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八十八戦目

スキル<気配察知>によればその扉の向こうにみんなが囚われているが、簡単には中に潜入出来ない。

部屋の前に5人の軍人が集まって話合っているからだ。


囚われたみんなに対してどう口を割らせるかだ。


割らせるも何も俺の居場所なんて目の前にいる訳なんだし、拠点にしたって囚われたみんなは本当に知らない。


軍人達は困っている。生徒たちみんなは飴と鞭の行使、情に訴えかける戦法では口を割らない。机を叩く等の行為が単なる脅迫で終わっている事実である。

だから本格的に爪を剥ぐような拷問をかけようだなんて物騒な話をしている。だがそんな事、本気でやりたがる軍人はいない。


「その役目、俺にやらせて貰えないだろうか。」


俺は名乗りを上げ、姿を現した。軍人5人は険しい顔で俺を見る。


「お前は誰だよ。」

「拷問専門で呼ばれたんだよ。そういう仕事をしている。」


という設定だ。


「なるほど。アラン少尉も悪い人だな。そんな事ならよろしく頼む。」


と軍人達から肩を叩かれた。


「任せてくれ。」


そう答えて、俺は部屋の中に入る・・・・・・生徒たちから恐怖で怯えた視線が浴びせられた。内側から鍵をかける。


エリシアの鑑定スキルで一人一人の状態を念入りにチェックするが全員異常無しだった。

手錠を付けられ、部屋に拘束されているのが可哀想。


「誰?私たちを拷問するの!?」


好戦的なイルカさんだ。

俺は深く被った軍帽を取る。


「この場合、好戦的な人から拷問にかけられるみたいだよ。イルカさんは戦闘嫌いなのに何やってるのか・・・。」


皆の絶望的な顔が驚きに変わる。


「新子君!?」


その反応と同時に俺はスキル、範囲錬成術を発動した。

手錠が一瞬でサラサラと砂鉄に変わる。


するとヤンキー達から「兄貴すげぇ!!」とか「やっぱり頼れるのは兄貴です!!」とか「さすがに兵隊達には勝てませんでした!!」なんて泣きながら擦り付いてくる。

そっちの方が年上なんだし、ちょっと暑苦しい・・・辞めてくれ。

ヤンキーというだけあって目つきが悪いのはもちろんの事、髪の色も特徴的な人達。赤髪はオールバック。青髪はサングラスにロン毛。緑髪はショートモヒカン。黄髪はリーゼント。紫髪は2ブロック剃り込み有り、頬に傷。ピンク髪は後ろに結んでる。何故ヤンキー達で一括りにされているのか?


「えっと、皆さん咲羅からヤンキー達とか、野郎共とか言われてますけど、名前はなんて言うのです?」


青髪ロン毛は答える。


「姉さんから聞かされていないのですか?」

「姉さん?ああ、咲羅の事?いや聞かされてないけど・・・。」

「そうなんですね!!前に模擬戦した時に言われたんです。『私に一太刀浴びせた奴から名前を呼んでやる』って。」

「そんなシーンあったかな?」


思い返していると今度は黄髪が答える。


「兄貴と出会う前の話です。俺たちの事は髪の色で呼んでくだせぇ。」


いいのか?それで・・・。本人達がそういうのなら良いだろう。


「わかった。話は変わるけど皆に聞きたい。この港から脱出するのとこの港を制圧するのどっちがいい?」


ヤンキー達もテマリさんイルカさん。後、魔術師部隊10人・・・皆、答えられないでいた。だからとりあえずの妥協案。


「とりあえず、この船から出ようか。」


皆は同意した。

と言っても、来た道をそのまま帰る訳じゃない。

部屋の奥まで進むと俺は壁に手を当てる。錬金術発動。壁の色は黒く染まり、壁が崩れた。大穴どころではなく、壁が一面消失した。


「このやり方で壁を壊して言って出口へと向かうよ。絶対に人が居ない部屋を繋げて行くから、比較的安全に出口まで行けるよ。」


皆、開いた口が塞がらなかった。


「まるで手品みたい・・・。」


そう驚くテマリさん。一番襲われたら抵抗力が無いのはこのテマリさん。ふと、そのテマリさん用に作製した武器の事を思い出す。


「そうだ。いつ襲われてもいいように皆に武器を配らなきゃ・・・テマリさん。君はこのボウガンを持っててくれ。」


歩きながら。錬金術で壁を消し去りながら、俺はテマリさんにアイテムボックスからボウガンを手渡す。

俺の使用していたボウガンとは一味違う。モンスターの魔石も使用し、エリシアのスキルによる自動追尾性能はもちろんの事、ただ撃つだけで魔力を帯びる。戦闘初心者でも簡単にモンスターを倒せる仕様だ。


