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九十四戦目

キャナルシティの前に、テーマパークの改札入り口のようなものが設けられており、3列に分かれて人が入場を管理している。俺が先頭に立ち入場ゲートに並ぶ。


前の列の客が、マイナンバーを提示している見て一瞬焦る。モンスターが出現してからこの類の物が必要になる事ってまず無かった。財布の中を探ると奥の方にあった為大丈夫だった。しかし、第二に問題が。


猿達にマイナンバーなんてまず持っていない。

猿達にはお帰り願わないとダメなのか・・・。


10分ほどして俺の番がやって来た。

受付のお姉さんは後ろの皆を見つめながら何か言いたげに目を泳がして・・・


「マイナンバーカードの提示をお願いします。」


と通常業務に戻る。


「お願いします。」


俺は差し出すと、カードをスキャンするとホログラムでGという文字が浮かんで出てきた。


「もしかして都心に来るのは初めてですか?」

「そうなんです。大分からやって来ました。」

「皆様、そうですか?」

「えーっと・・・。そうです。」


厳密にはユウタロウさんとナツメさんは岡山からだ。それを言うかどうか一瞬迷ったが辞めた。これからマーサは岡山のダンジョン所有権を巡って戦争を開始しようと言うのだ。

敵対勢力が単身こんな所にいるなんて、偵察の他にないだろう。怪しまれるのを避けて皆大分県民ってことにしておいた。

それにしても何故そんな事を聞くのか?怪しまれるような事したっけ?してるな・・・。

逆の立場なら猿から子ども、大人まで・・・一体このメンバーでダンジョンになんのようだ?って思ってしまうな。

俺の疑問を察して受付のお姉さんは答えた。


「何故こんな事を聞くかと言うと今、マイナンバーカードに全て冒険者ランクというものが搭載されており、1都2府10県がこのシステムを導入してます。あなたはダンジョン未攻略・・・その表示にGランクと出ています。ここへの立ち入りは最低でもCランクはないと危険です。なのでこのキャナルシティへの立ち入りは許可出来ないです。初心者ダンジョンから成り上がって来てください。」


理由は事務的なもんだった。しかしこれって門前返しではないか?

俺達は中に入る事すら出来ずにここで終わるのか?


「なぁ、強行突破で良くないか?」


とキイチの呟きに、


「おい、おまえ・・・頭冴えてるじゃねぇか。」


とレイチェルとブルーノは乗る。

本気でやりそうになったところを咲羅は睨みを効かせて取り押さえる。


「確か一人一人のランクは必要あらへん。同じギルドメンバーなら強い奴同伴で入れるシステムやないか?」


と、ユウタロウさんが前に出てマイナンバーカードを提示。「ギルドメンバー」だなんて異世界でもないのに何を言い始めるのだろうと思ったのだが、口を挟むところではない。何か策があるのかと思って固唾を飲んで見守る。するとついでとびかりにナツメさんも提示。受付のお姉さんはそれらを見て驚愕した。


「岡山、Aランク・スコアラー。丹原ユウタロウ様、米澤ナツメ様。」


岡山ってバレてるじゃないですか!?敵地なんですよね!?大丈夫なんですか?

そんな事を瞬時に考えたが、受付のお姉さんは大して気にしていない。

ドキドキしながらお姉さんの顔色を伺う俺の横でついでとばかりに咲羅は「はい、これも」とマイナンバーを提示。


「福岡Sランク・スコアラー新子咲羅様・・・。えっ!!咲羅様!?あのネットニュースは本当だったの!?」


「岡山出身」にはスルーなのに咲羅には食いつくお姉さん。驚きつつパソコンを慣れた手つきで操作する。「やっぱりそうだ」と呟いている。


なんでだよ!!普通警戒すべきはユウタロウさん達だろ!?って敵側の視点になってツッコミそうになる。それを必死に堪えるとドヤ顔の咲羅が答える。


「ええ。こんな実力派が集まるギルドよ。通っていいでしょう!?」


なんか、俺たち一つの「ギルドメンバー」って事になってるし!!いいの?申請書とか出せなんて言われたら無いよ!!ボロが出ちゃうよ!!

内心冷や冷やしているのは俺だけだろうか?何故咲羅もユウタロウさん達も平然としていられるのだろうか?

