八十二戦目
刑務所の中、警察官と事を交えたく無い為私は極力気配を絶ち中へ潜入したのだが・・・気配を絶った意味ってあったのだろうか?
中は警察官は一切おらずモンスター達に守られていた。国の所有物が完全にマーサのいいように使われているこの事実。
傲慢というか、独占欲が強いというか・・・
私はため息をつきそうになった。
私は鞄の中からペットボトルに入ったダンジョン除草剤を取り出して撒く。
監視のモンスターがダンジョンの床に溶け、1人残らず消えていった。残るのは魔石のみ・・・
「何故?どうなってる?」
静寂を破るように部屋の奥から幹部の溝口さんの動揺する声が響いた。
声を頼りに廊下をすり足で走り、私達は気配を消したまま溝口さんがいるであろう奥の部屋へ移動。部屋の前で待機。
不意に・・・索敵スキルだろうか?私は魔力を感知した。
「なっ!!」
これは・・・私達に気付いた声。でももう遅い。私は剣を振り上げドアを蹴破る!!
「ゲート。」
私が飛び掛かるより先にレイチェルがスキルを放った。何万本ものナイフが男を八つ裂きにする。抵抗したのであろう結界というかバリアというか・・・ズタズタに切り裂かれ割れていた。破るまでの時間は一瞬の出来事で、魔族相手に普通の結界など無いに等しい。声を上げる暇も無かったというのはこの事だろう。
「殺すのはダメよ。」
ほっといたら1分以内に出血多量で死ぬ。得武兄の回復薬で気絶した溝口さんを回復させてあげた。ショック死はしていない様子で一安心だ。
受付カウンターの椅子に座らせて、居眠りを装う・・・。
「血まみれだから意味ねぇよ。」
とレイチェルが突っ込むもんだから軽く血を拭っておいた。これでよし。
私達はコンクリートの無骨な内装の通路を進み、階段を降りて地下へと足を進める。
長い廊下に部屋が軒を連ねている。地下牢という奴か?
AからMまでのアルファベット順で部屋が割り振られている。地下の鉄格子の部屋、一部屋あたり4人の囚人達が捕らえられていた。空き部屋無ければ48人か?
「貴方達は一体なんの罪で捕らえられてるの?」
適当な部屋・・・Bの部屋の前に立ち、そこの囚人達に聞く。
「マーサ達に逆らっただけで俺たちは牢獄行きさ。アイツは反対意見なんか聞こうとしない!独裁者だ。」
「可哀想に。私も逆らっただけで身体奪われちゃったよ。だからほら、スライムなの。」
と言ってフードを取る。緑色の素肌が見えるので、囚人達みんな引いていた。「私もこうなるのね〜!!」なんて泣き出す女性もいた。
あ、あの・・・脅かすつもりは無かったんだけど・・・。私は慌ててフードを被る。すると囚人の1人から労いの言葉をもらう。
「あんたも大変だな。」
「脅かすつもりは無かったんです。ごめんなさい。」
「いや、いいさ。マーサの非道っぷりはよくわかった。」
囚人達は皆大きく頷く。
「みんなに聞きたい。炭鉱ってどこ?」
「門○港レトロ地下にダンジョンが広がっている。私達、そこで毎日毎日同じように魔鉱石を取らされてるの。」
「そうなの?本当に可哀想・・・解放してあげる。そのかわりちょっと案内してよ。」
と言って私は剣を抜いた。
「へ!?」
どよめく囚人達をよそに魔力と気をほどよく混ぜ・・・振り抜く!!
それは音もなく衝撃波は飛んだ!!