「わ、私臆病だから戦えません!!」


そう言うと思ってのこの性能だ。どう伝えようか・・・


「戦わなくていい。作業なんだ。矢をあてがってここを強く握るだけ。自動誘導だから勝手に敵に向かって飛んでいく。」

「へ?」

「作業。敵と向き合わなくていい。後ろ向いててもいいんだ。いや、魔力の矢が勝手に作製されるからテマリさんは適当に引き金を引くだけでいい。出来るよね。」

「あ、うん。そんな嘘みたいな話、信じると思うの?」

「試してみたらわかる。」

「後ろ向いてだよね。でもそれ、本当に敵に当たるの?」

「当たる。」

「え!?どんな原理!?」

「疑うなって。180度回転して敵に向かって飛んで行くから!!本当に当たるから!!」

「本当かな・・・。あ、ありがとう?」


なんでそこ疑問なんだよ。でも嬉しそうなテマリさんだった。


「えっ!!私も欲しい。」


そういうのはイルカさんだった。残念ながらイルカさんにはハンドガンを用意している。


「イルカさんはもっと・・・ハンドガンとかの方が良い気がする。だって・・・」


性格的に好戦的だから・・・なんて言えない。


「だって?」

「モノマネ師でしょ?」

「だから、私は敵と向かい合って戦いたくないんだって。」

「大丈夫。自動追尾性能付いてるから。それも適当に引き金引くだけでいいよ。後は弾が勝手に飛んでいくから。」

「そうなの?やった!!ありがとう!!」


これをすると露骨に羨ましそうに見るヤンキー達と魔術師部隊。


「皆にもあるから!!」


魔術師部隊の女生徒達には魔力が向上するスキル、MP消費を抑えるスキルが組み込まれた銀のブレスレットをプレゼントした。


ヤンキー達には進化素材を使って武器防具の進化を施す。

これにより、ステータスの大幅グレードアップはもちろんの事、オートバリアは健在。モンスターのスキルを一部使用出来るようにした。

これはアラン少尉の武器、<カナン>を真似して作っている。

だから、ヤンキー達も咲羅に一太刀入れる日がそう遠くない未来にやってくるかもしれない。


「2人にはよく錬金術を使うからこれを作ってみた。」


ちなみにイルカさんとテマリさんには手袋を渡す。


何故手袋なのかといえば、錬金術を使用する上で手をよく使うからだ。手袋の構造上、手先の器用さがアップするステータス補助の役割もあり、第二に、調合する時俺は数々の劇薬に触れて来た。その度にオートポーション、オート万能薬が発動したが、テマリさんとイルカさんにはそれがない。

触れた瞬間即死が待っている事もあるのだ。

それを考慮して万が一劇薬に触れても大丈夫なように状態異常全カットという材質である。


更に言えばこれは錬金術、及び調合の補佐をしてくれる効果がある。それに錬金術時、消費MPの大部分を精霊が受け持つ仕様になっている。


「そうなの。調合していると手が荒れて仕方なかったのよ。」


俺の意図を理解してくれたようで良かった。俺は2人に手書きで走り書きしたメモを渡す。


「取り扱い説明書だ。」

「説明書なんてあるの?」

「よく読んで錬金術に役立ててくれ。」


2人は目を通すと・・・「うわっチート機能・・・」と驚いていたが喜んでいた。


「ありがとう新子さん。でもこの取り扱い説明書には洗濯方法とか、アイロンの掛け方とか書かれてないよ。繊細そうだから手洗いオンリーかな?」


とテマリさんは呟いた。心配するところは人それぞれらしい・・・。


「乱暴に扱っても自動修復するから・・・ご自由に。」

「嘘!!凄い!!主婦の味方!!」

「いや、テマリさんは主婦じゃないでしょう!!」


思わずツッコんでしまった。キョトンとしているテマリさん。


俺の案はこれだけじゃないのだ、時間がないからサクサク行こう。手袋を付けるイルカさんに俺は声をかけた。


「イルカさん、付けたね。」

「手袋つけたけど・・・なんか嫌な予感ぎする。」

「モノマネ師でこれを覚えてくれ。今からやるよ。」

「え?何!?」


俺は移動しながらアクションを起こした。

ヤンキー達の剣や槍、そして魔導師部隊10人の杖が一瞬で粉々に吹き飛んだ!!