でももしかしたらこの嘘でまかり通るかも知れないって期待する俺もいる。


「確かに実力的に充分ですしギルドなら皆の通行は許可出来ますが・・・ダメです!!」


だろうね・・・俺はわかっていた。でも


「なんでよ!!」


食い下がるのは咲羅だった。


「今、データベースで情報をチェックしているのですが、咲羅様、ダンジョンの主、マーサ様から指名手配になってますよね。丹原様と米澤様も同じく指名手配となっております。そんなメンバーをこのダンジョンに入れる訳には行きません!!ダンジョンが消されてしまいます!!」


検索されていたのは俺たちの事だった。どうやら昨日の一件により俺たちは指名手配になってしまった。その事が咲羅のマイナンバー提示によりバレてしまったのだ。


咲羅がマイナンバー提示しなければ入れたんじゃない?って思うけど、バレてしまったのは仕方ない。


ああ、元々マーサに追われ米軍に追われている身だが、昨日の一件で本当に活動しにくくなってしまった。でも引き下がるのは嫌だな・・・

ダメもとで俺は声を掛ける。


「このダンジョンは消さないから通して下さい。」

「そんな問題じゃありません。」


そうだろうね・・・。わかってました。だからダメもとなんです。

冷たく突っ返されると、俺は苦笑いをしながら「すみません」と引き下がる。ふと・・・後ろで聞いていた寧々は聞こえるか聞こえないかのギリギリのトーンでボソリと呟く。


「ケチなおばさん。」

「お、おばさん!?」


明らかに悪意があるように感じるが、目に見えて狼狽える受付のお姉さん。さぞ精神的大ダメージを負っただろう。

言ったのは8歳の少女なので仕方ないと言えばそうなのかも知れないが、それをサラッと言うもんだから子どもってこういう時怖い。


上手く事が進まない時キイチが苛立つ。


「俺、このダンジョン楽しみだったんた。強行突破しようぜ。」


と、今すぐにでもスキルをぶっ放しそうになっている。やばい、収集が付かなくなって来たぞ。


そう思っていたら・・・


「ちょっといいかな?」


後ろに並んでいた壮年の4人組のパーティが声を上げたのだった。


「なぁ、入れてやれよ。俺たちも咲羅のファンなんだよ!!嬢ちゃんも福岡市民なんだろ?応援したくないのか?」


本当にダンジョンに潜るのか?と問いたくなる中年太りのオッサン4人組だった。

潜る前にその出た腹をどうにかせい!!って突っ込みたくなるし、1人は半分白髪だし、1人のヘアースタイルなんてアクエリアの親戚かと思うぐらいの落武者ヘアーである。


「ですが、規則ですし、オーナー様の意向も汲まないと・・・。」

「嬢ちゃんはマーサのやり方に賛成なのかい!?」

「全てが全て、そうじゃないですが・・・。ですけど、指名手配書が出されるぐらいですよ。」

「でもね嬢ちゃん。住民達の反応を見てみろ。特にあのゲートの前に張り出された指名手配書を見てなんて言ってる。なんであんなに盛り上がってるか分かるか?」


そう落武者ヘアーのオッサンが言って、初めて周りの反応に俺は意識が行った。確かに至る所で指名手配の張り紙が出されているらしい。それに気が付かなかったのは俺に単純に心の余裕が無かった為、視野が狭くなっていたのだ。


そして指名手配書の罪状を読んだ市民の反応だが・・・声を聞いてみると予想に反して暖かいものだった。


「なんでも咲羅が帰って来たらしいぞ」

「咲羅!?元ダンジョン攻略者ランキング1位の?」

「昨日1日で攻略したダンジョンの数、15だって。」

「とんでもないな。」

「中でも大きなのは炭鉱だ。あそこも攻略しちまった。」

「あのバケモンモンスターをぶっ飛ばしたのか!?とんでもないな。」

「だろ!?ヒーローだ。」

「まさにヒーローだな。マーサをぶっ飛ばせるのは咲羅しかいない。」

「そうだ。咲羅しかいない!!」


と・・・意外にも応援されているのであった。遠目から見ていた嬉しくなる。

だけど、『マーサをぶっ飛ばせ!!』と叫ぶ爺ちゃんは流石に熱くなりすぎな気がするが・・・。


「ですが規則ですし、私も会社のルールに従わなくてはなりませんし。」

「でも嬢ちゃんよぅ・・・・・・。」


4人組のおじさん達はなんと説得に入ってくれたのだった。

その会話を聞きながら、俺は遠く、盛り上がる市民の方に目が離せなくなっていま。


その盛り上がる市民達に対して単身、突っ込んで行くスーツ姿の男がいたからだ。きっとマーサ陣営の幹部だ。


「お前らやめろ!!これ以上は暴動と見て制圧する!!」


やはり幹部職員である。大声で注意すると市民達はすぐに解散して逃げていく。


そんな様子を見ながら、完全に風向きも俺たちに向いているようで不思議な気分になる。

受付の女性スタッフは苦笑いだが。


「昨日の咲羅の兄を名乗るネット配信が話題を呼んでな。マーサに対する疑心暗鬼が凄いんだ。」


と、後ろの冒険者パーティの1人が補足してくれた。その兄というのは俺の事だし、撮影したのはそこで何食わぬ顔で遠くを眺めているラウダだし、そんな事説明しても自慢でしかないので、