厚い壁は人が倒れるだけのサイズに切断され、1立方センチメートルのブロック片が地面に落下。「ドスン!!」と重たい音を立て、地面を揺らす。そして納刀して、
「さ、みんな自由よ。」
と声をかける。みんな、ボケーっと口を開けてブロック片を見つめている。
「この壁は、俺たちがどんなスキル持ちが全力でスキルぶっ放しても壊れなかった魔鋼石なのに!?君のレベルは一体!?」
答えようとして・・・
「咲羅!!ばさっとしてると監視が戻って来ちまうぞ!!やるなら徹底的に暴れろ!!」
とレイチェルの声。監視?溝口って言う幹部は気絶してるはず・・・。
そう思ったが、確かに人間の気配が複数近付いて来てる。この刑務所の常駐さんだろうか?
凄い音したもんね・・・。
「わかってるわよ!!」
すると、「咲羅?死んだはずじゃなかったの!?」「新子咲羅さんの事!?福岡攻略者ランキング元一位の!?」「なるほど。咲羅さんレベルなら誰にも切れない魔鉱石を両断出来ると・・・」なんて驚きの声を上げる。
レイチェルが「咲羅」って名出しで呼ぶから囚人達が思い思いに騒いでいる。一気に話題の人に・・・
ああ、なんか恥ずかしい・・・。というかやかましいわ!!
その恥じらいエネルギーは収容所の壁を壊すのに大いに役立った。
「みんな壁から離れて!!監視が近寄って来てるみたいだしお忍び終了!!思いっきり行くよ!!」
アーティファクトレベル3!!
魔力がごっそり抜け落ちる気がするが・・・魔力を帯びた剣が鉄格子を豆腐を調理するかのように切り落として行く。
その最中、牢獄の中の様子が目に入ったのだが、昔ならまだ百歩譲って許されたのだろうが現在にこんな劣悪な環境が残っていたのはショックだった。
牢獄の中は部屋の中央に便器がある・・・蝿が飛び回り精神衛生上最悪の環境だった。
よくこんな環境を用意したなと・・・私の中でマーサとライラの株は大暴落。もうここまでくると嫌悪しかない。
追っ手がそこまで来ていたが、イライラを天井にぶつける。切り伏せ、通路を塞いでやった。
「最悪な環境だったみたいね。」
「マーサが廃墟だった昔の牢獄を再生させたのさ。」
そんな事を囚人達は言ってたっけ?
その囚人達を引き連れて堂々と脱獄。徒歩でその炭鉱へと向かう。
歩く事30分・・・私達は港に到着した。
地図上では、私達の船と割と近い位置に面していた。
暗闇の中、オレンジ色の暖かい光が灯されている。
この街並み、タイムスリップしたような感覚に襲われる。昔、ノスタルジーというのかな新鮮であり懐かしく感じるような不思議さがある。
昭和?もっと前、大正時代の街並みだ。昔の港街はこんな感じだったのかと思う。
洋館のような造りだった。
「皆さん、道案内ありがとう。」
というと、「逃してくれてありがとう!!」「これぐらいお安い御用だ。」「どういたしまして」とさまざまな返事をくれた。
「ちなみにボス部屋って地下何階層?」
「地下15階層って言われてます。」
「ありがとう。一晩で行けるかしら。」
「もしかして攻略するんですか?もうすでに攻略されているダンジョンなのに、なんのためにするのですか?」
「知ったら私の仲間だよね。引き返せないよ。」
知ったらマーサから追求が酷いことになる。だから線引きって大事だよね。もしマーサに再び捕まって私達の目的聞かれたら元も子もないし。
「いえ、なんでもないです。」
「それがいいと思う。もうマーサ達に捕まらないでね。」
「ありがとうございます。では、気をつけてください。」
囚人達に手を振った。皆と別れた後はダンジョン攻略に頭を切り替える。洋館に突入だ。
中に入ると空気か変わった。重く、冷たく、なにか身体に纏わりついてくる感覚がある。
高ランクダンジョン特有の倦怠感だ。
私は思い出す。
