九十戦目
ライラさんを5分ジャストで撃破した。神降しのスキルが解除される。そこで初めて気付くその反動のヤバさに、俺のステータスに見合わない動きをドーピングした上で5分間ぶっ通しで動き続けたのだ。俺も筋肉痛もそうなのだが、運動しすぎで吐き気が酷いのだ。
「得武、即死の毒薬ではなく、麻痺毒を選んだんだな。」
「どっちでも変わらないだろ?無力化には成功した。俺たちの勝利だ。」
ラウダは何故殺さなかったのか追求してくる。俺のスタンスは救える命は救う。
「逃げられても後で後悔するなよ。」
そうラウダは呟いた。
逃げるだって!?この状況で逃げられるなんて考えられない。
ライラさんは麻痺で完全に動かない。それにライラさんさえ制圧してしまえば、こちらの戦力に勝る奴らはいない。相手側戦力にライラを救って逃げられるだけの人材はいない。だから全員捕虜も時間の問題だろうとそう思っていた。
ライラさんの隣に転移魔法陣を観測した。ラウダの予想は的中する。俺はその転移魔法陣に嫌な予感しかしない。
(得武、下がるぞ!!)
アルちゃんがそう言うと、大きく後ろに飛んで下がった。
魔法陣の中から1人の男が現れる。
「ウチの側近がやられるなんて意外だな。お前、名前は?」
マーサだ。その視線は俺に向けられている。
俺はアイテムボックスを開く・・・
<現在そのスキルはマーサによって制限が掛かっております。>
異世界人対策かっ!!
「俺は・・・。」
答えようとして、ポンポンと俺の肩を叩くラウダ。俺の前に歩み出るとマーサの前に立ち塞がる。
「こんばんは。俺はラウダ。君は勇者初めて何年目かな?」
とマーサに気さくに声をかける。
マーサは固まった。
「あ、貴方は・・・!!!?私はマーサです。勇者歴5年です。」
「俺は14年だ。俺の方が先輩だな。心配な事あったらなんでも質問しなよ。」
「えーっと・・・」
ラウダはマウントを取って来た。しかし実力で敵わないと察したマーサは言われるがままだった。
「君、福岡では有名人だよね。カメラ回させてよ。」
と俺のスマホでムービーを撮り始めるラウダ。
ラウダの目的は一体なんだろうか?明らかにマーサは怒っているが、それを我慢しているのがわかる。
「どうぞ。」
「君は、優秀な社員を育成して本当に素晴らしい。」
「ありがとうございます。」
「でも、能力の搾取はいけない。直ちに辞めた方が良い。」
「何の話ですか?」
「新子咲羅君に聞いたよ。契約を盾に能力を奪いとるスキルがあるって。」
「咲羅さんは行方不明。何を根拠にそんな話を・・・?」
「本社の屋上及び倉庫、調べさせてもらってもいいかな?沢山の石像が眠っていると思うんだけど。行方不明になった人達じゃないかな?」
「なんだと!?言い掛かりを付けるにしても何かしらの証拠を提示してもらわないと困りますね。」
「じゃあ、調べますよ。それと、市民の皆を強制的に労働、または戦闘に駆り出すのも良くないと思う。そのやり方を見直した方が良いと思う。」
「強制的にやってない!!」
「それは、君が決める事ではなく市民が決める事。町中に配下であるモンスターを配置して監視させてるみたいじゃないか。独裁者と言っても良いやり方だ。君は武力による恐怖によって世界征服でもする気か?自分の非を認めてやり方を変えるのなら今回俺はこれ以上関与しない。」
「だから身に覚えが無いと言っている。」
「白を切るなら俺も容赦はしない」
マーサは笑う。
「ああ。そうだよ。その通りだ。だが強い日本を維持するのに必要な事だ。今後より一層異世界人達の地球侵略行為が激しくなる。それに対抗する為に必要な事なんだよ。そう言うラウダ君はとんでもない犯罪者らしいじゃないですか?そのあたり、貴方にどうこう言われる筋合いは無いと思います。」
と本性を現すと同時に魔力の流れを感知した。
魔力の渦がラウダが持つ、俺のスマホに集中して小規模爆発を起こす。
