八十五戦目
戦闘する前に、私は囚人達を逃すべく退路を作る。
そしてアクエリアに案内をお願いした。
私の眷属なので、どこに逃すかは知っている。
被害が及ばないように私は壁になるつもりで敵の前に立ち塞がった。そうしながらキイチと寧々に指示を送ろうとしたのだが、
「コイツら、ぶっ飛ばせばいいんだな!!おいおい、俺の獲物の魔族がいるじゃねぇか!!俺の経験値になれ!!」
説明はいらなかった。好戦的なキイチは勝手に突撃して魔族にスキルをぶっ放す。
危険を感じた魔族のボスが身を引く。腕が千切れた。魔族の側近達がキイチへと魔術をぶっ放してくる!!
紙防御なキイチ、直撃したらまずい!!そう危機を感じて私はキイチの元へ飛んで行こうとするが・・・心配ひ無用だった。寧々のスキルだろう悪魔召喚で現れたガイコツ達がキイチの盾となり立ち塞がる。
「ハッハッハ!!弱い弱い弱い弱い!!!!」
魔族全員を相手取っているのに、全く怖気付かないキイチ。妙なテンションで余裕でキイチが無双していく。
キイチのスキルは空間切断だ。このスキル発動の気配を探知出来なければ防御力無視の絶対切断が待っている。この少年は火力チートである。
更にいえば、2発同士発動。遅延発動。いろんな方法を持ってスキルを使用するもんだから魔族全員近寄る事すら出来ずに切断されている。
されたそばから魔力で自己再生しているのだが魔族は驚いている。
キイチ強すぎ。
それでもって妹の寧々は吸血鬼化している。悪魔やデーモンを召喚するが、その召喚悪魔の質も前に対戦した時よりも上がっている。
上級悪魔達が肉の壁になる。悪魔なので何かしらの魔法で受けたダメージを反射している。倒されても無限に召喚する気概を寧々から感じる。
猿達の相手は周りの兵士達である。レベル200を超え、更に種族進化を何回か済ませている猿達は単体でもボスレベルで強い。兵士達はなすすべもなく蹂躙されていく。
ボス猿カルンデは見てるだけ。私も見てるだけ。その図式が完成している。
イエラさんとレイチェルの戦いは互角。
アラン少尉とブルーノの戦いは。
アラン少尉が有利だ。アラン少尉はカナンを発動したいた。姿が変化している。
「ボス達を解放しろ!!奴隷にするとか卑怯だぞ!!」
「何をいう魔族。お前らも同じ事するだろう!!」
ドラゴンになったアラン少尉は本気で手をつけられない。ブルーノの爪が通用していないのだ。
もう見てられない。私が行く!!
スキル剛力を発動!!私はアラン少尉の背後に回り込み、そのドラゴンになった巨体を・・・
「豪気絶影!!」
私は跳ねた!!敵の死角から渾身の魔力を込めて剣を振り下ろす。
首の皮膚を抉るはずだった。目の前に現れた影の剣がそれを遮る。空中で弾かれた為、体制を整えながら着地する。相手も着地しただろう・・・私の剣技を受け止めた影の正体は一体誰だろう?
私は顔を上げた。
「久しぶりね咲羅。会いたかったわ。スライムになって益々活躍しているようね。」
そこに立つのは私の身体を奪った・・・契約の元、私を嵌めたライラだった。
「久しぶりですライラさん。私を嵌めた理由くせによく言いますね。私も好きでスライムの体操ってる訳じゃないんですよ!!」
私は剣を振り抜く。しかし霞のように消えるライラ。
ライラの本職は斥候及び、アサシンだ。不意打ち、暗殺こそ得意とするが向かい合って斬り合う事を得意とはしない。
・・・筈だった。
私は駆けた!!
だが、ライラの方が早い。背後を取ったつもりなのに逆に背後を取られていた。勘と剣聖のジョブ技術で攻撃を受け切り、私の戦いやすいポジションに移動するが、ライラさんはそれをさせてくれない。
私より短い短剣を、振るうライラさん。
リーチで勝っている私の方が有利かと思うかもしれないがライラさんの間合いは拳が届きそうな距離感。剣を振るう私に取って近すぎて逆にやりづらいのだ。
「嵌めたって酷い。裏切ったのは貴方じゃない。」
とニヤリと笑うのを見逃さなかった。
「あんな奴隷契約聞いてないし。石になった私の身体、返して貰えますか?」
私が一回振るまでにアイツは二回攻撃出来る。足を使って躱すしかない。そしてスキがない。
いつからこんなにステータスに開きが出たのだろう。
私ほ身体能力向上の魔術を強めた。そしてライラの攻撃を躱す。
不意にライラさんの振るう剣に独特なスキルを感知した。
刀で受けてはいけない。ライラの振る短剣の一撃一撃に麻痺の魔法、毒の魔法、精神汚染のスキルが込められている。
右、左、下段、払い上げ!!