「俺の剣が!!」「この杖ないと私達魔法使えません!!」

なんて騒ぐ。勿論そのままにするつもりはない。


「錬金術、補修!!」


一瞬で元通りにする。ヤンキー達は驚き、ひっくり返る。


「新子兄、それを歩きながらするのが、まさに神。」


神だなんてオーバーな。

人には得意不得意があって俺はこれが得意なだけなのに・・・


「イルカさん、コピーした?」

「はい。やります!!」


そう決意してイルカさんは魔力を通す。手袋が青白く光り、魔力をだいぶ肩代わりしているのが分かる。その瞬間だった・・・

粉々に砕け散る装備達。


俺がやった事を丸々全て真似してしまった。さすがはイルカさん、モノマネ師の実力は本当に凄い!!


精霊が肩代わりしたとはいえ、それでも根本的に魔力消費は激しいみたいで、魔力がごっそり無くなってしんどそう。


「なんか、分解した際に、<錬金術鑑定>ってのを取得しちゃったんだけど・・・。頭になんの成分で出来ているのか理解しちゃったんだけど・・・。」


凄い。こんな方法でスキルを覚える事もあるのか!!


「次敵に襲われたらイルカさんはこれをやって欲しい。出来るね。」

「わかったけど・・・これをやる場面が無いように生きて行きます。」


なんか宣言されてしまった。


船内でやるべき準備は完了だ。

外に出たら軍隊の目に止まってしまう。そうなったら戦闘開始だ。

そして、次に開ける壁こそ外に繋がる壁である。

俺は壁に手を当てて、


「外に出たら真っ先に俺たちの船に向かって走ろう。」


というとテマリさんの声が震えた。


「軍人さん達、いるよね。」

「ああ、いる。俺がなるべく引きつけるけど、みんなも戦ってほしい。」


というと、ヤンキー達が名乗りを上げる。

赤髪が斧を持ちながら腕を捲り上げ、


「俺たちに任せてくれ。強化された武器があればまず負けない。」


黄髪は槍のお尻を地面に突き立て、


「あの軍人共、今度はボコボコにしてやる!!」


とやる気満々である。

武器、防具の攻撃力、守備力はレベル1にして2000を超える。

ヤンキー達のステータスの10倍であるので、この装備があれば、レベルが50離れていようともなんとかなりそうな気がする。


「頼りにしてるよ。でも結構な強化を施してるから程々にね。じゃあ・・・行きます。」


と呼びかけ。最後の壁をぶち抜いた。

瞬間、海風を感じた。高所から見下ろす風景である。船の高層部にいた為、陸地まで5メートルはある。


アイテムボックスから緩衝材の意味合いで巨大スライムの罠を発動した。

平べったい、ビニールプールみたいな形状のスライムがドーーンと地面に落下する。衝撃でブルンブルン震えている。

丈夫そうで安心だ。


「え!?突然モンスターが発生したけど!?」


イルカさんが叫ぶ。テマリさんが半泣き状態だが。

まず俺が見本を見せる。


「モンスターじゃなくて俺が出したクッションだ。飛び込もう!!」


俺はスライムに向かって飛び込んだ。

まるで巨大な低反発枕だ。俺はゆっくりと地面に転がった。


それを見ていたヤンキー達が続く。

次に魔導師部隊が続き・・・


「なんでみんな飛び込めるの!?」


最後にイルカさんとテマリさんが残った。

そこへ・・・


「いたぞ!!脱走だ!!」


と船の奥から軍人が迫る。

どうやら鍵を壊されたようだ。異変に気が付いて迫ってくる。


「イルカさん!!テマリさん!!早く飛んで!!」


言っても一向に飛ぼうとしない2人。

テマリさんが腰を抜かしているからイルカさんが付き添っているのだ。


「イルカちゃん、私はいいから先に飛んで!!」

「馬鹿言わないの。私が一緒じゃなきゃ絶対飛ばないじゃない。」

「でも!!軍人に捕まっちゃう!!」

「そう思ってるなら飛んでよ。」

「いや、だって無理ぃ!!」


半泣きになっている。


「イルカさん、テマリさんを投げてくれ。俺が受け止める!!」

「新子くん、信じるわよ!!」


イルカさんは心を鬼にしてテマリさんを突き落とす。そのタイミングで「来いアルちゃん!!」と憑依を呼びかける。


「いやぁぁ!!!!」


俺はステータスがアップしたその身体能力で空中へジャンプ、そのまま空中にてテマリさんをキャッチする。


「新子君!?」


安心は出来ない。イルカさんのジャンプが遅れて、軍人3人に取り押さえられてしまった。

俺は持っていたナイフを投げる。そのナイフ、帯電につき・・・


兵隊達に軽々と防がれてしまうが問題はない。

落雷のような小規模爆発が起こり手が離れる。精霊魔術・・・これは魔法だ。イルカさんにはターゲットには指定してない為ダメージはなく、万が一があってもあらかじめ渡して置いたアクセサリーがある。属性ダメージカットの付加もかかっている為イルカさんが無事なのはわかる。


