八十九戦目
ラウダに転送してもらうと・・・また港町だった。船着場があり、荷物を運び入れるコンテナが沢山建ち並ぶ。
戦闘しやすいような広場ではあったが、そこの中央に咲羅がいた。
戦いの終盤戦だろうか、ライラさんの巨大な鎌と咲羅の攻撃が合わさったところだった。
一瞬、ライラさんの魔力が途絶えたように見えた。そのまま咲羅の攻撃がライラさんを捉えて・・・
突如、咲羅達を隠すかのように砂埃を巻き上げコンクリートの地面が砕け散った!!
その勝敗の行方は・・・
無傷のライラさん、そして地面を転がる咲羅・・・。
あの咲羅を打ち破った技はブラハム様と咲羅のスキルのはず。何故ライラさんは咲羅と同じスキルが使えるのだろうか・・・?
気になる疑問が出てくるが、俺はライラさんから目が離せなかった。
アイテムボックスのアイテムストレージに手を掛け、いつでもアイテムによる奇襲の準備は万全である。
ライラさんは何かを警戒して追撃しない。黙って咲羅を見つめていた。その警戒する相手とは・・・?
男女の2人が咲羅を守ろうとしてライラさんに立ち塞がる。
「おいおい。なんで咲羅とユウタロウ達がつるんでるんだよ。新しいな。」
とラウダは笑う。ラウダの知り合い・・・?と思ったらエリシアも知り合いらしく。
「本当だ!!2年ぶりよね。」
とラウダと目を見合わせて喜びに頬を緩ませた。
「そういえばエリシア、異世界からやってくる時アイツらと一緒にワープしたんじゃなかったのか?」
「したけど・・・こっちの世界に戻ってきた瞬間に私の事見えなくなってるのよ。ユウタロウもナツメもとんでもない薄情ものだわ。」
「そういう事か。アイツら元々精霊の加護なんて付いてなかったしな。俺のパーティだったからエリシアを認知出来てたんだろ。この世界に転移して、パーティから外れて精霊が見えなくなった。これは自然の流れだよな。」
「でもショックだったのよ。とても。いきなり無視される身にもなって欲しいわ。」
ラウダとエリシア、そんな会話をして笑いあっている。
どうやら咲羅を守るあの2人はナツメさんとユウタロウさんって名前らしい。あの2人もエリシア同様にとても強い。もしかしたら野崎先生より強いのではないのだろうか?
でもライラさんの攻撃力が半端なく高い。2人相手でも押されている。
あの2人も殺されるのは時間の問題か?その思ったのは俺だけ出なくラウダもだった。
「得武、アイツ程度なら1人で行けるな。」
無茶苦茶な要求にも思える発言だが、不思議と自信はある。
「新装備がある。ラウダの作ってくれた魔導具もある。大丈夫だ。」
「頑張れ。死ぬなよ。」
俺はコクリとうなづき、今この戦況から最善の行動を考えた。
それぞれ、大規模な戦闘が繰り広げられている。
咲羅勢力はブルーノ、レイチェル。そしてキイチ、ネネ、カルンデをはじめとする猿軍団。対するはライラ、アラン少尉、イエラさん。そして軍人、クラン=アビスの魔族3人。
イエラさん付近のメンバーはほぼ壊滅と言っていい。
だが、群を抜いてライラさんが強すぎるのだ。攻撃力の化身キイチと寧々すらライラさんに手を出すのを控えている。
矛先が向いたら対処出来ないのは理解しているからだ。
だが、それ以外の戦力を崩してくれているのは本当に心強い限りである。
やはり、ライラさんをどうにかしなければ明日はない。
「エリシア、アルちゃん、準備はいいか?」
「オッケー。」「当然だ。」と2人の声が逞しく響く。憑依を済ませ、俺は駆け出す。
「アイテムボックスフルオープン!!」
アイテムには命が宿っている。エリシアのスキルによりそれがなされて俺の発動した罠達は皆、敵味方の区別がついている。
隕石は落ち、ライラさんはそれを一刀両断にする。
周囲には麻痺、睡眠、混乱、恐怖、錯乱、意識低下、筋力激減。体力低下、窒息の毒ガスが充満する。