あっ・・・俺のスマホが・・・
木っ端微塵に吹き飛んだのだった。
「スマホを破壊して動画を回されると困るって感じだな。今の証言はまるで本当だったって言ってるように思えるんだけど。」
ラウダの表情は一切変えずマーサを追い詰める。
「そうですよ。俺の信用に関わる問題でね。そんなデータが残ってると知ってたら安心して夜も眠れない。」
「マーサ、そうか。良かったな。今のは動画のリアルタイム配信だ。ネットで拡散されたぞ。」
「は?」
「これからは悪事を辞めて信用を一から築き上げて行くんだな。」
「ふ、ふざけるな!!お前の悪戯で・・・俺の計画が!!」
「岡山との戦争も、見方が変わるだろうな。モンスターに支配された県が岡山、それを救うのが福岡?ネットを漁ってたらそんな記事が載っていたが、独裁者に支配された県、福岡って汚名がついたぞ。」
マーサはプルプルと怒りに震えている。
今のラウダは本調子では無い。召喚された初期ならまだしも召喚されてだいぶ時間が経っている。そして転移魔法も2回使用した。あと少し魔力を使えば元の精霊界に強制転移が始まる。それはマーサも薄々とわかっているはず。だからマーサが本気でぶつかれば、今のラウダは強制転移直行コースなのに・・・それを察しているであろうマーサは何を警戒しているのか?
(得武。ラウダはね。マーサを自分の精霊界にお持ち帰りしようとしてるの。)
(エリシア、それって・・・)
(そう。ホームである精霊界なら100%ラウダの実力を発揮出来る。だから怒らせて、マーサに触れる機会を伺っている。一瞬でも触れる事が出来るのならお持ち帰りは成立するから。)
ラウダ・・・。お前はどこまで俺達の為に動いてくれるんだ・・・。闘いたくない癖に良くやるよ。
「どうだ?来ないのか?」
「今日は引く。」
「そうか。残念だ。」
「背後にいるのはラウダ先輩の知り合い達ですね。顔を覚えました。貴方が帰った後に徹底的に料理をしてあげましょう。」
「やってみろ。まだまだコイツは強くなる。」
「期待してます。」
マーサから凄い殺気が放たれた!!俺は思わず精霊魔術、結界魔法を展開し、咲羅を守って頂いているエリシアのお仲間の2人の前に壁を作る。
しかしこれはフェイクだった・・・攻撃と見せかけて転移魔法を発動したのだ。
マーサから放たれた光がライラさん、アラン少尉、イエラさん、軍人達、クラン=アビスの皆を包む。
ラウダがマーサを捕まえに行くが、身体はすり抜け・・・消えた。
戦闘終了だ。ひとまず、アルちゃんとエリシアの憑依を解除した。
「ラウダ、ありがとう。今マーサと戦ったら負けていた。」
「礼には及ばない。早く咲羅をちゃんとした場所で休ませてやれ。」
コクリと頷く。俺の周囲に仲間達が集まって来た。猿の王、カルンデに俺は頭を下げる。
「咲羅が世話になった。召喚に応じてくれてありがとうございます。」
なんか、会う度に猿の王カルンデは人間に近づいて行ってる気がする。山にお住まいのとてもワイルドな青年と言われても信じる人が出るだろう。
「得武よ、さすがに骨が折れた。なんか報酬を貰わないと気が済まないぞ。」
「高崎山にりんごを送っておきます。」
「ワシはバナナが食べたい。バナナじゃダメなのか?」
「輸入関係麻痺してますので。りんごでお願いします。300個でどうですか?」
「少ない。500だ。」
「分かりました。必ず届けます。」
「期待しておる。」
福岡のスーパー営業してるのは知ってるけどりんごあったっけ?そして俺の金・・・。
そう考えてるとボス猿カルンデは気を失った。
慌てた周りの猿たちがカルンデを担ぐ。
思った以上に俺たち戦力もポロポロだ。
「キイチ、ネネ、咲羅を守ってくれてありがとう。」
「今回の戦闘は楽しかった。大ボスも撃退したし俺は満足だ。」
「そうか。寧々、君は・・・。」
無表情で俺を見つめる寧々。どんな風に思っているのだろう?