全ての攻撃に対応する。フェイントも含めてきっちり対応。するが・・・
「あら、記憶を奪っておいたのにそんな事まで思い出してるのね。大変。また記憶を消しとかないと。」
そう言って汎用スキルを連発!!
単発のアクションスキルは初級レベルの比較的弱いスキルが多いのだが、ステータスが育ったライラさんが使うと、初級スキルも一撃一撃がボスの最後の一撃みたいに鋭い!!
対応しようにも早すぎる!!見切るのに五感を酷使し、特に目が死ぬほど痛い。フル回転しているため脳みそ熱を持つ。焼き切れそうに熱くて死にそうだ!!
「ちっ!!」
思わず私は舌打ちしてしまう。回避した際段差に足を掬われ、攻撃を剣で受けてしまった。
そのまま鍔迫り合いになるが、これが厄介だ。「スタンエッジ」という麻痺属性の攻撃だ。
麻痺しても、私はまだ負けていない!!
私のミニバックに忍ばせておいた万能薬が勝手に身体内部に浸透していく。
そうだった。得武兄のアイテムは勝手に発動するのだった。
「あら。面白いアイテムね。私のスキルが無意味じゃない。」
ライラさんの余裕の表情は崩れない。何故か・・・
私は違和感に気付く。刀を合わせている今、現在進行形でMPがゴリゴリに削られている。いや吸い取られていると言った方が正しい表現だろう。
まるで私のスキル・・・マジックドレインだ。
そういえばあの刀、私の刀に似ている。似ているというより・・・まさか!!
そう思った瞬間、おかしなものを見た。
「カタスエクスプロージョン!!」
私の十八番をまさかライラが使うなんて!!叡智展開!!魔導障壁発動!!
黒い炎の大爆発が巻き起こった。
障壁の透明な壁がまるでビニールハウスをバーナーで炙るかのように溶かされていく。まるで時間稼ぎにしかなっていない。
直撃を回避すべく、転がるように移動した。軽く咳込む。
私は息を切らしている。いや、一酸化炭素を吸い込みすぎたか?
あの刀が魔女の鎌なのはわかった。でもスキルが伴わなければ使うことは出来ないスキル、何故ライラが使う?と、思ったら、
「ホーリージャッジメント!!」
空から大量の光の柱が降ってくる!!
「アクア!!」
何故咄嗟にこんな事が出来たのか不明だ。気がついたら水を頭上に展開し、光の屈折を利用し曲げていた。地面に当たり、白い炎が燃え広がる。
直撃していたら間違いなく死んでいた。
「なんで私のスキルを何故貴方が?」
「スキルドレインって知ってる?マーサのスキル。」
「私の身体から抜き取ったというのね!、」
「そういうこと。」
ライラさんの刀が黄金に光る。私は思わず後ずさってしまった。
あの輝きはアーティファクトレベル5か?
やばい。この刀じゃ受け止められない!!
・・・でもこの展開って最近どこかで経験した事あったよね。
それはブラハム様の模擬戦の時の話・・・
ブラハム様ってアーティファクトレベル10まで使うんだよ。あれは反則だったな。どうやって対処したっけ?
叡智フル回転してシールド展開して。
それでは軌道を逸らすだけになってしまう。あの圧倒的な魔力の本流。あれをどうにかしなければいけないんだ。
何をして打ち破ったんだっけ?
アーティファクトは魔力によって武器の攻撃力を上げるスキル。
魔力が媒体となる。この魔力をどうにかすれば良いのだから・・・
思い出せ思い出せ思い出せ私!!
ブラハム戦、その後どうなった!?1回かすり傷を与えたあの一戦を忘れたか?
「身体能力支援魔法、筋力極振り!!豪気!!呪撃!!そして。」
私の身体に、武器に盛れるエンチャント魔術は全てやれ!!