そのガスが漏れないように結界で周囲を囲う。ライラさんはあまりの毒に咳き込んでいる。
「何が起こっている!?」
斧使いの男の人が呟いた。エリシアのスキル「豊穣の女神」は錬金したアイテムに命を吹き込む。そのスキルで作られたこの罠・・・毒ガスは敵を選ぶのだ。それが2人が無事な理由である。
「ユウタロウさん。妹の咲羅がお世話になりました。ここは俺に任せて下さい。」
と言って、ライラさんとユウタロウさんの間に入った。
「お前は誰や?」
そう尋ねるユウタロウさんの顔は様々な状態異常に侵されて顔色がゾンビのようだった。まさか俺のアイテム・・・毒ガスの被害が出たのか?と思ったけど、俺のアイテムの影響なら顔色が悪いどころの騒ぎじゃない。
これはライラさんの斥候のスキルによるものだと理解する。
「俺は咲羅の兄です。」
応えながら・・・アイテムボックス内の万能薬を使用する。すると、焦点の合ってない目がぱっちり合う。
が、俺はすぐにライラさんに視線を向ける。俺の毒ガストラップをなんと・・・自身の持つ魔力のバリアだけで克服したからだ。
今度の質問は背後から声がした。
「なんでこんなにエリシアの香りがするべさ?」
香りって・・・独特な察知の仕方をする人だなって思って振り返り、
「それは、エリシアが憑依しているからですよ。」
と答えながら、アイテムストレージ、罠ボックスから『釣り針天井』を使用する。
背面にいるライラさんの頭上から地面から、前後左右から毒針だらけのブロック片が出現。まるでライラさんが磁石になったかのようにそれらがライラさんに吸い寄せられていく。
「えっ!?確かにエリシアらしい特徴が見られるが。」
ユウタロウさん、ナツメさん。まるで生きているかのように敵を襲うこの今現象が、エリシアの「豊穣の女神」スキルを裏付ける。だから憑依してるこの事実に2人は驚く。
だがもう話をしている余裕は無いようだ。ライラさんは巨大な鎌で俺の愛のこもった「釣り針天井の罠」のプレゼントを、これでもかと言わんばかりに斬り飛ばし、体制を整えて俺を睨んでいる。
「不思議な技ね。新子咲羅さんのお兄さん。」
その声に覇気を感じる。プレゼントは気に入らなかったらしい、とてもイライラしていらっしゃるようだ。
この怒りっぷりを見ると突然襲われても文句は言えないし、このステータス差なら俺はサンドバッグ確定だ。
サンドバッグは嫌だな。ならステータスだけでも底上げしよう・・・。そう思って俺は薬を5錠飲み込んだ。
アルちゃんのスキル、神降しのスキルを100%発揮する為のドーピングアイテムと言っていい。ステータス上昇により、全ての動きに対応出来るようにする。
「咲羅がお世話になりました。そのお礼の品を受け取ってくれなくてとても残念です。」
「とても殺意のこもったプレゼントね。」
「ええ。俺は温厚な方ですが、これでも怒ってます。大切な妹が目の前でボコボコにされたら兄としてやり返すのが当然ではないでしょうか?それも、2度目ですよ!!容赦なく行かせて貰いますからね。」
「やってみな!!」
ライラさんは衝撃波を飛ばしてくる。
それを、「水責め」の罠を選択。
海が突然ゲル化し、ライラさんを殴り付ける。その質量といったら数十トンにも及ぶが・・・ライラさんは回避する。それを追いかけるゲル化海水。まるで生き物のようにライラさんを執拗に追いかける。
その荒ぶる海の化身の動きに、ユウタロウさんとナツメさんは動きが読めず戦闘に入れずにいた。
そんな中・・・ユウタロウさん、ナツメさんの目の前にラウダが現れる。
「お前ら久しぶりだな。」
「ラウダ!?」と・・・2人の声が重なった。驚きすぎて固まってるように見える。
「どうした?死人が動き出したかのような驚き方じゃねぇか。」
「だってそりゃ・・・。」
と、ユウタロウさんが言いかけて、ナツメさんが割って入る!!