このダンジョン除草剤はDランクダンジョンまでしか効果がない訳では無い。
Cランク以上のダンジョンでも枯らす事は出来る。
でもそれは、ダンジョン最深部・・・ダンジョンコアに直接この液体を流し込む事で可能になる。
それはもう、ダンジョン攻略と同じ事だった。
「咲羅、お前って怖い者知らずだよな。」
レイチェルに言われる。
「やる事は変わらないわ。一つでも多くダンジョンを削る。マーサを弱体化させる。」
「少しはビビれよ。Aランクダンジョンだぞ。」
「そういう貴方達も楽しそうじゃない。」
「今までダンジョンを守る側だったからな。攻略する側は初めてなんだ。ワクワクしてる。」
ダンジョン攻略を目指すとして、それとは別にもう一つの目的がある。Aランクダンジョンなら幹部クラスが潜んでいるはず。出来ればライラに会いたい。会えなくても居場所が分かれば良し。
このダンジョンアタックで決着を付けれたら大金星だが、ピンポイントでライラの居場所を引き当てられる訳もない、もし空振りでもAランクダンジョン程のものなら無くなった時、マーサにとってロスも多い。
レベル1000あるうちの半分ぐらいはダンジョンマスターボーナスだろう。Aランクダンジョン1つ消せば50くらいは下がるかな。
そもそも自力で500まであげられるのかも怪しい話だ。
レベル50以上離れた敵を倒しても経験値が入らないからだ。
「なら行くわよ。」
私達は突撃した。
ダンジョン内は地下に想像以上に巨大な空間が広がっていた。
まさに崖。そこから見下ろすと炭鉱の人々の暮らしが広がっていた。
地下何百メートルもの空洞が逆円錐状に伸びている。
ランタンの火が等間隔に並べられている。壁面に安定した足場があるのだろう。うっすらと見えるのは壁面を掘り続ける人の数々。
そのほかに、ダンジョンの壁の至る所に青白く光る岩がいろんな場所に散らばっておりダンジョン内はむしろ明るかった。
ダイブしたら地下15階層まで直で行けそうだなと頭によぎる。このステータスならいけない訳ではないのだが絶対に目立つ事間違い無しだ。自重して省略せず自力で階段を降りる。
中央に開いた巨大な空間とは別に、下の階に降りれる階段があるみたいだ。降りていると炭鉱労働者とすれ違う。皆、鎖に繋がれていた。死んだ目をしながら掘っている。
よく見ると獅子顔、首から下は細マッチョの半人モンスターが監視している。こんなモンスター、ゲームの中でも見た事ない。
「アイツらは合成魔獣よ。二つ以上のモンスターを掛け合わせた人工魔獣なの。異世界でもこんな実験する馬鹿いたわ・・・。この手の研究者って大抵事故死するのよ。」
ブルーノはふふっと笑う。そのフラグ通り自滅してくれたらどんなに楽なのだろうか・・・。
見つかったら面倒臭そうなので、その監視に見つからないように移動する。
監視がやたらと多いからなかなか進めない。でもその中で一つの法則を見つけた。
10人1組で掘り進め、1グループにつき獅子顔のモンスターが1人着く。
労働者は黙々と働く。たまに「こんな素人メンバーでこのノルマはエグすぎる!!チーム替えを要求する!!」と発狂する労働者がいる。
その労働者は獅子顔のモンスターに鞭打ちをされるのだ。
鞭も鞭で、先端に剃刀みたいな鋭利な刃が付いており、確実に肉を抉る。血が飛び散りやすくして、周りの反抗心を削ぐ作戦か?気分が悪い。
でも仲間の不平不満を漏らしたこの囚人も悪い。自分が楽したい気持ちが全面に現れてる。自業自得とは言わないが助ける気にはなれない。
「これはダンジョンというより、地底都市ね。」
とブルーノが呟く。レイチェルが周りを見渡しながら嘆く。
「こんなに穴だらけにされてダンジョンが可哀想だ。」
「全くよ。人間はダンジョンを資源としか見てないのかしら?」