「そうなんですね。」


と相槌を打つ。


「小島さん!!ちょっと助けてください!!指名手配犯です!!」


受付の女性が、先程の市民に斬り込んでいったスーツ姿の男に大声で助けを求めた。


その声にオッサン達は苦笑い。幹部の人が出るとなるとさすがにお手上げ状態だ。でもこの厚意には純粋に嬉しくもある。

そのスーツ男が駆け寄ってくる。ここからは俺たちがどうにかしなければならないと、気持ちを引き締めるとその男は咲羅を凝視。また咲羅は目一杯人間の姿を維持しながらニッコリと笑顔で声を掛けた。


「久しぶりですね、小島さん。」


小島さんと呼ばれた男は、苦しい表情を見せる。どうやら2人は知り合いらしい。


「あ?咲羅か・・・?」

「そうです。仕事増えて良かったですね。」

「嫌味かこの野郎!!」

「パーティ組んでダンジョン潜ってた日々が懐かしいです。」

「お前が同じパーティでボス殺しまくるから俺もAランク・スコアラーだ。実力に見合わなくて苦労してるよ。」

「ドンマイです。」

「給料払いはいいから文句はない。あーあ、それにしても昨日お前、なんて事してくれてるんだよ!!」

「昨日?私が何かしたかしら?」


仲間全員「ぶぅふっ!!」と吐き出す。昨日、咲羅が福岡で起こした問題の数々は歴代1位を記録するだろう。それをまるで無かったかのようにトボケるこのスキル。

いや、使う機会があれば見習いたい。


「咲羅がダンジョン攻略するから手下のモンスターがいなくなってしまった。俺たちの仕事が増えて本当困る。誰が監視なんて仕事好んでやるかよ・・・」


なんて幹部がぼやいている。


「私を捕まえて、マーサに売ります?」

「辞めとく。俺にはお前は勝てない。それに・・・社長は俺も嫌いだ。労力に合わない事はせん。」

「給料に見合わないって事ですね。ならそのまま私達がやる事に目を瞑ってくれると助かります。」

「俺にも立場があるからなんとも言えないな。ノーコメントだ。そう言うのは黙ってやってくれ。ダンジョン攻略か?」

「今日は純粋にレベル上げの予定です。」

「へぇ。もう十分強いのに?」

「まだまだマーサには勝てないのでやれる事はやります。」

「辞めとけ。社長はレベルの概念を越えている。返り討ちに遭うぞ。」

「だからマーサのレベルを下げてマーサを弱体化させるんですよ。」

「そこまでして何故ウチの社長を倒すのにこだわるんだ?福岡に思い入れがあって助けたいって風には見えないし、離れていれば他人だろ?」

「それは・・・私の体を取り戻す為です。」

「身体・・・?」

「これを見てください。」


咲羅はパーカーのフードを外す。

緑色のスライムの肌を見せる。すると小島さんは目を丸くした。


「お前、スライムか?」

「はい。」

「気の毒な話だが、俺は保身的考えだからお前のマーサを倒すって考えには理解出来ないな。マーサはレベルドレイン、スキルドレインがある以上チート存在だぞ。まさに神だ。そんな化け物に喧嘩を売るほど馬鹿ではない。俺ならマーサに許しを乞いて身体を元に戻してもらうように計らってもらうけどな。」

「それなら一生奴隷よ。」

「考え方次第だろ?実力あって従順な奴にはアイツ優しいし。良いビジネスパートナーって割り切れる奴には丁度いい奴だよ。後、悪事に目を瞑れる奴ならな。」

「無理。蕁麻疹が出る。」

「そういう奴だったよな。わかった、ところで咲羅、マーサには本当に勝てるのか?」

「レベルが上がれば勝てる。」


しばらく咲羅の目を見つめていた小島さん。目を瞑り頭を抱える。そして大きく息を吐き出すように声を絞り出す。


「断言するお前がすげぇよ。俺が入れるよう工面してやるから・・・上手くやれよ。」

「小島さん、我関せずじゃ・・・」

「身体取り戻すんだろ?上手くやれよ。」


咲羅は笑った。


「ありがとう!!上手くやる。」

「本当か?その根拠のない自信が不安だよ。」


そう言って、小島さんって幹部は受付の女性スタッフに話を繋げてくれた。

そして今回特別に中に入れるようにしてくれたのだった。


俺は咲羅に尋ねた。


「小島さんと咲羅って?」

「福岡での同僚。同じ特攻部隊の仲間であの人はダンジョンの造りを正確に把握し、罠外しや索敵のスキルを持つ人。地の理を活かしてどう攻略を進めていくか考える司令塔の役割を持った人だった。戦闘自体は中の上ぐらいだけど、脳みその回転率でいうなら勝てる人はいないと思う。あの人が休みの日、何度ピンチに陥ったか分からないもの。」

「まるで軍師だな。」

「そうね。軍師かも。公平でいい人。私に対して良くしてくれた。最年少だけど実力はある私は特攻部隊のみんなから疎まれる存在でもあったけど、小島さんだけは良く気にかけてくれたな・・・。」

「感謝しないとだな。」

「そうだね。」


そう短いやり取りをすると、入場の手続きが終わったようだ。俺たちは中へ案内される事となった。

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