「イルカさん、飛んで!!」


こくりとうなづくと不安定な体制のままスライムにダイブ。


イルカさんの足が船から離れた事を確認すると、俺は錬金術を発動した。

一瞬にして粉々に崩れ落ちる軍船・・・。一度修理した船であるため、構造は理解している。だから分解に時間がかからない。よって今回のような出来事を起こす事が出来た。


軍人達の悲鳴を聞いたのだった。

陸地にいた軍人達も、この騒動で俺たちの相手どころではない様子。襲ってくる気配はなかった。


俺は着地し、テマリさんを下ろす。しがみついて離れないテマリさんに、


「もう大丈夫だよ」


と耳元で声をかけると、ハッと目を開けて手が離れる。その瞬間に俺はまたジャンプした。

不安定な体制でのジャンプになった為、イルカさんも頭から落っこちている。スライムクッションとほいえ危なかったのだ。

イルカさんも空中でキャッチ。お姫様抱っこのような体制になった。


「あ・・・。」

「怪我はない?」

「うん、ないけど・・・。」


赤面するイルカさん。


「ないけど?」

「・・・顔が近い。」

「それは仕方ないよ。」


着地。自然な流れでイルカさんを下ろす。


「皆にお願いがある。今晩の間、船を出して、沖で一晩過ごして置いて欲しい。」


そう言って、俺たちの船へ誘導する。


「新子君、残念だけど、私達の船、ライラさんに壊されちゃった。出航出来る様子じゃないわ。」

「すぐに直すよ。」


皆の頭の上にははてなマークが浮かんでいる。


「一体、何時間掛けるの?」

「5分も掛からないだろ。」

「はい?」


船は確かに船という機能を失っていた。

HPはゼロ。迎撃機能は機能せず、エンジンすら掛からない状態。でも、


「リペア!!」


と錬金術スキルを行使すればすぐ元通りになる。ついでに進化素材を使用しグレードアップさせる。


「咲羅さんも戦闘能力おかしいけど、新子君も本当に規格外よね。」


イルカさんに呆れられる。

ところで、俺の服の裾を掴んで離さないテマリさんなのだが一体なんなのだろうか?

いつもはイルカさんの後ろにいるイメージだったのだが。


「新子君も一緒に船に来てくれる?」


とテマリさんは心配そうに訊ねてきた。俺は首を横に振る。


「ライラさんに咲羅の居場所がバレた。万が一があるし助けに行く。」

「そうなの・・・。凄く不安なの。だから一緒に居てくれたら安心だなって思ったんだけど。無理だよね。」

「何かあったらすぐ駆けつけるし、何かあっても皆がいるよ。装備強化したし絶対に大丈夫。」


そういうとイルカさんからも。


「新子君が頼りになるって話よ。私からも一晩居て欲しいけど・・・。」

「すぐ終わらせて合流しよう。」

「頑張って来てね。」


俺の裾を最後まで離さないテマリさんがいた。

でもよく説得し、船に乗せ、出航を見送る。


「得武、次は咲羅の隣にテレポートだ。戦闘準備はいいか?」


気配を絶っていたラウダが声を掛けてきた。


「ああ。やるぞ。」


その瞬間、宙に浮く感覚を覚えた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なんか新子君って、あんなキャラだっけ?」


私テマリは未だにドキドキしていた。そんなイルカちゃんの声に


「うん、なんかカッコよかった。ドキドキしてる。」


多分私、まだ夢見心地なんだろうな・・・


「だよね。男性に抱きしめられた事すらないのに空中ハグって・・・新しすぎる。」

「イルカちゃんもドキドキした?」

「うん。本当、私達をまるで無重力かのように軽々と持ってたわよね。もやし男かと思ったらとんでもないダークホースよ。」

「イルカちゃん、その例えってどうなの。」


ふふっと笑う私。

人ってあんなに変わるんだ。パッとした印象のないただの頭の良いだけの学生だったのに、こんなに異性として意識させられるなんて思いもしなかった。


そう思いながら窓の外を見る。

窓の光がポツポツと街を照らす。

この町のどこかでまだ新子君達は戦っている。

私達に出来る事は一体何があるのだろうか。また、会えるよね。


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