そして、アーティファクト・・・そのスキルを叡智によって解析。
「あら、そんな微々たる支援魔法で何するつもり?抵抗出来ると思ってる?」
「ええ。」
「そう。じゃあ砕け散りなさい。」
巨大な鎌が振り下ろされた。そこに多重展開した私の魔術を合わせる。
「遅延魔法・・・ディライト。」
触れた魔法の発動を1秒間無効にする。
1秒間、ただの斬撃だ。そこに私の全魔力を込めた一撃を見舞う!!それだけだ。
ライラの斬撃を弾ければ、軌道は逸れて魔力の塊は遥か上空へ飛んでいく筈だ。筈なのだが・・・
(重い!!弾けろぉぉ!!!!!)
力は拮抗・・・ライラの足元に体当たりする結果となり、背後の地面が強烈に弾けた!!
「何を・・・したの?」
私は・・・地面に顔をつけていた。指はピクリとも動かない。私の残りHPも10以下だ。・・・負けたのだ。こんなにあっさり負けるなんて。私は今まで何をして来たのか。
休みがなかった?連戦で疲れていた?言い訳にならない。
本当に悔しかった。再戦出来るのであれば、次は負けない。絶対に負けるもんか!!
「見てられないべな。」
「貸しやぞ。」
そんな声が聞こえた。なんか優しい空気に包まれた。
モンスターが溢れた世界になって、私以外モンスターを倒す人がいなかった。私が強くなければいけなかった。私が誰かを頼るなんてあっただろうか?得武兄以外で出来た事ってない。
なのに・・・なんだろうこの優しい感覚は・・・。
これが仲間を持つって事なのだろうか。1人で戦っている訳じゃない。私は少し嬉しく感じた。
激しい地響きが聞こえる何が起きているのだろう。開かない目で、朦朧とした意識で、大地震とか火山噴火とか大洪水とか。天変地異の中心に飛び込んだような感覚の中をしばらく漂う。
人肌の確かな温もりを感じながら。
・・・・・・・・・・・・
「はっ!!」
「強烈な精神汚染に当てられたべさ。もう少し寝るべな。」
この強烈な訛りはナツメさんか。
よく見たら薄暗いが家の中だ。
ボロボロだが。
「安心するべ。ここはアタイらの拠点。敵は相当傷みつけてやった。ユウタロウが疲労困憊だべ。」
「起きたかこの雑魚。雑魚雑魚ザーコ。速攻でやられてやんの。」
この生意気なのはキイチか。相変わらず口が悪い。
「どうなったの?」
「俺が無双した。」
キイチが胸を張る。本当かな?
「疑うようだが、魔族3人、あとレッドドラゴンをこの子が倒したべ。
それは凄い。
ブルーノ、レイチェルは気を失っていた。猿軍団もしんどそうだしボスに至っては気を失っていた。
何故ライラから逃げ切る事が出来たのか?
ユウタロウとナツメさんの2人はあのライラさんに匹敵するほどの実力者だったのだろうか?
正直な話、あの時ライラは実力をまだまだ隠していた。正直な話、今この勢力全員が束になって掛かったところで倒せる相手じゃない事は分かる。
あの強さは異次元だ。一体私が気絶している間に何が起こったのか?
「そうだ!!仲間を助けなきゃいけないんだ!!」
LINEの内容を察するに港に待機していた仲間が敵に囚われたのだ。助けに行かないといけない。いけないのに私、身体が重くて動かない。
「動け!!動け私の身体!!」
「咲羅ちゃん、無理するなっぺ。全て終わったから。安心するべさ。」
「全て終わった?」
すると、目の前に翼の生えた精霊が現れた。いや、私寝ぼけているのだろうか。エリシアにそっくりの精霊だ。でもエリシアって普段半透明でよく見えずらい存在のはずだしこんなくっきりと見えるなんて目の異常。
というか、得武兄と拠点で武器製作に取り組んでいた筈では?
「咲羅!!起きたわね。あんたの武器の進化先で相談があるんだけど・・・。」
「ちょっと待って、エリシアなんでここにいるの?私の武器の改造なんて今する話?もう終わったってどういう事!?というか半透明じゃないエリシアって何?」
「実体化してるのよ!!というか本気で貴方死ぬ事だったのよ。感謝しなさいよ。」
「それは誰に??・・・ユウタロウさん達に?」
「それもそうだけど・・・。」
エリシアは見つめる視線の先に・・・朝日が眩しい!!逆光で良く姿が見えないな。
でも願ってしまう。もしここに得武兄が居てくれたらどんなに嬉しいかって・・・
「咲羅!!」
ほら思ったら幻聴が・・・聴こえてきたみたいだった。