「心配したべさ!!今まで顔見せずに何してたべさ!!」
と涙ながらに訴えかける。それにラウダは笑う。
「事情があるんだよ。」
長話をしようにも、ライラさんは海の生物を撃破した所だった。
次は私の番と言わんばかりに動き出そうとしている。皆、動きを止めた。
「来るべ。」
「来るやろうな。」
2人は武器を構えた。そこへラウダは肩を叩く。
「コイツは、俺の最近出来た友達にして弟子なんだ。その弟子が、環境問題とかいろんなしがらみを捨てて初めて本気を出すんだよ。この一戦、譲ってくれないか?」
「環境問題」ってフレーズでユウタロウさんがずっこけた。
「いやいや、譲るのはいいけど勝てんのか?というかそれ以上に気になる、環境問題って何?」
「得武は環境問題さえ気にしなければ勝てる。馬鹿にするなよ。得武は環境問題について本気で悩んでたんだからな。」
「ラウダ・・・。譲るも何も、俺たちの実力じゃ無理やねん。頼む。環境問題を気にせずに戦ってくれ。」
「という事だ。得武、頼む。」
皆の期待を背負って俺は返事をする。
「わかった。でもラウダ、環境に優しいって大事だからな!!」
俺はライラさんに向けて剣を構え、そして駆け出した!!それは二刀流。そしてこの剣は破壊不能のエンチャントを施している。
背後で「なんでやねん!!」って声が虚しく響いていた。
「神降し!!」
「アーティファクトレベル5!!」
あんな大きな鎌を初めて見た。まるで死神が目の前に立ち塞がっているような威圧感を感じる。
剣を合わせたくないな・・・。
そう思いながらアルちゃんは俺の身体を動かした。
(得武、ビビってたら負けるぜ。)
アルちゃんはこんな時でも生意気だ。
(びびってねぇよ。魔法オンリーで終わらせられないのかって計算してたんだよ。)
(無理だな。だってアイツは速い。)
そんな頭の中で会話をする。
「スプリングガン!!」
スキルを使ったであろう。ライラさんが弾丸のように飛んで来た。瞬間に何百もの剣線が飛んで来る。動きがもう人じゃない!!
それを様々なオーラを身に纏い2本の剣で全て斬り伏せるアルちゃん。対応出来るのも「神降し」のスキルを100%存分に発揮しているからである。
まるで、俺はゾアルになった気分だ。
神降しとは・・・剣王以上のクラスが体得するスキルだと前にアルちゃんは言っていた。
歴代最強の剣の神と呼ばれるその武神の魂をまるで宿したかのような剣技を放つ。それは一撃一撃が無駄を削ぎ落とした究極の型であり最強の剣技である。
ステータスが追いついた今、武神の剣技を完コピしていると言っても過言ではない。
その剣技が、レベルが高いだけの斥候に負ける訳が無いはずだが・・・。
斬り突き払い、下段打ち、上段打ち、フェイク、何百回剣を合わせただろうか、その最中、違和感に襲われる。
敵の巨大な鎌が強く光るのだ。危険を感じてすぐ後ろに下がると魔力が弾けた!!その爆発に俺は吹き飛ばされる。
だが、オートポーションによって大事には至らない。
体制を整えて敵を睨む。そのままアルちゃんは俺の身体を使って訊ねる。
「なんだよお前は・・・咲羅より剣術が上手いじゃねぇか。お前のはジョブは剣聖か?」
「普通の斥候よ。」
何が普通の斥候だ。エリシアの鑑定ではレベル750と出ているしステータスがオーバーリミットしている。ステータスって9999が人間の限界ステータスじゃないのかよって突っ込みたくなる。
「エーテルブラスト!!」
ブーメランが飛んで来る。それを躱すと軌道が変わり追跡してくる。それを斬り伏せると大爆発が巻き起こる。
その砂埃の中からライラさんは斬撃を滑り込ませて来るが、
「ダブルエッジ!!」
凡庸アクションスキルで十文字斬り発動。ライラさんを上空へ弾き飛ばす。
そしてボウガンを乱れ撃ち。追尾性能を備えた10本の矢はライラさんに風穴を空けんとばかりに最速で迫り・・・
「シャドウ」
すり抜けた。魔法だ・・・瞬間ライラさんは夜の闇に溶けた。不意に俺の背後の影からライラさんは現れた。両手でクロスして斬撃を防ぐ。
俺たちはノックバックした。
「なんだあの戦いは・・・。お兄さん、レベル100行ってないよな。なんで異次元な動きが出来るんだよ。」
背後から声がする。それに答えるのはラウダだ。
「2人の精霊を憑依させている。その2人のステータスと得武本人のステータスが合わさっていて、なおかつ薬でドーピングしてるから、きっと奴のステータスは全てリミットだぜ。」
つまり9999って事。
「敵は・・・何かを警戒して慎重になってるべさ。」
「それは、一撃でも掠ったら負ける事を悟ってるからだろ?」
