開花するって。」
「そんな、褒めすぎでしょう。」
「イルカさんのスキルはいろんな良いものを早く吸収するのに適していて、テマリさんの裁縫スキルは俺にはないスキルだ。」
「そうかな。」
不安げなイルカさん。その後ろにいるテマリさんは珍しく声を上げた。
「私、やるよ。」
引っ込み思案の女の子がアクションを起こした。それにびっくりしたのは俺だけではなくてイルカさんも同じ。
「テマリちゃん、ちょっと本気?」
「だって、今までこんな期待された事なかったし。」
「でも、戦闘するんだよ!?」
「目を瞑って撃つだけなら私でも出来るかも。」
「・・・そう・・・だよね。ここまで戦闘が簡略化されてるものね・・・。私も腹を括るか!!」
「得武君、あのね。」
テマリさんが震えた声で俺を見た。改まって何を言うんだろう。そういえば下の名前で呼ばれたのって初めてのような気が・・・
「何かな?」
「私、不安で手が震えてるから、安定して敵を倒せるまで側に居てて欲しいな。」
「それならお安い御用だよ。頑張ろうな。」
「うん!!」
気付いたらイルカさんがジト目で俺の方を見ている。
「私も手が震えて来た。近くに居て欲しいな。」
「イルカさんは好戦的だし、サポート無くてもいける気がするよ。」
「得武君酷い!!」
そんなやり取りをしていると、エリシアからは「モテモテね」って茶化されるし、
「いちゃついてないで早く行くわよ。時間が勿体ないわ。」
と冬月先生までが俺をイジるのだ。
「先生、いちゃついてなんかいません。」
「無自覚なのね。綾香ちゃんが泣くわよ。」
「綾香がなんで泣くんです。」
「そこも無自覚なのね。話はここまで。行きましょう。」
「先生にも武器が出来てます。希望は聞いてましたけど、本当にこれで良かったのですか?」
「ええ。勿論よ。」
「一応戦い易いように先生の負担を軽く出来るようにしています。可愛がって下さいね。」
「ええ。ありがとう。」
冬月先生の武器が1番苦労したかもしれない。
俺も何度分解して理論を理解して改良を繰り返したか分からない。
でも作った価値はある。
「冬月先生の武器って何?なんか鑑定スキルを活かせるように狙撃系の武器とか?実は暗殺道具だったりして。」
たまらず聞いてくるリノさん。俺は笑う。冬月先生に体術的なものを求めてはいけない気がする。どちらかと言えばこっちの方がしっくりくる。
「冬月先生の武器は・・・。」
俺の口を遮るように先生は口を開いた。
「戦闘見てからのお楽しみでいいんじゃないかしら?」
「ええ!?」
リノさんは肩を落とす。
そんなリノさんの武器も特殊なものである。扇子である。それも煽げば風魔法が飛び出る扇子だ。
リノさんのステータス上魔力値が高い。なのにそれを発現する魔法スキルを一切覚えていない為この武器が必要だった。
そのメンバーと魔術師パーティが初のダンジョン攻略に挑戦。なんかワクワクする展開である。
さっそく1番弱い階層に到着した。
1番弱いと言ってもレベル50の敵が出る。
そんな相手にレベル1のテマリさんとイルカさんが挑むのだからハラハラする展開である。
まぁ、手袋に数値にして3000分のダメージを防ぐオートバリアの機能を備えてるのだからレベル50程度の相手では何があっても死なないのだが。
エスカレーター下、第一の沸きポイントに到着した。敵は体長2メートル、ある巨大なイノシシ・・・キングボアが一体微動だにせず構えている。近寄った敵に突進を仕掛けて突っ込んで来るのだろう。
テマリさんはボウガンを構える、イルカさんは拳銃を持って敵に近寄ろうとするが。
「なんで俺を盾にして歩くんだよ。」
両腕にしがみつかれている。
エリシアから「そう言って内心喜んでるくせに、この浮気者。」とイジってくる。俺も何がなんだかわからないんだが。エリシアも周りから見えないことをいい事に俺に言いたい放題だ。
まぁ女の子から頼られるのは悪い気はしないけど。
「もう怖くて近寄れない!!」
そうごねるテマリさんだが、敵との距離は学校のプールの端から端までの距離の開きがある。もっと近寄らないと戦闘経験を積ませられないのだが。
「私にも分かる。あれは凄いオーラを放っている。あんな強いモンスター初めて見るし多分私達は反応出来ずに殺されてしまうのよ。」
とイルカさんもビビるもんだから前に進まない。
レベル1から見るレベル50は異次元の存在に見えるのだろうか?
いやいや待て、俺がゾアルを倒した時、俺のレベルって幾つだよ。確か10ぐらいじゃなかったか?
レベル10から見たレベル250。240も開きがあったんだぞ。俺の実体験はどうでもいいか。どうやる気にさせる言葉を掛けるかだ。
「最初が肝心だよ。絶対に守るからもう少し前に進もう。」
「無理無理!!怖すぎるよ!!」
テマリさんが暴れている。意地でも前に進みたくないのか必死の抵抗を見せている。
怖がる女子2人を引きずってまでモンスターと戦わせるのも気がひける。ここは落ち着いて本人達の気持ちが落ち着くのを待つしかないのか?
そう思った時だった。テマリさんのボウガンが暴発した!!
上空に放たれたボウガンが突如角度を変えてレベル50のキングボアに目がけ、急降下する。
咄嗟に躱そうと角度を変えるキングボアだが、空から降るボウガンの矢に頭上から撃ち抜かれて地面に縫い付けられるキングボア。
倒したと思った瞬間、テマリさんは耳を抑えてしゃがみ込んでしまった。
「あーーーー!!耳がうるさい!!何これ!!」
ああなるほど。今まさに『レベルが上がりました』の脳内アナウンスが流れているのだろう。俺も一つ一つ連呼するの辞めてくれないかな?って思った事があるから気持ちは良く分かる。
「初戦闘勝利おめでとう。あんな距離でもボウガン届くんだな・・・。」
戦闘勝利という話。という事は魔石を落とすに違いない。なので俺達は。ゆっくり倒れたキングボアに近寄った。
テマリさんは耳が痛いくせに俺の服を掴んで離さない。イルカさんも強く力を込めてしがみつくもんだからキングボアになかなか近寄れない。
キングボアは黒い泡となって消え、ドロップアイテムに木箱が発生した。
「えっ!?宝箱!?」
俺モンスターから宝箱がドロップするの初めて見るんだけど。本当にゲームみたいなシステムだよな。
「宝箱にしては小さくない?」
と冷静な突っ込みを入れるイルカさん。
「宝箱じゃないわよ。開けて見なさい。」
離れて見守る冬月先生の鑑定眼には何か知っている。俺はそのドロップアイテムを拾い上げた。
寿司でも入ってそうな木箱の中身はずっしりと重い。開けてみると肉の塊が入っていた。
「お歳暮とかで送られてくる物と同じ見た目だな。」
考えてる事が声に出てしまった。
冷静に冬月先生は鑑定結果を述べる。
「キングボアのロース肉5キロ入り。換金価格1万円よ。鑑定眼には超絶品って書いてるわ。」
素直に食べたいって思ったのは俺だけだろうか・・・。




