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八十六戦目

ばあちゃんの事もあり気が重い。そればかりを気にしていたら何も出来なくなるような気がして、その事実を意識しないように没頭した。


新しい武器、防具も咲羅、綾香の武器防具の進化素材も準備はオッケー。魔導具に関してはいろいろ試し、失敗作を積み上げた。

ラウダの協力も加わってわずか半日にしてほとんどのタスクを終わらせてしまった。

後は皆と合流して進化素材を合わせるだけだ。


でも俺は考えてもいなかった。まさか、すぐそこに魔の手が迫っているなんて。というのも窓の外からだった。


『新子咲羅!!新子咲羅!!いるのはわかっている。観念して出て来なさい!!私はマーサ。』


外からメガホンを使っているのだろう、大音量でそんな音声が流れる。今が夜の10時という時間にこの大音量で!?って所もツッコミどころなのだが、逆に言えば、この時間に名出しで呼び出される恐怖はなんともいえない経験だ。


マーサと名乗ってけど、まさか本当に本人が来たのか!?影武者なんじゃないかって疑ってしまう。

だから窓の外をそっと見ると、選挙カーに乗って選挙演説をするかのようにマーサがゆっくり市内を巡回していた。


車の中に座るのは間違いなくマーサ本人。エリシアのスキル、鑑定×俺のスキル錬金術鑑定で隈無く見ているから間違いない。


俺のレベルが足りなくて、鑑定も?????ばかりで良く分からない。名前の隣に付いている種族名が気になった。


・・・龍神族・・・


いや、レベル100を越えてる時点で種族のクラスチェンジは終わらせているとは思ってた。ハイヒューマン以上の種族だとは思っていたが、もはや人ですらない。龍の神さまである。そんな人間の成分の欠片もない奴が勇者やってるなんて矛盾を感じてしまう。やはり別人の誰かか?いや、こんなおっかない種族の奴が影武者なんてなんの冗談だよ。絶対本人だろう。


それにばあちゃんと会った時、ブラハム様の最後の記憶を垣間見た。まさにその中に映る人物そのものだった。


その記憶を思い返すと俺の中に怒りが込み上げた。


ブラハム様は無惨に殺された。ばあちゃんも意識が無い。死も同然だ。

咲羅も身体を奪われた。諸悪の根源。アイツはまだ咲羅を追ってる。まるで楽しむかのように。

それでも足りず、学校のみんなも巻き込んで配下にしようとしている。

一体なんだ!!俺たちが何をした!!関わっただけじゃないのか!!


「得武、落ち着いて!!」


エリシアは叫んだが、なんの事か分からない。


「俺は冷静だ。」


こんな状況に追い込んだ張本人がそこにいる。

今飛び出せば間違いなく、タイマンを張れる。間違いなくアイテムボックス内の強力な毒を浴びせられる。

あの車に隕石を落としてしまえ!!そんな戦略を練られる程俺の頭は冷静にフル回転している。

強烈な念に押され、俺はアイテムボックスを開き掛けた。


「どこが冷静よ!!アイテムボックス閉まって!!まだ装備が整ってないじゃない!!」

「得武、俺の目をみろ。」


俺はラウダの目を逸らした。真っ直ぐ見れなかった。視線は窓の外、ラウダに釘付けで・・・


ってあれ?待て待て待て俺。

ブラハム様が勝てなかった相手に装備も不完全でどう戦うんだ!!武器防具が完成するまで待て!!今は機じゃない!!

理性に従い、アイテムボックスを閉じた。


でもその瞬間、なんとも言えない感情に襲われる。


気持ちは今にも殴りに行きたい。上手く殺れ。そうだ。チャンスなんだ。今なら幹部もライラさんもいない。これ以上のチャンスはない。

アイツさえいなければ・・・。

武器が万全ならば。殺せるだけのアイテムが揃っていれば!!このレベル差を埋められるだけの力があれば!!!


この行き場のない感情をどこにぶつければ良い?

この振り上げた拳を理性に従って下ろすと何故だろう・・・何か虚しさと共に大粒の涙が溢れた。


「あれ?俺・・・全然冷静じゃないや。」


それは「ボトボト」っと床を濡らす音で知る。その音により、感情に拍車がかかるようだった。


悔しい。悔しい悔しい!!なんだよ!!俺はこうして息を潜めてアイツが過ぎ去っていくのをただ見てるだけしか出来ないのか!!

なんだよ!!こうなるんだったら昨日のうちから準備しておくんだった。寝る間も惜しんで錬成するんだった。俺はなんでこんなに・・・


地面に伏せていた。気がついたら膝元が濡れていた。両手に力が入りすぎて爪が食い込んでる。


<種族進化、邪神にクラスチェンジする権利を得ました。上のクラスに種族進化をしてミッションに挑戦しよう!!>


こんな時に変な脳内アナウンス出るなよ!!

