八十七戦目
「アラン少尉!!新子達の船、制圧しました!!」
そう部下に言われたのだが、俺は考え事の最中であり、右から左へとスルーしかけていた。
何を考えていたのかといえば・・・俺はミスター野崎に言われた事を思い出していた。
大分での出来事だ。
「あなたはなんの為に戦っているのですか!!軍隊は民の為にあるんじゃないですか!!何故圧政を敷くマーサに肩入れをする?それは米軍上層部の総意ですか!?もし、貴方個人の考えなら肩入れを辞めてください。マーサ政権は崩壊します。いえ、私達が止めて見せます。」
「ミスター野崎。実力を考えてくれ。歴史を見てもわかるように幾ら善人の大統領がいた所で軍事力が弱ければ他国から侵略を受けていた。科学の力はモンスターに通用しない。ミスターマーサはモンスターの頂点に立ち、更には我々軍事力すら通用しない。分かるだろ?誰と組むべきか。圧政?ミスターマーサはヒトラー以上に独裁者なのか?違うだろ?まだ民の事を考えている。ちょっと融通が効かないだけだ。」
「本当に人の事を考えて行動する人は、人のレベルを搾取しません。人の記憶を奪ったりしません。マーサはもう俺の知ってるマーサではない。悪魔だ。与するのは辞めてください。お願いします。」
俺は考える。何が全体の為になるのか?
マーサのやり方は見方によっては非道の極みだ。しかし、もしマーサが生優しい偽善者なら福岡のこの地はこんなに復旧が進んでいるのだろうか?
俺は知っている。沖縄の基地での事・・・上司が甘々だったから、上司はモンスターに殺された。
なのに住民達はご飯が不味いだの避難所が暑苦しいだの文句ばっかり言って一向に戦わない。見てるだけなのだ。
最終的に、モンスターの勢いは増していき、巨大なオーガに襲われて避難所は壊滅した。
住民達はちゃんと戦えばスキルを取得し、モンスターと戦う術を手に入れる事が出来たのだ。なのにそれを全て放棄し、安全地帯へと逃げ込み、戦闘は軍人、もしくは自衛隊任せだったのだ。
俺たちのいる地区の生き残りは日に日に減っていき、生き残ったのは俺だけだった。
俺は死にたくないから無我夢中で戦った。
もし、あの時の上司がマーサだったら、俺のいた地区は皆無事だっただろう。死者の中には愛する妻や娘もいる。もうこんな思いをするのはもうごめんだ。
マーサが酷いのではない。この県の皆を守る為、極悪非道を貫いている。人は甘やかしたら動かない。動かなければ、モンスターに殺される。
マーサのやり方は結果的に、沢山の人の命が救われている。
沢山の高レベルの戦士達がここには集まっている。
だから俺はアイツの思想を支持する。
全都市が福岡のようにならばいい。
変わらなければならないのは住民達の方だ。自衛隊がやる。警察がやる。ではないのだ。自分が強くなれ。マーサが嫌ならマーサよりも強くなれ・・・という話だ。この弱肉強食の実力主義文化はある意味、この国の新たな指針になるだろ。
冷酷にならなければ人は戦わない。戦わなければ命は無い。
ならばミスター野崎はマーサの一部しか見ていないのだ。だから俺は言った。
「ミスター野崎。あなたは何故分からないのですか?彼は冷酷なように見えて沢山の人の命を助けている。無線に割り込んで連絡を取ってきたのはマーサからでしたが、魔力体であるモンスターの倒し方の知識から始まり、このモンスターで溢れた最悪の時代を生き延びる術を教えてくれたのは彼でした。住民達の意見はどうあれ、軍の上層部は彼を支持している。彼と敵対するつもりはない。」
「なら私達や新子君達のやる事に手を出さないで欲しい。」
「それは出来ない。何も望まぬ彼の唯一の頼みなんだ。反乱分子、咲羅を捕らえよと。そして、あのモンスターは世に出してはいけないものだと思っている。」
「それは誤解です。元々人間で、マーサにあのような姿にされたのだ。」
「彼は一切やってないと言っている。俺の信じた道を行く。」
そんなやり取りを大分の港でした。
軍に引き渡す事を告げると抵抗はしなかった。
その時は船で逃げる新子君達を流してしまったが、ミスター野崎は踵を返す俺たちを戦ってまで止める気はないようだ。
別府へ移動し、船に乗り、新子君達を追う。
部下のイエラから「そんな事をしてる時間はあるのですか?私達は1ヶ月でこの九州地区全てを人の住める地区にしなければならない。上官にはなんと説明をすれば良いのですか?」と聞かれたる。
「上官には九州地区で最も危険なモンスターを取り逃がした。その追跡をする。と伝えておいてくれ。咲羅というモンスターの危険性についてはすでに上層部へ話を付けている。それに向かう先は福岡だ。行く事は勉強になる。行っておいて損はない。」