「私は兄について行くだけよ。気にしないで。」
「そうか。ありがとう。」
「ところであの魔族2人は仲間になったの?」
と、寧々の眷属の吸血鬼達が運んでくるのはレイチェルとブルーノだった。
2人ともボロボロになって気を失っていた。
「ああ。深い事情は知らないけど、咲羅を守ってくれた感じだな。」
「私達が戦闘割り込まなければ死んでた。あのカナンって武器、危険よ。」
「助けてくれてありがとう。」
と寧々に頭を下げる。寧々は無表情に頷いた。
俺はユウタロウさん達に向き合う。
「ユウタロウさん、ナツメさん。咲羅を預かります。」
「咲羅のお兄さん、エリシアは元気なんか?」
突然聞かれてビックリした。
「元気です。」
「異世界にいた時は一緒に仲良くやっていたのに、この世界に来た途端居なくなってしまって、探してたんだ。仲良くやってるみたいで安心した。」
「そうですか。エリシアは霊体の存在なので認知が難しいと思います。特に、異世界とは違って魔力の濃度も地球の精霊の数も極端に少ないから専門のジョブじゃない限り見えないですよ。」
「なるほど。君はそこまで知っているのか。」
「とはいえ、エリシアやラウダからの情報ですけどね。エリシアも、俺の魔力が回復したら具現化させときます。ゆっくり話してください。」
「そうか。ありがとう。」
「では咲羅を・・・」
咲羅の容態は眠っているだけのようだった。深刻な傷などは一切見られず状態異常もない。これは俺の持っているオートポーション、オート万能薬が発動した結果であろうけど。
俺は咲羅を預かろうとすると・・・
「知り合ったついでだ。家まで送るよ。」
心遣いをしてくれた。
「そんな、悪いです。」
「エリシアは仲間だ。エリシアの仲間は私達の仲間。そうじゃろ?」
「お心遣いありがとうございます。」
「じゃあ、その家に行くべ。」
その前にやっておかないといけない事がある。
「ちょっと待ってください。やる事があります。」
「やる事って?」
「この辺り一帯、環境問題に発展しますので正常化します。アイテムボックスオープン!!風の精霊よ!!シルフィ!!」
俺が撒いた毒ガスは必ず環境問題に発展する。まだ結界によって周囲を囲われているが、その結界の効果時間も有限だ。
中和剤を召喚し、風魔法に乗せて空気を徐々に正常化していく。
さらに、壊れたコンクリートの道路の舗装。投げたコンテナの修理、錬金術でさっさと済ますと・・・
「さて、拠点に行きましょうか。ラウダ、みんなを転送出来るか?」
というとラウダは周囲を見渡して。
「この大人数をか?」
「ああ。」
「一体何人いるんだよ!!今の魔力的に無理だ。最後の最後に無茶振りするなって。今まで遠慮してた癖にここで一切遠慮無くなるのなんでだよ!!コンテナで一晩過ごして始発まで待ってから帰れよ。」
「聞いてみただけだから・・・そんなに怒るなって。」
そのやりとりを見てナツメさんは微笑みながら、
「得武さん。丁度近くに私らの拠点があるべさ。寄ってくか?」
「ナツメさん。それは本当ですか?」
「本当さぁ。」
「すみません、お言葉に甘えます。」
と同行する事になった。
身の上話はそこで聞かせてもらおう。