切れながら確認する。

ヒューマン→邪神


精霊魔道士 レベル70 →?????レベル1



HP 1520 →8000

MP 12000→24000


STR 105 →6000

VIT 105 →8000

INT 800 →18000

MD 750 →16000

DEX 120 → 8500

AGE 120 →10000

LUK300 →1000


<このジョブにチェンジしたらもう人には戻れません。精霊魔道士のジョブが選択不可能になります。精霊の加護、精霊魔法を失います。種族進化しますか?>


種族進化しますか・・・しますか・・・しますか・・・。


延々とその文字が目の前でぐるぐると回っていた。


「ラウダ、行ったか?」

「もう姿は見えないぞ。得武、お前の敵が今わかった。」

「ラウダ。俺はまだ、アイツに勝てない。」

「だろうな。かと言って俺が殺しに行った所でどうにもならなかったかもしれない。」

「ラウダでも手こずるのか?」

「俺は召喚札に込めた魔力が尽きたら元の精霊界に強制送還される。アイツがもし、守りに入ったら・・・殺すまで削り切る自信は無い。そんな相手だった。」



俺の種族進化には二つ選択肢がある。


ネオヒューマンか、邪神か。


ネオヒューマンならレベル99のリミットは外れて次のジョブチェンジで精霊王が選択可能になる、

邪神を選べば、エリシア達は見えなくなり、別のジョブ、錬金王、帝王、ネクロマンサーの選択肢が産まれる。


精霊王を選べば、精霊を無限に仲間にすることが出来る。

その加護によるステータスの上昇は半端ない。

別にステータス欲しくて邪神にする必要なんてないのだろうが。


ラウダと錬金術を共にする。

そこで違和感を感じた。


「ラウダ、錬金術について質問。」

「なんだ?」

「魔素分離、性質変化、圧縮合成ってなんだ?」

「そんな技法はないぞ。何を言ってる?」


無いと言われても・・・。

種族進化・・・邪神、錬金王なら合成可能って文字が浮かんで見えるのだ。不思議な事だった。


そう思っていたらスマホが震えた。


冬月先生からLINEだ。

港で、生徒たちが何者かに襲われたらしい。


なんでこんな時に!!


助けに行きたい!!そんな思いに駆られ、打つと、LINE通話が入って来た。


「冬月先生その件なのですが、今から電車乗って助けに行きます!!」


思いを伝えようとして


「新子君、貴方も綾香さんと同じ事言うのね。でもダメよ。なんの為に福岡に来たの?マーサを止めるんじゃなかったの?」

「そうは言っても、関係ない学校のみんなを巻き込んでしまった。俺の責任だ。」

「学校のみんなも関係なくは無いわ。」

「え?」

「野崎先生経由でライラさんには散々脅されてたわ。私の配下になれって。抵抗してなければ私達も奴隷みたいな扱いだったわ。これでいいの。」

「でも捕まった皆はどうなるか分からないだろ!!」

「捕まった相手がマーサなら、炭鉱送り、アラン少尉なら収容所かしら?どちらにしろ、貞操を失うようなゲスい事にはならないでしょう。」

「本当ですか?」

「マーサぶっ飛ばして、全て終わらせてから皆を助けましょう。本当は野崎先生本人がマーサをぶっ飛ばしたかったみたいだけどね。」

「そうですか。」

「そっちに帰るわね。顔合わせて作戦練りましょう。」


冬月先生は待った無しの勢いで一方的に通話を切った。

でもその意見に同意した訳ではない。


皆を待ってるほど俺は出来た男じゃない。「一刻も早く助けなければ!!」とそんな衝動に駆られて居ても立っても居られない。俺は即座に作ったアイテムの数々をアイテムボックスに仕舞い助けに行く準備をする。それを見ていたラウダが


「得武。送ろうか?」


とそう提案する。


「送る?非常事態なんだ!!仲良しこよしの送迎はいいよ。」

「馬鹿。俺の魔術で転送してやるって言ってるんだ。電車乗って港に行ってたら手遅れになっちまうだろ?」

「あ・・・そういう事か!!ってラウダ・・・魔術使えたんだな。」

「一体俺をなんだと思ってるんだ?錬金術師じゃないんだぞ。」

「助かる。」


ラウダは一体なんで仲間の船がある場所を知っているのだろうか・・・。そんな疑問も脳裏をよぎるが、そんな事突っ込んでいる時間はない。

転移魔術・・・足元に魔法陣が現れ・・・視界が瞬時に切り替わる。




潮の香り。夜の港は潮風で肌寒かった。

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