「掠っただけで?」
「それだけの毒が剣に纏わりついている。」
ラウダめ、種明かしするなよ。
正確には俺の所持しているミニバックにその薬品が入ってる。オートアイテムの効果につき、ダメージが1でも入れば即発動だ。
強力な麻痺毒で動かなくする。
「反則だぁ!!」
「反則はこれだけじゃない。ゾンビポーションだ。」
「ゾンビポーション?」
ラウダめ、勝手に名前を付けおって。そう思ったら俺は被弾する。
剣が喉仏を抉る。普通ならそれは即死を意味するのだが、ミニバックからスキルを感知する。
「見てみろ。何度即死のダメージを受けても一瞬で全回復してしまうオートポーションだ。」
「反則だべ。」
「だろ?反則だ。」
エリシアには戦闘開幕から今に至るまで、精霊魔法の構築に専念してもらっている。
およそ100秒の時間で手掛けた魔法がこちら
「エンチャント=セイレーン、エンチャント=ノーム。」
防具には光の精霊の付与魔法、双剣には土の精霊の魔法付与。
敵の詰みの布陣は整った。
エンチャント=セイレーン。それはただの防御魔障壁ではない。
ダメージを一定確率で全反射するスキルである。その反射確率は、この戦闘フィールドに集まった光属性の精霊の数に比例する。現在5体見に来ている為10%の加護が付く。
それでエンチャント=ノームとは。土属性がどう剣技をサポートしてくれるのかという話なのだが。
土属性とは純粋に鉱物の硬さに作用する。重力も土属性だ。
ようは切断強化するし、重たい攻撃で打ち負ける事も無くなるし、なんなら無重力で宙に浮遊する事も出来る。そんなエンチャントが俺に施されている。
精霊魔術の真髄と言える。
何度か斬撃を合わせると。毎回のように武器が壊れるんじゃないかと思うほどの衝突音が響き、吹き飛ばす為、ライラの表情が苦しくなる。
「ライラ!!お前の剣技はその程度か!!」
挑発するアルちゃん。しかしこれには理由がある。
神降しスキルのMAX発動時間は5分。クール時間に30分要するのだ。
つまり、時間の折り返し地点になった今、短期決戦で勝負を決めなくては、剣技では一切勝てなくなるのだ。つまりエンチャント=セイレーンのダメージ反射頼みの戦闘になる為、攻撃されなければ勝てなくなる。場合によっては逃げられる危険性がある。殴られてダメージ反射で勝つなんてドM戦法絶対に嫌だぞ。
ライラさんは攻めの姿勢は崩さない・・・突如、謎スキル名が夜の港に響く。
「ヨグソートス」
何のスキルだろう。離れた距離にいるライラさんが剣を宙で空振りすると、俺の身体がまるで真っ二つに切断されたような激痛を訴え、服が血塗れになる。
オートポーションが無ければ即死だっただろう。
(得武、あのスキルやばい。空間転移攻撃よ。)
エリシアはそう解析する。
(何それ?)
(スキルの効果時間、離れた距離から回避不能の斬撃の嵐に見舞われるって事。私達に掛けられた空間転移スキルを解除しなければ、良いサンドバッグよ。)
そう解説するエリシア。
でもそれってエンチャント=セイレーンのダメージ反射の良い的なんじゃ・・・そう思った瞬間だった。
6回両断された時だった。ダメージ反射が発動・・・
「罠外し」
反射が無効化された。
それにはアルちゃんがキレる。
「そんな離れた距離から、ちまちま攻撃当ててくるんじゃねぇ!!!!」
この切れっぷりはゾアルを思い出す。コンテナを片手で持ち上げると、ライラさんに投げつける!!
「!!!!」
回避されるのはわかっていた。俺たちは接近。
「ダブルエッジ!!」
洗練された十文字斬りは発動の瞬間が、分からない。
受けたライラさんはなんとか防御が間に合ったという話。
「野蛮人!!!」
立て続けに電柱を引き抜き、薙ぎ払い!!ライラさんはジャンプした。
(今ね)
「ノーム!!」
とエリシアはそう一声。精霊の名前を呼ぶと土の精霊は重力を操る魔法を発動した。グラビティゼロという魔法であり、ライラさんは無重力になった。空間で身動きが取れずに漂っている。
斥候の命でもある機動力を奪った。後は・・・
そこに渾身のダッシュ斬りを叩き付けるだけ!!剣神の宿るその一撃はどこまでも見るものを魅了する。
真っ直ぐに駆け抜けた。身体のバネを利用し、上段から振り下ろす鋭利な一撃。あり得ないほどの質量の斬撃をここに叩き出していた。
大きな鎌で防がれてはいるが、その衝撃波が肩を大きく抉った。
リミットを遥かに超えた防御力を軽々と貫いたのだ。
ミニバックからスキルを感知。その一撃に強力な麻痺の効果が乗る。
ライラさんは地面に倒れて動かなくなった。