と説き伏せた。ミス・イエラが物申す事なんて今まで無かった。その事から、この選択肢で良かったのかと考えるようになったのだ。
そんな出来事もあり、精神的にもモンスターの出現率を見てみても船旅は最悪だった。
それでもなんとか追いついて新子君達の船を包囲した。これが今までの流れである。
「アラン少尉?どうされましたか?」
もう一度同じループを繰り返してようやく部下の声が俺の意識に届いた。
「ああ。制圧したのだろ?よくやった!!」
と、誉めた所で、まさにタイムリーな事に手錠に繋がれた生徒たちが出てくる・・・
泣いている女生徒や、本当に学校の生徒か?って思うような髪の色の男達も出て来る。
「お前ら、学校の生徒たちばかりで肝心のミスター得武とミス咲羅がいないぞ!」
「別行動のようです!!福岡に潜入しているようですが。」
「どんな手段を使っても構わない。聞き出すんだ!!」
「了解です!!」
その俺の指示が聞こえてしまったのか、泣き出す女生徒がいた。
新子君達の船から出てきた生徒たちは一列になって歩かされ軍の船に移されて行く。
それを見ながら・・・突然に横から声を掛けられた。
まるで影のように気配が無かったのた。
「あら、アラン少尉じゃない。」
俺の真横にレディが1人。その後ろにはやる気無さそうに並ぶ人ならざる者3体の姿。
禍々しいオーラを纏うが、腕には隷属の紋章が刻まれており脅威はまるでない。
「貴方は・・・?その姿、その声はモニター越しに拝見していた・・・ミスターマーサの側近、ミス、ライラ!!と・・・魔族達・・・」
「そうよ。この船にはいない。でもこの近くの港のダンジョンに咲羅が潜入したって報告が出たわ。貴方も行く?」
「ああ。もちろんだ。」
新子兄妹よ。お前たちの自由はもうすぐ終わる。
俺たち軍は、次の目的地を門司港に移し陸路を移動する事にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんなアラン少尉の様子を観察する1人の兵士がいた。俺の名前は今は言えない。
「お前、何ぼさっとしている!?早く準備してアラン少尉の元に急がないか!!」
30代ぐらいだろう兵士に怒られる兵士。その兵士はあまりにも若い顔つきで、兵士には見合わぬ華奢な身体だった。
「おじさんは行かないの?」
「おじさん?お前、口の聞き方が変だぞ。お前は誰だ!?」
掴み掛かってくる兵士に対してカウンターとばかりに口を触る。その上官は気を失った。その手には麻酔の効果のある布が握られていた。
「エリシア、やはり俺、変装って無理ないか?」
「いいのよ。正面突破ばかりだとアイテム消費が半端ないでしょう?」
「そうだけど・・・。」
軍服はなんとも慣れない着心地だった。
ラウダは影から笑ってる。
俺は諦めの境地に入っていた。
俺はこの港にワープすると、すぐに軍人1人を眠らせ服を奪った。そして潜入をすること数分、アラン少尉の姿を確認した。だから遠目から観察していたのである。
ライラ達に咲羅が見つかってしまった。
あんなに騒ぎを起こすなって言っておいたのに・・・。そう苛立つ気持ちもあるのだ。でも咲羅の性格を考えると仕方ない事だと諦めの境地に入っている。どんなに忍んでも目立つのだ。
今、夜のネットニュースで話題になっている動画がある。
夜の街を車の天井の上に仁王立ちした女性3人組が街中を堂々と移動している様子だ。
街中のライトに照らされて・・・車がどんなにスピードだしても、どんなにカーブを曲がろうとも表情すら変えず仁王立ちの体制を一切崩さないこの様子に「合成じゃないか?」という話題も上がる程の違和感なのだが、俺は見てすぐにわかった。
咲羅達だと・・・。
存在がもうすでに目立つのである。
ライラとの対戦か。
選挙カーに乗って咲羅の居場所を探っていたぐらいだ。もしかしたら咲羅捕獲にマーサも出てくるかもしれない。そう思ったらここの港の制圧もそんなに時間をかけてられない。
それを全て俺1人でやり切るのだが、今はラウダもいる。エリシアもいるアルちゃんもいる。不思議と不安はない。
俺は軍の船の中に潜入した。
とは言っても一度船の中には別府港で入らせてもらった事がある。
あの時の修復も俺がした。構造は全てわかってるし、クラスメイト達が捕われてる場所もなんとなく予想がつく。
それに霊体のままのアルちゃんが無言でリードしてくれてるのもある。更にはアルちゃんのスキル、気配察知までお借りしているのだから鬼に金棒だ。
俺は堂々と船の中を歩く。
人目の付かないルートを選んでいるが、見つかっても軍服だから違和感ない。
そこで、船内でとある部屋の前に到着した。