2人の会話から察するに魔族ってダンジョンファーストなの?考える視点がズレてる気がする・・・。気にしても仕方ないか。
「監視に見つかるから黙って。」
「咲羅、なにレベル150如きの雑魚にびびってる。声も上げれぬ程一瞬で狩らばいい。」
有言実行・・・ブルーノとレイチェルは動いた。
影のように消えたと思ったら獅子顔のモンスターの背後に立ち、首を爪で刈り取り口を塞ぐ。
無防備になった獅子顔モンスターの身体の核をレイチェルが爪で抉り取る。
「こんな感じで。」
確かに断末魔は上がらない。私がやったら演出が派手できっとこれでもかってぐらい大きな声を上げさせてしまう。
「スムーズね。私は目立つの専門だから監視の処理はアンタ達に任せるわ。」
別に謙遜しろとは言わないけど。はっきりうなづく2人。なんかムカつく。そんな私の気も知らず、
「目立つ専門って最高の自己分析だな。」
「はいはい、レイチェル、こんな所で茶化さない。咲羅が切れたらそれこそ目立つわ。」
「ははっ。笑えねぇ冗談だ。」
と言いたい放題だ。無視だ無視。私は倒した魔物の魔石は回収し、ダンジョンの奥へと足を進める。
いつからだろう気配がする。
私達が2歩歩けば背後の気配も2歩歩く。私達が止まれば背後の気配も止まる。均等な距離感で追跡されている。
一体どこの誰!?
二人組で、更に強いのが気配でわかる。
戦闘になったら面倒臭い。足場が不安定な場所しかないため広い場所に出たいのだが・・・。警戒しながら歩く。でも1階、2階と足を奥へと進めるが不思議な事に一向に私を攻撃して来ない。なんのつもりだろうか?知らないふりをしよう。
何回目か、監視にブルーノがよく斬れる爪を振るった時だった。首を落とす瞬間を炭鉱労働者に見られた。
「君達は一体誰なんだ!?そんな事してここから逃げれると思ってるのか?」
私の事を炭鉱労働者だと勘違いしてるのだろうか?
見られた事を良しとしないブルーノは殺気を込めて労働者を睨む。私は慌てて前に出た。出た事でブルーノは「ふん」とそっぽを向いて爪を仕舞う。
「炭鉱労働者さん?えっと、私は労働者じゃないわ。逃げるなんてとんでもない。むしろここを攻略しに来たのよ。逆になんでアンタ達は抵抗しないの?レベル高いんでしょう?力合わせれば監視1人ぐらい余裕じゃないの?ノルマノルマで疲弊してるなら。脱出すればいいじゃない。」
「無理だ。ボスが出てくる。どんなに頑張っても勝てないんだ。」
「ボスね。いい事聞いたわ。ありがとう。」
「おい!!俺たちはどうすればいい?監視がいなければ誰に成果を報告すればいい?」
「逃げ出せばいいじゃないの。なんでこの環境にこだわるのよ。」
「だから無理なんだって。」
なんか話してても埒が開かない気がして来た。呆れ果てた私は
「勝手にしなさい。」
そう突き放して先に進んだ。
更に進むと何度か囚人達と話すタイミングがあった。ここの現状をまとめよう・・・
この炭鉱の皆にはノルマがある。
ノルマをこなさなければ刑期が短くならない。かつ、ご飯が少なくなる。
ノルマをたくさんこなすと逆にボーナスが出る。酒、おつまみ、娯楽。なんでもあり。
労働者同士、その娯楽に染まりきり、刑期短縮をかけ、麻雀をやってるらしい。
こんな地獄の中の地獄でなにをやっているのだか。呆れる限りである。
情報収集をしながら地下へ地下へと進んで行く。結構な時間潜っただろうか、底が見えてきた。
その数、10階層降りたのだろう。
ついに監視のグレートがアップした。獅子顔のモンスターが銀獅子に変化した。なんとゴージャス!!色だけじゃなくて強さもグレートアップしてるんだろうけど、瞬速で首を刈り取ってしまうとその実力が分からない。レイチェル、流石魔族と言える。
私達は地底の開けた場所に出た。
さあ、追跡者よ、どう出る?




